文・絵:すがのたすく

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ミドルフェイズ


■ミドル01 渦巻く策謀  ――――シーンプレイヤー:鳥居耀蔵

 黒衣衆総司令・花井虎一の学問所が何者かの襲撃を受けた。
 江戸に現れた高野長英、水面下で策謀を続ける赤墨の妙――――。
 江戸へ帰還した鳥居はその足で、事の対処に当たるために動きはじめた。


GM:ではミドルフェイズだ。最初のシーンプレイヤーは鳥居耀蔵。江戸に帰ってきた鳥居が全員を集めて相談、というシーンにしたいんだけど、どうかしら?
耀蔵:うむ、黒衣衆が集うのであれば、秋葉原屋敷の書斎にするか。
軋羽:いつものたまり場だね。
寅三郎:襲撃を受けたという花井様は無事なのか?
GM:まずはそこから話しますね。

 花井虎一は診療所へと運び込まれ、かろうじて一命を取りとめた。
 襲撃を受けた学問所には少なからぬ数の護衛が配置されていたが、護衛の中に襲撃者側へと寝返った者が発生したために被害が拡大したという。
 事件後、捕縛された造反者たちは一様に記憶をなくしており、また、襲撃の際には彼らから赤墨が立ち上っていたとの目撃報告が上がっていた。


軋羽:ぐぬぬ……やっぱり妙かー。
耀蔵:手口はほぼ、前回の奉行所七十八人殺しと一緒だな。
寅三郎:しかし、これで江戸天狗衆と仕置人の頭である本庄に続いて、黒衣衆の総司令が消えたわけか……。
耀蔵:状況は厳しいな。では、石蕗からそのような報告を受けていよう。
寅三郎:は、では登場します。「――――と、いう様子でございます」
軋羽:あたいも登場するよ。「なんてことだい、花井様まで……」
耀蔵:「捕縛した者たちについてはしばらく様子を見ろ。赤墨が既に憑いておらぬのであれば、解放して調査人員に回せ。いかんせん手駒が足りぬ」
寅三郎:「赤墨使いの妙。この件もあの女が関わっていると見て間違いありますまい」
耀蔵:「で、あろうな。そして先の事件での言動から見るに、あやつは幕閣の上層部の命を受けている」
寅三郎:「ご命令をいただければ、幕閣だろうがなんだろうが自分がやりますよ」
耀蔵:「しかし、なにぶんまだ相手がわからぬのでな」
軋羽:ううっ、やりづらい……。
亜弥:軋羽さんの顔が気まずそう(笑)。
軋羽:敵の黒幕が大久保様だってこと、この場であたいは言うべきなのか……どうしよう……。
耀蔵:「妙は自らの主を、“全ての妖異を総べる者”と称していた。黒幕が妖異であるのは間違いあるまい。詳しく調査をせねばならん。……して石蕗、尋ねるが」
寅三郎:「は」
耀蔵:「花井を襲った者の中に高野長英はいたか?」
寅三郎:「高野? いえ、それは存じませんが……」
耀蔵:「ずっと行方知れずであったが、この近くに姿を見せていたようだ。無関係と考えるにはタイミングが悪すぎる」
亜弥:あ、長兄ちゃんの話になったとこで、あたしも登場したいです!
GM:ほいほい、このシーンは登場難易度はなしだよ。カモーン。
亜弥:じゃあ、「遅くなりました!」って襖を開けるんだけど、長兄ちゃんの名前が聞こえてビクッて立ち止まります。

 襖を開きかけた亜弥の手が止まった。
 「高野……って、長兄ちゃん……?」


亜弥:鬼灯を抱えたまま、襖の前で入ろうかどうしようか迷ってる。
寅三郎:じゃあその姿を見咎めよう。「亜弥、何をしている。さっさと入れ」
亜弥:「は、はい……!」鬼灯は部屋の外の縁側に置いといて、軋羽さんの横に正座します(ちょこん)。
軋羽:「亜弥、随分と遅かったじゃないか」
亜弥:「芝まで鬼灯買いに行ってたの」って答えてから鳥居様を見て、「……お帰りなさい」
耀蔵:「息災か?」
亜弥:「はい」
耀蔵:「そなたが事件に巻き込まれておらずなによりだ。して、話を戻そう。高野の件だが――――」
亜弥:う……っ。(気まずそうな顔)
GM:亜弥の顔まで(笑)。
軋羽:あはは(笑)。あたしは大久保様から話がそれたのでホッとしちゃうね。「鳥居様、高野長英とはどのような人物なのですか?」
耀蔵:「高野長英はかつてわしが蛮社の獄で訴追した蘭学者だ。優秀であったが思い込みが激しくてな。部下になれと言ったが、こちらの話もろくに聞かなんだ」
寅三郎:「奴ならば、鳥居様に恨みを成す動機は十分にありますな」
耀蔵:「あれは優秀な人材だ。生き残っていたという点では喜ばしいが、もし敵に回ったとあれば話が違う」
亜弥:「長兄ちゃ……高野長英が花井さんの襲撃に加わっていたっていうのはほんとですか?」
耀蔵:「いや、確実であるのは赤墨の妙の関与だけだ。あくまで高野に関しては可能性の段階だ。詳細は調べねばならん」
寅三郎:だが花井様は高野たちから鳥居様へ寝返った張本人だからな。高野が江戸に現れて蛮社の獄の裏切り者が死にかけたら、まー高野が動いてるんじゃね? ってなるよな。
耀蔵:「逆恨みか……いや、彼らからしてみれば、正当な復讐であろう」
寅三郎:「まあ、黒衣衆の総帥であるから花井様を狙ったのか、それともかつての恨みがあるから花井様を狙ったのか。それによっても容疑者が変わってきますな」
軋羽:(苦々しい顔で)妙の奴め……。いや、それより大久保様は高野長英とも手を組んでいるのか……?
亜弥:あたしも悶々と考えちゃう。長兄ちゃんが、まさか……。

 亜弥の知る高野長英は、兄の優しい友人であった。
 蘭学者の集まる尚歯会ではとても偉い人物のようだったが、彼がどのような研究を成していたか、なぜ鳥居に訴追されたのか難しいことはわからなかったし、兄も語らなかった。
 知っているのは、時折やってきては遊んでくれる優しい顔だけ。


亜弥:ううっ、やっぱり言わなきゃ……!(顔を上げて)「あの人は……長兄ちゃんは、花井さんを殺そうとしたり、妙みたいな奴と手を組んだりするような人じゃないです!」
軋羽:「え!? 亜弥、あんた高野長英のことを知っているのかい?」
耀蔵:「ふむ……。もしや、そなたの兄の繋がりか?」
亜弥:「はい、兄ちゃんの友達で、昔はいっぱい遊んでもらったんです。長兄ちゃんは偉そうだけどとっても優しくて、いっつも面白い発明品とか玩具持ってきてくれて、蘭学に誇りを持ってて……。だから、妖異と手を組んだりなんかしないと思います」
耀蔵:「高野長英個人の人となりについては、わしもそれほど詳しくはない。……だがな、亜弥。人はいかようにも変わる」
亜弥:うーん、さっき会った感じだと、あんまり変わってないような気もするけど(笑)。
軋羽:(高野長英になって)「亜弥ー元気だったかー? はっはーそうかそうかーこの大天才高野長英様を待っていてくれたんだなー!」
亜弥:うっ、うん、そんな感じだった(笑)。
軋羽:(高野になって)いやー亜弥ちゃんはかわいいねー。大きくなったらおじさんと結婚しよう!(一同爆笑)
GM:ただの親戚のおじちゃんじゃん!
寅三郎:いるわーそういう人(笑)。
耀蔵:ま、まあ亜弥に対してはそうだったかもしれんが(笑)。「人は変わる。しかしその上で、亜弥、そなたが高野長英を信じたいという気持ちもわかる。高野と連絡は取れるのか?」
亜弥:「いえ、それは……」うーん、連絡をとる方法とか聞いとけばよかったなあ。
耀蔵:「ふむ……、ならば、そなたを人質にして高野長英をおびき出すのは無理か」
寅三郎GM:(素になって)おい。
軋羽:鳥居様、何を考えてるんですか!
亜弥:お、囮って……(絶句)。
耀蔵:「亜弥の命が惜しくば出て来い、と言って出てくる相手ならばよいのだが、いまいち有効打かわからんな」
亜弥:う、うう……っ! 久しぶりに思い出した、こいつ蝮だった……!

 亜弥は膝の上で拳を握りしめた。
 鳥居たちを信じたい気持ちと猜疑心が渦巻き、高野の言葉の真偽に揺れる狭間で小さな頭ははちきれそうだった。


耀蔵:(ため息をついて)「……仕方ない、まずは調べを進めるほかないな」
軋羽:高野まで亜弥と関係があるとなっちゃ急がなきゃね。「鳥居様、赤墨の妙についてはあたいにお任せください」
寅三郎:「妙を探してもどうせ出てくるのは憑代だ。本体を捕まえるには人海戦術でも使わんと難しいですよ」
軋羽:ムムッ。「それには及ばないさ。あたいに考えがある」ぶっちゃけあたいなら妙に会えるんだ。それに情報収集も得意だし。「(ちらっと寅三郎を見て)まあ、人を斬るぐらいしか頭にない奴には、わからないかもしれませんがね!」
GM:なに寅三郎のこと意識してんの(笑)。
亜弥:軋羽さん張り合ってる張り合ってる(笑)。
寅三郎:「まあ、手があるってんならいいんじゃないですかね。……で、鳥居様。高野の方は殺しますか」(一同笑)
亜弥:長兄ちゃんコロス、ダメーッ!
耀蔵:「いや、高野は使える人材だ。まずはあれがいかような目的で動いているか、調査せよ」
寅三郎:「は」
耀蔵:「こちらに引き入れられるならよし、そうでないならば、政治欲さえなければそれでかまわんのだ。おとなしく研究だけしておればよいものを」
寅三郎:「わかりました。ま、蘭学者ひとり生きようが死のうが、俺の知ったことじゃありませんがね」
耀蔵:「亜弥、そなたは石蕗と共に動け。高野が接触してくる可能性もある。あまりひとりにならんようにしろ」
亜弥:「はい……。鳥居様もお気をつけて」もやもやは晴れないけど、ぺこってお辞儀をします。
寅三郎:じゃあ部屋を出て、調査に向かうとするか。
耀蔵:では、ふたりが退出しようとすると、わしの脇に一瞬、ぺこりと頭を下げている紫がいたような気がした。
軋羽:おおー。
亜弥:「え……、今……!?」
耀蔵:「いかがしたか?」

 答える鳥居に、居合わせた者たちは、その時、一様に気づいた。
 愛宕山へ発つ前まで漂っていた鳥居の険しい気配が、今は和らいでいることに。


軋羽:「鳥居様……。あなたはいったい、愛宕山で何を得て帰ってきたのですか?」
耀蔵:「なに、閉じていた眼を開いただけよ」
軋羽:「……そう、ですか」鳥居様は本当にすごいな……。
GM:(こそっと)……ミノルさん、ひとりだと机叩きづらいから一緒にやらない?
亜弥:(拳を握り締めながら)い、いや、まだ今はこの机を叩くときではない……!(一同爆笑)
寅三郎:なんで連れションノリなんだよ(笑)。
亜弥:えへへ(笑)。じゃあ、今度こそ退場しまーす。
寅三郎:……あ、そうだ。俺は少し残らねばならん。先に行っててくれ。
亜弥:あれ、石蕗さんは一緒に来ないの?
寅三郎:後からすぐに行く。鳥居様に阿良々木の話をしておきたいんだ。

 亜弥と軋羽の足音が遠ざかっていくのを確認し、寅三郎は襖を閉めた。
「鳥居様、お耳に入れておきたいことが」


耀蔵:「どうした?」
寅三郎:「自分の過去と申しますか、鳥居様の未来と申しますか、まぁ難しい概念ですが……先日、俺と同じ時代から来た者に会いました」
耀蔵:「ほう」
寅三郎:「本庄殿と天狗衆数十名をやった男。阿良々木新造という秘剣使いです」
耀蔵:「阿良々木新造、とな」
寅三郎:「元は仙台伊達藩士、俺の居た時代で言うところの官軍、というやつです」
耀蔵:「その者、いかなる男かわかるか?」
寅三郎:「そうですな……よくある輩です。勝ち馬に乗っていて、勝ちそうになってみればやる気がなくなる。まあ、そんな出会いをしました」
GM:あ、くそ。なんか軋羽の気持ちがわかった。悔しいな、寅三郎に大したことないって言われると(笑)。
軋羽:でしょうでしょう?(笑)
寅三郎:「で、その阿良々木ですが、こやつも件の赤墨使いの一味と関わっていると見て間違いがないでしょう」
耀蔵:「そうか。して、そなたはどうする?」
寅三郎:(微かに眉が動いて)「…………いや、別に。単純に、敵の一味に顔見知りがいたという報告です」
耀蔵:「そうか。では、捕らえよ」
寅三郎:「は」
耀蔵:「敵の規模や計略の全容、口を割らせねばならぬことは山ほどある。殺すのはその後だ」
寅三郎:「かしこまりましてございます」
耀蔵:「ひとつだけ言っておく。今は大分手駒が足りなくなった。そなたもそのことは理解しろ」
軋羽:無茶をして死ぬなよ、ってことか。
寅三郎:「…………は」
GM:では、寅三郎が低く答えたところでシーンエンドにいたしましょう。



■ミドル02 魂の誓い  ――――シーンプレイヤー:軋羽

 大久保古河守が敵の黒幕という真実。自らがその配下だという事実。喉奥にこびりついたそれを吐き出すことができぬまま、軋羽は書斎を後にした。
 何も知らぬ少女が無防備な仕草で隣を歩く。
 軋羽は、決心と共に口を開いた。彼女には、なんとしても言わねばならぬことがあった。


GM:では、部屋を退室した組からいこうか。シーンプレイヤーは軋羽。
軋羽:書斎を出て廊下を歩きながら……亜弥、調査に出かける前に話をしないかい?
亜弥:じゃあ登場します! 縁側に回り込んで、置いておいた鬼灯の鉢を日当たりのいいところに持っていきます。
軋羽:「それを買いに、わざわざ遠出をしてたんだね?」
亜弥:「うん。奉行所の人たちとか……特に黒衣衆の人たちは、死んじゃったりしたのあんまりおおっぴらにできないから、だからせめてって」
寅三郎:ああ、黒衣衆は公には存在していない組織だからな。
軋羽:「立派な鬼灯じゃないか。これなら、盆にはたくさん還ってこれるだろうさ」
亜弥:「鉢植えなら長くお供えしておけるから、その分ゆっくりしてってもらえればなって思うの」
軋羽:「亜弥は本当に優しいね」

 微笑むと、軋羽は縁側を歩きはじめた。
 隣では亜弥がもげてしまった鬼灯の実をひとつ、手遊びながら歩いている。その背には巨大な薙刀が揺れる。


軋羽:「……もとをたどればさ、あんたは兄貴の仇を討つためにあたいたちと共に行動するようになったというのに、今じゃあすっかり黒衣衆の一員だね」
亜弥:(苦笑しながら)「でも、本庄さんみたいに鳥居様に心酔してるわけじゃないし、ただ兄ちゃんのことを知りたかったり、紫さんを助けたかったりとか、そんなのばっかりです」
軋羽:「それでもさ、あたいはあんたを仲間だって……家族みたいなものだって思ってるよ」
亜弥:家族……。軋羽さんにそう言われると胸の中があったかくなるんだけど、同時に長兄ちゃんの言ってたことが頭をよぎってしまう。

「南町の連中を信じるな。奴らは都合のいい嘘でお前を丸め込もうとしているんだ。だから――――」

軋羽:だから俺様と一緒に来いよ、というところに重ねて、「――亜弥、もしよければ、この南町を出てみるかい?」
亜弥:「え……?」
軋羽:「あんたは確かに英傑で、妖異を倒す力はあるさ。あたいもそれは見てきた。でも、兄貴の仇というのが本当に赤墨の妖異たちかわからないじゃないか。もしかしたら、本当に鳥居様の指示によってあんたの兄さんは殺されたのかもしれない」
亜弥:え、えええっ!? 軋羽さんなんでそんなこと言うの!?
軋羽:「これはただの可能性の話さ。でも、もしそういう疑いがあんたの中にあるのなら、黒衣衆を抜けて外に出ることもできる。あんたはもう、震えて泣いているだけの子供じゃない。それだけの力があるんだ」

 亜弥は静かにうつむいた。
 手の中で真っ赤に色づいた鬼灯を見つめる。 


亜弥:「……あのね、前は南町にいれば兄ちゃんの真相に近づくって思ってたんだけど、だんだんわからなくなってきたの」
軋羽:「いいんだよ。あんたの気分で決めればいいんだ。あたいはただ、あんたの本当の気持ちを聞いてみたいだけなのさ」
亜弥:じゃあ、軋羽さんを見上げて、ちょっと声を潜めます。「あのね……さっき、神田のところで長兄ちゃんに声をかけられたんだ」
軋羽:あたいはそれを知っていたかのように驚きはしない。
亜弥:「兄ちゃんを操った妙を追うためにはここにいなきゃいけないって思ってたけど、長兄ちゃんは兄ちゃんに何があったのかを知ってるかもしれないの」
軋羽:「亜弥は、高野長英のもとに行きたいのかい?」
亜弥:(頭をブンブン振って)「わからないの。長兄ちゃんはみんなが嘘をついてるって言うけど、軋羽さんも石蕗さんも……鳥居様も、そういう嘘をつくだなんてどうしても思えないの」……さっきのあたしを人質にする発言は聞かなかったことにしよう(一同爆笑)。
耀蔵:あんなことをするから信頼されないのは分かっているのだ……(笑)。
寅三郎:まあでも、目的を達成するために手段を選ばないことと、仲間に嘘をつくことは必ずしもイコールではないしな。
亜弥:「皆のことは信じたい。でも、あたしが今までこの目で見たり戦ったり、調べてきたことが、お門違いだったとしたら――――」
軋羽:「お門違いじゃないよ」

 不意に立ち止まった軋羽は、亜弥を振り返った。
 どこかで気の急いた蝉が一匹、鳴く音が響く。
 軋羽は膝をつくと、小さな肩に手を置きゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ね、あのさ。たとえば……もしあたいが、あんたの兄さんを赤墨で操っていた連中とつるんでいたら、どうする?」


軋羽:「紫様や涼太郎をあんなふうにしてしまった連中の一味だとしたら……あんたはどうする?」
耀蔵:おお。
寅三郎:爆弾告白きたな。
亜弥:「それって……!」
軋羽:(優しく笑って)「あたいはね、亜弥に本当に感謝しているんだよ。文字の書き方を教えてもらったり、いろんな大事なことに気付かせてもらった。あんたにはその恩を返さなければいけないと思ってる」

「だからあたいは、あんたにはいろんなことを話さなきゃいけないんだ」
 軋羽の鼈甲色の瞳が亜弥を見た。
 悲しみと決意を湛えたその眼差し。


亜弥:「……軋羽さんは、そいつらとこれからどうするの?」
軋羽:「あたいはまだ腹を決めかねてる。あいつらにはあたいの大事なものを握られてるからね。でも、今のあたいはそれと同じぐらい……亜弥、あんたのことを大事に思ってる。(少しはにかみながら)そして、他の南町の連中のこともそう思ってるんだ」
亜弥:そっか、妙たちとつるんではいるけど手を切りたいんだな、でも何か訳があってできないんだな、って思う。「ただ妙たちとつるんでてあたしを騙してるんだとしたら、あたしは軋羽さんのことは許せない」
軋羽:「うん……。そうだろうね」
亜弥:「でも、そうじゃなくて、軋羽さんが苦しんでるんだとしたら、軋羽さんを助けられることはないかなって思う。ううん、なにがあっても絶対に助けてみせる。……だって軋羽さんは、大切なあたしのお姉ちゃんだもの」

 新緑色の瞳が軋羽を染める。
 それはどこまでも若く、真摯で一点の曇りもない瞳。





軋羽:「…………はは。あはは……。やっぱり亜弥には教えられっぱなしだ。もう少し早く、あんたに会いたかったよ」
亜弥:「軋羽さん……」
軋羽:もう一度、亜弥の眼を見つめます。「亜弥、あたいは自分の魂に誓うよ。あたいは決して、あんたを裏切るようなマネはしない」
亜弥:あたしも軋羽さんを見つめ返す。「あたしも軋羽さんのこと、信じてる。軋羽さんは絶対奴らと一緒の心じゃないって」
軋羽:「いいかい、あいつらは巧みにあんたを騙そうとしている。理由はわからないが、あんたが南町から出ていくことがあいつらの望みなんだ。そして、その果てにきっとあんたを苦しめる。でも、それに決して屈してはいけないよ」
亜弥:「うん……絶対に負けない。それに、あたしも妙は許せない。あの人が例え“我が殿様”っていう好きな人のために動いているんだとしても、それで妖異に堕ちていろんな人を傷つけていいわけないもの」
軋羽:「そうだね。……さ、まずは調査だ。亜弥は自分のできる事をするんだ。寅三郎は強いから、きっとあんたを守ってくれるさ」背伸びをしながら立ち上がり、亜弥を見下ろします。「……妙のことはひとまずあたいに任せときな。あれは、あたいがケリをつけなきゃいけない問題だ」
亜弥:うっ、それはちょっと不安になっちゃう。「わかった。……でも、鬼灯、みんなが帰ってくるのでいっぱいいっぱいだからね?  軋羽さんの分なんてないんだからね!」
軋羽:(にいっと笑って)「ああ、大丈夫。わかってるさ」

 軋羽は亜弥の髪をなでると、踵を返して元来た書斎へと歩きはじめた。
 その瞳には、決意の色。



※    ※     ※


軋羽:(にまにまにまにま)
GM:ではそこでシーンを切……え、なんですかその顔(笑)。
亜弥:ヨビさんがめっちゃにまにましてる。
軋羽:ちょっと余韻に浸らせてくださいよ。ああもー、亜弥はホントにええ子やなあ(にまにま)。「あたしは軋羽さんを助けたいと思う」「あたしは! 軋羽さんを!! 助けたいと思うッッッ!!!」(一同爆笑)
耀蔵:頬の筋肉がゆるみまくってますよ(笑)。
寅三郎:この顔を読者にお見せできないのが残念だ。
GM:そうだ、せっかくWEB公開のリプレイだから、ヨビさんの顔をムービーで撮ってアップすれば――。
亜弥:(鞄をゴソゴソしながら)あ、まって、あたしのスマホのほうが画質いいよ!
軋羽:公開処刑じゃないですかっっっ!(一同爆笑)



■ミドル03 蘭学超兵器の影  ――――シーンプレイヤー:石蕗寅三郎

 昨日降った雨がじっとりとした湿気となって江戸の町を包んでいた。
 花井襲撃事件と高野長英の裏を取るため、亜弥と寅三郎は蒸し暑い市中へと向かった。


GM:では、調査に向かうメンツのシーンにしようか。寅三郎がシーンプレイヤーで、亜弥が自動登場かな。
亜弥:はーい、登場します。実は石蕗さんとふたりで動くのって初めてなんですよね。ちょっと恐々慕いながらついていきます(笑)。
軋羽:うふふ、あたいとしてはですね、亜弥と寅三郎のコンビは非常に……その、待ち望んでいたんですよ(にまにま)。
GM:ね、楽しみよね♪ ぜひとも一緒に情報収集していただきたい、うへへへ(にまにま)。
寅三郎:なんなんだおい、ふたりともきもち悪いぞ(笑)。
亜弥:軋羽さんのことが気になるけど、あたしはあたしのやるべきことをしなきゃ。石蕗さんと一緒に街に向かいます。
寅三郎:よし、行くか。
亜弥:はいっ。長兄ちゃんとか事件のこと、いっぱい調べるよ!

【情報項目】 能力値:【理知】
・高野長英について  目標値:10
・花井虎一襲撃事件について  目標値:10
・阿良々木新造について  目標値:12

・高野長英について
亜弥:長兄ちゃんに事件に……阿良々木さんについてのみっつかあ。あたしはまだ阿良々木さんのこと知らないけど(笑)。
GM:うむ、前回のエンディングで本庄たちを襲った犯人だからね。
寅三郎:まあ、まずはなにがなくとも高野の下調べだな。
亜弥:長兄ちゃんのことだったらあたしが調べましょうか?
寅三郎:いや、情報項目がいつもより少ないということは、後からもっと達成値の高い項目が出てくる可能性がある。俺はあんまり情報収集が得意じゃないんで、亜弥はその時のために待機しておいてくれ。
亜弥:あ、そっかそっか、石蕗さんさすが〜。わかった、待ってます!
軋羽:亜弥が可愛いよう……(にまにま)。
寅三郎:高野についての目標値は10か。(ダイスを振って)……よし、達成値は12だ、出たぞ。
GM:高野長英は蛮社の獄で投獄された天才蘭学者です。小伝馬町牢屋敷に投獄されていましたが、牢火災の折に逃亡し、行方知れずになっていました。
耀蔵:うむ、そこまでは先に出ていた情報だな。
GM:で、ですね。先の、妙が引き起こした奉行所七十八人殺しの少し前に、高野は火付盗賊改方と諍いを起こしていたようだ。
耀蔵:火盗改だと!?
軋羽:火盗改ってどういう組織でしたっけ?
寅三郎:火盗改とは江戸の警察みたいなもので、奉行所とは別系統で事件に対処している組織だ。奉行所とは捜査がかち合うことも多いんで、微妙に仲が悪い。
耀蔵:高野と火盗改が関わってくるとはどういうことだ……?
GM:ここで“火盗改交戦事件について”という情報項目が新たに調べられるようになります。目標値は【理知】の15。
寅三郎:うーん、だいぶしんどいな。
GM:目標値が高いのは、火盗改が事件の存在自体を隠蔽しているためだね。
亜弥:あー、待機しててよかった。これを開ければ、長兄ちゃんが何をやろうとしてるのかわかるかな?
寅三郎:(うずうずしながら)やっべえ、これに難癖付けて火盗改長官の鬼平を殺しにいきてえ……(一同爆笑)。
亜弥:石蕗さーんっ!?
軋羽:なにいきなり疼いてるんだい!
寅三郎:いやすまん、鬼平なら相手に不足がなさそうなんで、つい(笑)。
耀蔵:放っておくと江戸のパーソナリティーを次々殺しに行きそうだな……(笑)。
亜弥:い、いいかな、調べるよ? 交戦事件のこと調べるからね!?

・火盗改交戦事件
亜弥:(概算しながら)えっと、《舶来知識》があるので+2して……9以上が出れば成功かあ。(ダイスを振って)……ううっ、足りない(涙)。
寅三郎:亜弥、財産ポイントも使うといい。
亜弥:あ、そうだ、あったあった、お金! ダイス目が6だから、財産ポイントを3点使って成功です!
軋羽:ああ、なけなしの十二文を……(笑)。
亜弥:たしか兄ちゃんと一緒に住んでた達磨横丁に、火盗改と仲がいい人がいたから、話を聞きに行きたいな。
寅三郎:おお、『女子高生江戸日記』(注1)のぼたん(注2)か。
亜弥:うん、ぼたんちゃんとは長屋でよくおすそ分けとかしたりして仲がよかったから……あ、待って、せっかくだから[邂逅]でコネを取ってる正太(注3)でもいいなあ。
軋羽:どっちでも好きなほうをお選びよ(笑)。
亜弥:でも、せっかく好きなNPCに会えるチャンスだし、うーううーっ、どっちもおいしいー(迷いはじめる)。
GM:じゃあ、いっそふたりとも出すべ(笑)。

 本所・達磨横丁。そこはかつて亜弥が、兄とふたりで住んでいた長屋であった。
 たった一月しか経っていないのに、そこで暮らしていた日々はひどく遠い昔のことのように感じられる。
 妖怪絵師ぼたんの部屋の戸を開けると、そこには家主の少女と八百八町遊撃隊の隊長である少年、荒深正太がいた。


GM:「「亜弥ちゃん!」」ぼたんと正太は君に駆け寄ってくる。「南町に連れて行かれたと聞かされて心配していたんですよ。無事でよかった……!」
亜弥:「連絡しないでごめんなさい、あたしは元気です! それより、その、迷惑かけてごめんね……」兄ちゃんの件で家捜しとか入っただろうし……。
GM:「いいんです、そんなこと。お部屋は綺麗にしてありますから、いつでも帰ってきてくださいね」正太も笑いながら、「涼太郎を助けてくれてありがとな。弥八兄ちゃんの罪状だってどうせ鳥居の濡れ衣なんだろ? 難癖つけてくるやつがいたら、いつでもオイラたちがぶっとばしてやるからさ」
亜弥:ううっ、ありがとう……。あったかいよう。じわわっってなっちゃう。
寅三郎:…………。(亜弥を眺めている)
亜弥:「あのね、ひとつ、教えてほしいことがあるんだけど――」って、火盗改交戦事件のことを聞きます。
GM:おけおけ。「あれは十日と少しほど前でした……」と、ぼたんは語りだす。「高野長英と名乗る男が、殿様……いえ、楊様に会いに来たのです」
寅三郎:うお、楊か。
軋羽:知ってるのかい?
耀蔵:楊敬次郎(やなぎけいじろう)(注4)。『女子高生江戸日記』のPCだ。妖異組という、妖異と戦う一団を指揮している火盗改の与力だったか。
亜弥:プレイヤーは小太刀さん(笑)。
GM:正太が土間のへりで足をぷらぷらさせながら、「高野は楊のおっちゃんに、仲間にならないかって勧誘してきたんだ。それを跳ね除けたらあいつら実力行使に出てきたってわけさ」
亜弥:「実力行使って……」戸惑いながら石蕗さんを見上げます。「でも、なんで長兄ちゃんはその楊って人を誘ったんだろう?」
寅三郎:「おそらく、蘭学だな」
亜弥:「えっ!?」
寅三郎:「本庄殿から話に聞いたことがある。楊敬次郎という男は蘭学者――それも、蛮社の獄の生き残りだ」
亜弥:あっ……! そうだ、楊さんって尚歯会の人だった!
軋羽:かつての高野の仲間なのか!

 楊敬次郎は、かつて尚歯会に所属していた蘭学者であった。
 ぼたんたちの話によれば、高野はある蘭学兵器の製造を行っており、その仲間に楊を引き入れようとしたのだという。


寅三郎:ということは亜弥の件もしかり、高野は蘭学者に声をかけまくっているということか……?
耀蔵:蘭学兵器を作っているならば、これはもう謀反人と見て間違いないな。
亜弥:「長兄ちゃんは蘭学兵器を兄ちゃんと一緒に作ってた……?」
GM:「そう!」正太は拳を握りしめる。「その恐るべき兵器の名は、超究極摩訶最強蘭学兵器・印怒羅!!(ちょうきゅうきょくまかさいきょうらんがくへいき・インドラ!!)」(一同爆笑)
寅三郎:だ、だっせええぇっッッ!!
軋羽:あっはっは、あっはははは!(爆笑)
耀蔵:なんだそのふざけたネーミングは(笑)。
亜弥:え、えーと、超究極さいきょう、まか……???
GM:正太は目をキラキラさせながら、「かあっこいいよなー! 超究極摩訶最強蘭学兵器・印怒羅!!」
亜弥:ああ……。男の子ってそういうの、好きだよね……。
GM:「なんだよ、そんな目で見るなよ! 女にはわからないロマンってもんがあるんだよ!」
軋羽:少年の厨二病をくすぐるセンスだねぇ(笑)。
寅三郎:厨二ってーか小二レベルじゃねえか(笑)。
GM:しかし、ぼたんは眉をひそめる。「でも、いくら仰々しい名前をつけても所詮は妖異の産物です。良きものであるはずがありません」
亜弥:え……。妖異!?
GM:「楊様を襲った彼らは、全身から妖異の臭気を吹き出し、おぞましい兵器を用いておりました。高野長英は妖異と、そう見ております」

 それは、亜弥にはにわかに信じがたい言葉であった。
「長兄ちゃんが、妖異……?」
 かすかに足元がふらつく。


寅三郎:……おい、大丈夫か。
亜弥:(呆然と)「長兄ちゃんが……嘘だ……」
GM:「アイツはマジでやばいよ。オイラたちももう少し調べてみるから、あんまり無理をしないでおくれよ?」
亜弥:「うん。正太たちも気をつけてね……」と言って長屋を出ます。
寅三郎:うーん、高野は妖異か。しかし結局、高野と妙が繋がる話は出んかったし、調査を進めないといかんな。
亜弥:うん…………。
GM:ではそこでシーンを切りましょう。


※    ※     ※


亜弥:うう……っ。
軋羽:亜弥? どうしたんだい、シーン切れたよ!?
GM:だ、大丈夫……?(ちょっとやりすぎたかドキドキしている)
寅三郎:亜弥は立て続けに知り合いが妖異化してるしな。まあ、無理はしないで俺たちに相談するといい。
亜弥:ち、違うの。長兄ちゃんのことがショックなのもあるんだけど、うちの兄ちゃんがあの恥ずかしいネーミングに関わってたらって思うと……(一同爆笑)。
一同:そっちかよ!!!
亜弥:(顔を覆って)もしあの兵器の名前が兄ちゃん発案だったら、あたし耐えられない……!
耀蔵:そ、そうか……。
寅三郎:俺たちの心配はなんだったんだ(笑)。
軋羽:ま、まあ、そこの真実も解き明かしていかないとね(笑)。



■ミドル04 新たなる腹心  ――――シーンプレイヤー:軋羽

 薬庫の扉を静かに閉じた鳥居は、廊下に佇む軋羽を見止めた。
 薄暗がりの中に光る魔縁の眼は、決意の色を帯びていた。


軋羽:亜弥に決意をもらったので、あたいは鳥居様に全てのことを告白しに行きたいんですが……どうしましょう、鳥居様。
耀蔵:そなたの心が定まったときにいつでも来るがよい。
軋羽:じゃあ亜弥と別れたあとに、鳥居様の元に一直線に向かいます。
亜弥:ついに告白するんだ……!
GM:それなら次は軋羽がシーンプレイヤーで、鳥居が自動登場。場所は秋葉原屋敷にしましょうか。
耀蔵:では、わしは調査の人員が捌けたあと、役宅の奥にある薬庫から香炉を持って出てくる。
亜弥:香炉、ですか?
耀蔵:うむ、少し……な。
軋羽:廊下には、あたいが真剣な表情をして鳥居様を待っています。
耀蔵:「軋羽か。何か用か?」
軋羽:「はっ。少々お話をしたいことが……件の赤墨の妙。実はあたいには心当たりがあるのでございます」
耀蔵:「心当り、とな」
軋羽:「妖異の術師である彼女がいかなる者かは既にご存じと思いますが……問題はその術師を繰る糸の先、“全ての妖異を総べる者”の正体でございます」

 軋羽はしばし、目を伏せた。
 この先を口にすることは、すなわち大久保古河守への裏切り。
 そして人質となっている駿河の子供たちを危険にさらすこととなる。
 しかし、あの亜弥の真っ直ぐな瞳のように、目の前の男から手渡された硯のように、進むべき道は、守るべき魂はすでに揺らがなかった。
「――――その者、老中、大久保古河守利真様にございます」


耀蔵:「……ほう。大久保殿か」
軋羽:「大久保様は多くの手下を従え、鳥居様を追い落とすべく攻勢を仕掛けております。一連の妖異どもの根源に居るは、彼と見て間違いありません」
耀蔵:「全ての妖異を総べる者、というにはいささか小者に思えるが……そうか、大久保殿は妖異に堕ちたか」呟いて、軋羽に目を向ける。
軋羽:「あたいもこの屋敷の内情を調べ上げ、鳥居様の信頼を得るために黒衣衆の一員として潜伏しておりました。今起きている妖異の攻勢の一端を作り出したのは、あたいでございます」
耀蔵:「…………」(軋羽を見つめる)
軋羽:膝をつき、深く頭を床につけます。「お裁きは覚悟の上でございます! しかしどうか、ひとつだけ鳥居様にお願い申し上げたいことが……!」
GM:「よくも、よくもォオアぁァィェア! 大久保様を裏切ったねェェェエ……!」
亜弥:ええええっ!?
軋羽:妙っ! どこから!?

 ねばついた罵声、それは、軋羽の頭の中に反響していた。
 軋羽の足元から行く筋も立ち上る赤墨の帯。 
 それは一斉に軋羽を喰らい殺そうと襲いかかった!


寅三郎:げええっ!
軋羽:まさか、あたいにも赤墨を植えていたっていうのかい!?
GM:「許さないよオォッッ!!」怒りに満ちた声と共に赤墨が軋羽へと絡み付き、激痛が走る。【反射】か【意志】で対決判定だ!
軋羽:「〜〜〜〜ッッ!!」【反射】で判定しよう。負けないよ!
GM:(ダイスを振って)妙の達成値は11……だが、《剣禅一如》(注5)を使用!
耀蔵:む、クリティカルか。ここは重要な局面と見るべきか?
寅三郎:うーん。軋羽が対決に負けるとどうなります?
GM:まず軋羽に重圧が発生、防御修正無効の10D6ダメージが入り、以降、軋羽が【死亡状態】であるか妙本体を倒さない限り、毎シーンの開始時に重圧と10D6点のダメージが入ります。これは、条件を満たさない限りシナリオをまたいでも持続します。
亜弥:軋羽:うわあああぁっ!
寅三郎:ひっでえな。まあ、愛しの大久保様を裏切った悪人だ。全力で殺しにかかってくるか。
耀蔵:ならば、ここは撃つしかあるまい。《妙計奇策》(注6)を使用だ。「……ようやく出てきたか」
軋羽:苦痛に顔を歪めながら叫びます。「鳥居様……何をっ!?」
耀蔵:軋羽の体から立ち上る赤墨を、背後に回った紫がにこやかに術で縛り上げる。

 薄暗い廊下に光が迸った。
 赤墨が瞬く間に清廉なる光によって散らされていく。


亜弥:紫さん強ーい!(ぱちぱち)
寅三郎:つーか、死んだ途端に紫無双するんじゃねえーッッ!!(一同爆笑)
GM:赤墨が光に散らされていく中、一瞬、軋羽を守るように紫の姿が見えたような気がした。
軋羽:「紫様が、あたいを守ってくださった……」
耀蔵:わしの後ろから「そうですよー」と透明な紫が(一同笑)。
寅三郎:やめろ、しゃべらせるな(笑)。
亜弥:紫さんってそんな人だったっけ??(笑)
耀蔵:(動じず)「ふむ……。大久保殿も、随分と部下を無駄遣いされるようだ」
軋羽:赤墨の拘束が解けたので咳き込みながら話します。「計画の細部や他の者の動きは何も知らされず仕舞いでした。(自嘲気味に笑って)そういう意味ではあたいは、最初から切り捨てられる者だったのかもしれません」
耀蔵:軋羽を見下ろして、「……ひとつ問う。そなた、我が配下の者を手にかけたことはあるか?」
軋羽:それにはハッと顔を上げて答えます。「い、いえ、そのようなことは決して!」
耀蔵:「そうか。ならばよい」
軋羽:「え……」
耀蔵:「このようなことは、よくあることだ」

 ひどく当然のように発されたひとこと。
 光の残滓が揺れる中、目の前の男の強大さに軋羽は軽い眩暈を覚えた。


軋羽:「よくあること、ですか……」やはりこのお方にはかなわないなぁ……。
耀蔵:「して、先に言いかけていた件だ。そなたの願いとはなんだ」
軋羽:「はい、駿河の国に里がございまして、そこにはあたいの稚児たちがおります。汚れ仕事も何も知らぬ無垢な童子たちなのでございます。あたいが寝返ったことで大久保は里を焼き払いにかかるでしょう。あたいはどうなってもかまいません、どうかあの子たちを――!」
耀蔵:「往復で何日かかる?」
軋羽:え……?「早馬でも、二日はゆうにかかるかと」
耀蔵:「そうか、仕方がないな。――――東雲」
GM:おぉ!? では「ここに」と、いつの間にか廊下の先に鴉天狗の男がひとりひざまずいている。
軋羽:(目を見開いて)「鳥居様、何をなされるおつもりですか?」
耀蔵:「今、そなたを江戸から離すわけにはいかん。しかし、その駿河の里を守る者も必要となるであろう。違うか?」
軋羽:「鳥居、様……!」
耀蔵:「東雲、人員を募り駿河の里の防衛に回れ」《一件落着》(注7)を使用して、大久保側から放たれるであろう刺客から駿河の里を守ろう。
GM:了解です。ただしひとつ条件があって、大久保を倒すまでの間、シナリオ毎に《一件落着》を使ってもらうことになるけど、それでいい?
寅三郎:大久保を倒さねば里は安全にはならんということか。
耀蔵:かまわん、成さねばならぬことであろう。
GM:東雲は瞬く間に一羽の鴉に姿を変じると、矢のように飛び去っていく。
亜弥:東雲さん、里は頼んだよー。
耀蔵:奴もねぎらってやらねばなあ……。
軋羽:「鳥居様……」
耀蔵:「これで里の者たちの身は守れよう。(軋羽の顔を見て)……どうした、そなたの望みではなかったのか?」
軋羽:「いえ……あなた様があたいのような裏切り者のために、そこまでしてくださることに感謝しているのです」
耀蔵:「そなたはわしを誰だと思っておる」

「わしは江戸の南町奉行であるぞ。……この江戸に住む以上、すべてはわしが守らねばならぬ者だ」

軋羽:(頭を深々と下げ)「はっ! 恐れ入ります……!」
耀蔵:「わしに感謝するのならば、その念を今起きている事件を解決するために込めよ」
軋羽:「(涙を浮かべながら)はっっっ!」
耀蔵:「――――そして、その思いをこれから先、次代の者を守るために捧げよ」
軋羽:「必ずや……必ずや!」

 今一度深く頭を垂れると、軋羽は表へと駆け出していった。  それを見送る奉行の眼差しは、いつもと何も変わることはない。

耀蔵:「……どうやらよい腹心ができたようだ」

 傍らで、柔らかに微笑み答える気配がした。




■ミドル05 人殺しの話  ――――シーンプレイヤー:石蕗寅三郎

 両国広小路。曇り空の下、多くの参拝客で賑わうこの場所は江戸の観光名所のひとつである。
 人々でごった返す道の脇には、水茶屋が立ち並んでいる。
 亜弥を送った寅三郎は、そのただ中で足を止めた。
 少し前から自身を見つめる暗い視線。それは、肌になじんだあの日の香りがした。


GM:次のシーンプレイヤーは寅三郎。調査シーンの続きだね。亜弥は判定なしで登場できるけど、どうする?
亜弥:うぅーん……。あのね、長兄ちゃんが妖異ってのは信じられないし、信じたくないの。この前みたいに赤墨に操られてるだけかもしれないし、長兄ちゃんも騙されてるのかもしれないし……。だから、花井さんのところにお見舞いに行って話を聞きたいなって。
寅三郎:俺は花井様のところに行ってもなあ……。なら、亜弥はひとまず見舞いに行くといい。あとで迎えにいく。
亜弥:あ、わかりました。襲撃事件のこと、いっぱい聞いてきます!
GM:じゃあ亜弥は登場なしか。寅三郎は何を調べる?
寅三郎:ひとりになったなら都合がいい、今のうちに阿良々木を調べるか。目標値がちと高いが……(ダイスを振って)よし、成功だ。
GM:お。では、ここでイベントが発生する。

 人波の向こうから、寅三郎へと歩を進めてくる男がひとり。
 阿良々木新造。
 その姿は一見端正美麗な若武士であったが、その虚ろな瞳と血風に掠れきった気は、この地においてひどく異質に見えた。

 
亜弥:向こうからきたーっ!
寅三郎:うお、これは予想外だったな。鳥居様からは捕えろと言われているが……。
GM:あたりは人の溢れる観光地のど真ん中だ。「黄泉返し、少し……話がしたい」
寅三郎:「男と茶を飲む趣味はないんだがな」
軋羽:(いきなり茶屋の娘になって)「はいはいはいはいいらっしゃーい! 旦那様方、何にします?」
亜弥:(茶屋の娘になって)「二名様ご案内でーす! ふたりとも座って座って! 今日は団子がオススメだよっ!」
寅三郎:うおっ!? なんなんだおまえら!
耀蔵:強引な客引きの茶屋だな(笑)。
亜弥:だって、石蕗さんたちの幕末トーク見たいんだもん(笑)。
軋羽:ねー♪
GM:幕末トークて(笑)。
寅三郎:あー、じゃあまあ座るか(笑)。「渋茶と団子を」
GM:「白湯を」

 新撰組と維新志士。ふたりの異邦人はしばし、目の前を通り過ぎていく人の波を無言で眺める。
 先に口を開いたのは阿良々木であった。


GM:「……黄泉返し。貴公は、この時代に来てから旅をしたか?」
寅三郎:「まあ、あるが。それがどうした?」
GM:「拙者も少し日ノ本を回った。……故郷の地に、幼き母が居た」
亜弥:おおう……。
GM:「若き祖父が、顔の知らぬ藩主が、数多の故郷の者たちがいた。みな痩せた地で、厳しくも平穏な時を生きていた」

「彼らは、これから数十年の後に起こる動乱によって踏み荒らされる未来のことなどなにひとつ知らぬ。……だから」
 阿良々木はじんめりと広がる曇天の空を見上げた。薄曇りの空が、光の入らぬ男の瞳に写る。
「拙者は今度こそ、彼らを泥血を汚さぬままこの国を変える」


寅三郎:「今度こそ、ねえ……」
GM:阿良々木は虚ろな目で君を見やる。「貴公はまだ、“人殺し”をしているのか?」
寅三郎:「あれは白河口の前だったか、俺は福沢諭吉という男の書いた本を読んだ」
GM:「…………?」
寅三郎:「その本によれば、世界には万国公法というものがあり、それぞれの国が対等につき合っているという。それがどういうことかわかるか?」

「つまり、それぞれの国がそれぞれの国を常に犯しあっているということだ。殺しあっているということだ。そして、俺たちと国は同じものなのだ」

寅三郎:「これは徳川もなければ朝廷もない。いいか、俺という国が貴様という国と殺し合いをするのだぞ? ただ俺が殺したいと思った奴と心ゆくまで殺し合いをするのだ」
GM:「……それが、貴公のたどり着いた真理か」阿良々木は脇に置いた刀に手をやる。「ならば、ここで殺し合ってもよいが……黄泉返し」
寅三郎:「俺たちの居た京ならまだしも、こんな街中で刀を振り回す訳にもいかんだろう。ここは見逃せ」
GM:見逃す? (怪訝な顔で)「……相変わらず、妙なことを言う男だ」
寅三郎:「俺から逃げたのでは士道不覚悟で腹を斬らねばならん。貴様に見逃してもらわなくてはならんのだ」
GM:「新撰組の局中法度か。下らぬ掟よ」
寅三郎:「まあ、所詮は百姓上がりの、武士気取りの集団だからな。そんなことを本気で思った阿呆は、近藤局長ぐらいのものだ。必要なんだよ、ああいう輩には武士になるための作法が」
GM:「しかし、その作法に未だ準ずるか。貴公は人殺しとなりたいのか、それとも……武士でありたいのか?」
寅三郎:(眉を潜めて)「……くだらんな」
GM:その言葉に、阿良々木は薄い笑みを浮かべる。その虚ろな目の奥にわずかな光。「そう……だな。いや、そう……愚問であった。……では」

 かすかに妖異の気が鼻をつく。
 それに寅三郎が気づいた時には、既に人の波に紛れ、阿良々木の姿は忽然と消えうせていた。





■ミドル06 暮れなずむ魂たち  ――――シーンプレイヤー:亜弥

 亜弥は花井の運び込まれた療養所へと足を向けた。
 辺りを医者たちがあわただしく動き回る。赤墨や襲撃事件の被害者で療養所は一杯だった。


GM:では、次のシーンプレイヤーは亜弥で。場所は花井の担ぎ込まれた療養所かな。
亜弥:うん。花井さんを襲ったのが長兄ちゃんだったのか、もしそうなら長兄ちゃんは本当に妖異なのか確かめなきゃ。
耀蔵:それなら、襲撃事件についての情報項目も調べつつ行くとよい。
亜弥:あ、そうですね! じゃあ、特技もろもろを使いつつ……(ダイスを振って)8が出たので【理知】で14。成功です!
GM:では、療養所。花井は布団から半身を起こし、君を迎える。「亜弥君、君か」
亜弥:「お加減いかがですか?」お見舞いに来る前に花井さんの家に寄って持ち出したグラスを枕元に置きます。
GM:亜弥ってそういうところほんとマメよね(笑)。
亜弥:花井さんは硝子研究に没頭してるらしいし、療養所じゃ目の保養もないと思うから。「水差しの水を飲むときにこれを使ってください」
GM:花井は嬉しそうに薄く微笑む。「ありがとう。奉行所の様子はどうだい?」
亜弥:「鳥居様が戻ってこられて、鳥居様の指揮であたしたちは動いている状態です」
GM:「そうか……。僕が非力なばかりにすまない」と言って、花井は自らが襲撃された時の状況を話しはじめる。

 花井の学問所を襲撃した襲撃者は一様に、巧妙に身体と一体化させた蘭学装備で武装していたという。
 「おそらくは蘭学者……高野さんが動いているというのであれば、その一団と見て間違いがないだろう」


GM:「そして彼らは、赤墨の存在を予期していたかのようだった」
亜弥:「予期……?」
GM:彼らは乱戦の最中、突如立ち上った赤墨にもまったく動じる様子はなかったという。
寅三郎:最初から襲撃の予定に組み込まれていたということか。
耀蔵:やはり、高野と妙は組んでいると見て間違いないな。
亜弥:「長兄ちゃんが妙と組んでる……。じゃあ、長兄ちゃんが妖異だっていうのも……」
GM:「……そうか、君は高野さんと知り合いなのか」
亜弥:「はい、兄の友人で、何度も遊んでもらってたんです……」
GM:「亜弥君。君がこのまま、黒衣衆の一員として調査を進めるのなら、きっとあの人と刃を交えることになる」
軋羽:そうなっちゃうよねえ……。
亜弥:「でも、あたしが知ってる長兄ちゃんだったら、妖異に堕ちたり、蘭学で人を傷つけたりしないって思うんです。それに、紫さんや兄ちゃんの時みたいに、妙に操られるって可能性もないわけじゃないし……」
耀蔵:まだ、高野を信じる気持ちは捨てられんか。
GM:「でも、もしそうでなかった時、君は妖異と化した高野さんを斬れるのかい?」
亜弥:「うー……ん……」
GM:「あのね、これは僕が言えることなどではないのだけど。何かを決断しなければいけないときは、それだけの覚悟を持たないと心が死んでしまうんだ。迷いながら噴く硝子は崩れて、二度と戻らない」花井は静かに微笑む。その眼はどこか虚ろだ。
亜弥:「花井さん……」
GM:「君は英傑だ。だがまだ小さな子供だ。妖異と戦って生きていく以外の道もあるんだよ」

 それは、秋葉原の屋敷で軋羽からも投げかけられた言葉。
 胸に広がるもやを押さえつけ、亜弥は目の前の蘭学の師を見た。


亜弥:「でも、あたしは兄ちゃんがなんで死んだのか、何をしていたかを知るためにも、長兄ちゃんとはちゃんと向き合わなきゃいけないと思ってます。あたしは兄が愛した蘭学を信じてるし、長兄ちゃんのこともまだ、信じてみたい。これは自分の眼で見極めなきゃいけないことなんだって思ってます」
GM:「君は、強い子だね」花井は眩しげに微笑む。「……なるべく早く復帰できるよう尽力する。鳥居様に申し訳ないと伝えておくれ」
亜弥:でも、迷いはいっぱいあるんだよう……。花井さんにお別れして療養所を出てから、(ぽつりと)「でも、見極めた先にあるのが長兄ちゃんに刃を向けるってことだとしたら……あたしは、どうすればいいのかわかんない」
寅三郎:では亜弥を迎えに行くか。登場判定は成功。「遅くなったな」茶屋で包んでもらった団子を渡そう。
亜弥:(ぱあっと明るくなって)団子!「ありがとうございます!」うあ〜石蕗さんいい人だ〜。
軋羽:食いしん坊め!(笑)
耀蔵:そなたの信頼は食い物で買えるのか……(笑)。

 雲間から落ちてきた夕陽が街を赤く染める。
 亜弥は石蕗と連れ立ち、秋葉原屋敷への帰路についた。
 まだ知らぬ高野と兄の真実。不安はなかなか言葉を形作ることができず、それを団子と一緒に喉の奥へと押し込み続ける。

 
寅三郎:じゃあ、その様子を見て声をかけよう。「……なあ、言っておくことがある。お前の兄のことだが」
亜弥:もぐもぐ……。「はい」
寅三郎:「お前の兄を殺したのは俺たちだ。そのことを忘れるな」
亜弥:んぐっ、って喉につまっちゃう。「なんで、そんなこと……言うんですか」
寅三郎:「恨みに思っていてもかまわんし、それは正常なことだ。俺は寺の坊主どもが言うように、人間が憎しみを捨てられるとは思っておらん。……むしろ、憎しみを失った人間のほうがよほど厄介だ」
亜弥:「あたしはもう、皆を憎んでなんかいません。本当に兄ちゃんを殺した妙は嫌いだけど」って言いながら、なんだかいつもの石蕗さんとちょっと違うなって思う。「石蕗さんは……憎しみを失ったの?」
寅三郎:「俺はもう、人が死ぬのに慣れすぎた。『そんなものだ』で済むようになってしまった。お前が兄の仇を憎いと思うのは、お前が兄を愛していたからだ。俺は多分、お前や軋羽が殺されても憎いとは思わんだろう」
亜弥:「じゃあ、石蕗さんが戦ってるのは、それがお仕事だからなんですか?」
寅三郎:「さあなぁ……。実のところ、俺にはわからんのだ」

 寅三郎は夕焼け空を見上げた。
 じんめりと肌にまとわりつく空気が鬱陶しい。


寅三郎:「昔は日本のためだと思っていた。だがどうやらそんなものではないらしい。ただ何も考えずに人を殺していられればいいのかと思ったが、どうやら俺にも好みというものがある。誰でも彼でも殺せばいいというものではない」
亜弥:石蕗さんは何を言いたいんだろう……。聞いてほしいの?
寅三郎:「まあ、そんなことはどうでもいいいんだ。……だがな、これだけはわかっておけ。お前の兄がお前に見せていた顔と、高野長英に見せていた顔は違うのかもしれん」
亜弥:え……。「違う、顔……?」
寅三郎:「そうだ。例えば、鳥居様だってそうだ。世間であの方がどう呼ばれているか知っているだろう」
亜弥:「それは……」鳥居様を知る前のイメージを思い出しつつ。
軋羽:鬼、蝮、妖怪、無慈悲な南町奉行――――。
寅三郎:「苛烈な改革で職を失った者、楽しみを奪われた者は、鳥居様を悪鬼羅刹と思うだろう。お前の知る鳥居様とそれは、どちらも真実だということだ。人にはいつも複数の顔がある。高野も、お前の兄もそうだ」
亜弥:「兄ちゃんや長兄ちゃんが、あたしの知らない顔でよくないことをしていた……?」
寅三郎:「悪しきものとは限らん、それがいかなるものかは見極めねばならん。例の赤墨の件も鳥居様を追い落とそうとしている輩も、おそらくその根源にお前の兄は深く関わっている」
亜弥:「兄ちゃんの知らない顔……。そんなの、全然考えたこともなかった」
寅三郎:「まあ、何が来ても腹をくくっておけということさ」
GM:寅三郎って、わりと亜弥のこと気にかけてる?
寅三郎:……ま、自分の世界に関係ない人間にはいくらでも正論を言えるんですよ。
耀蔵:いや、確実に気にはしているだろう。
軋羽:ね。
寅三郎:……あと、いちおう言っておくか。「ところで、軋羽の件だが。あいつが裏切っていたことについてはあまり気にするな」
亜弥:「えっ? 石蕗さんも知ってたんですか!?」
寅三郎:「まあ、軋羽のあれはあれでいいんだ。……いいか、だが誤解するなよ。俺も花井様も、もしかすれば本庄殿ですら、別に心から鳥居様が好きなわけじゃない。いやむしろ、恐れていたり嫌いなのかもしれん。俺たちはあの方のようにはなれんし、きちんと理解することすらできん。だから、あの方についているんだ」
亜弥:鳥居様を理解できないとか……そんなに決めつけちゃわなくてもいいのに。それも人のいろいろな面ってこと?
寅三郎:「まあ、いいさ。子供にはまだわからんでいいことだ」
亜弥:ムッ……!「でも、石蕗さんはもうわからない、って言ってるからわからなくなっちゃってるんじゃないですか?」
軋羽:おお!?
寅三郎:それには眉を寄せて表情を止める。

 亜弥は目の前の猫背がかった男を見あげた。
 この男は常に全てを悟ったような顔で、自分に正しいことを教えてくれる。しかしその裏で彼に感じていた違和感を、少女は今、掴みかけていた。


亜弥:「いつも、兄ちゃんが言ってたんです。人は自分の外の世界を見ることは難しいって。今自分が見えている世界で満足して生きていけてしまうからって」
寅三郎:「……ま、そういう輩はどこにでもいるさ」
亜弥:違うの! そうじゃなくて、えっと……、「でも、石蕗さんはわかってるのに外の世界を見ないようにしてるように見える」今見えるものだけ斬ってれば外を見なくてすむから安心っていうか、人のいろいろな面は見てるくせに、世界はいっぱい広がってるのに、わからないって横に寄せて終わっちゃってるっていうか……うううう〜ああぁ! うまく言えない!(じたばた)
軋羽:落ち着いて、亜弥今すっごくいいところ突いてるよ!
GM:寅三郎にガンガン効いてるぞ、がんばれ!
寅三郎:くっそ、なんなんだおまえら!(笑)
亜弥:う〜っ、はああぁ〜〜っ!(荒い息をつく)
耀蔵:ゆっくり深呼吸をして、考えながら言うとよい(笑)。

「石蕗さんは憎しみを失ったんじゃなくて、やけになって捨ててるように見える。自分の魂にとって大切なことを」
 西日に染まる空の下、亜弥はまっすぐに寅三郎を見据えた。
「……一度こぼれ落としたとしても、拾おうと思えばきっとまだ、そこにあるのに」


寅三郎:(眉を寄せて)「お前のような娘が首を突っ込むべきことじゃあない。……下らんことだ」
亜弥:「くっ、くだらなくなんかないです!」でも確かにあたしが踏み込んでいい話なのかもわかんないし、言い返せない。「あたしはただ……っ、石蕗さんは仲間だから……」
寅三郎:「……長話をしすぎた。行くぞ、鳥居様に一刻も早く報告をしなきゃあならん」
亜弥:「あっ……」

 踵を返して寅三郎は再び歩きはじめた。
 その歩は先刻よりも心なしか、早い。
 まだ落ちぬ陽が、ふたりの後ろに長い影を引かせていた。





■ミドル07 弛まぬ歩み、文字なき力  ――――シーンプレイヤー:鳥居耀蔵

 座敷には香が焚かれ、視界は薄い白にけぶっている。
 香炉の前に座した鳥居は、部下たちの報告を待っていた。
 しかし、銃声を引き連れて予期せぬ来訪者が現れる。


GM:鳥居がシーンプレイヤーで、他のPCは登場不可。高野が鳥居に来訪するシーンです。
亜弥:わ、先に鳥居様のほうに来ちゃった!
耀蔵:ではわしは、秋葉原屋敷の座敷で安息香を焚いていよう。
軋羽:安息香?
耀蔵:反魂香ともいわれる、さわやかな香りのする香だ。その香の煙の中だと紫の姿がよく見える。
亜弥:おおー、いいなあ。夫婦だなあ。
GM:え、なにこれ、夫婦でいちゃいちゃしてるところに俺様出てこなくちゃいけないの!?(一同笑)
耀蔵:さあ、いつでもくるがよい(笑)。
軋羽:カモンカモーン♪
GM:くっ(笑)。――――香炉がパンッ! と乾いた音とともに砕け散る。「随分と風流な真似してんじゃねえか」
耀蔵:無言でそちらを向こう。
GM:ブゥ……ン、とかすかな音がして、文机の上に片膝を立てて座る高野長英が姿を現す。
寅三郎:げえっ、ステルス迷彩かよ!(一同笑)
亜弥:えっ、ら、蘭学……???
耀蔵:「そなたも無粋よな」
GM:高野は右手に構えた長筒の銃口を君に向ける。「動くな。指先一本、視線一筋、呼吸一切も乱すな」
耀蔵:「何を怯えておる?」
GM:「江戸の毒蝮に注意をするに越したことはねえと学んだもんでね」高野は口の端だけでニイッと笑う。「てめえの前に姿を現すのが愚策だってなぁわかってる。ただ、最大の仇敵に挨拶ぐらいしておかねえと筋が通らねえってもんだろう?」
耀蔵:「……まあよい。茶でも立てて進ぜよう」
GM:「動くんじゃねえ!」撃つよ? そんなことやってると撃っちゃうよ?
耀蔵:撃てばいいではないか。
GM:う、撃つよ? マジで俺様ホント撃つよ?
耀蔵:別に、どうぞ。
GM:そっ、そんなことしたら鳥居様が可哀相でしょおおっ!!(一同爆笑)
寅三郎:どうしたいんだよ!!!
軋羽:紫様の時はめたくそ容赦なかったのに……すがのさんの基準がわからない(笑)。
亜弥:あ、それなら鳥居様が茶でも入れようって動いた瞬間に、指先にパーンってすればいいんじゃない?
GM:あっ、それだ! ありがとう!!
亜弥:ね、そうすれば鳥居様可哀相じゃない(笑)。

 銃声が響き渡り、鳥居の手にした茶托が粉々に撃ち砕かれる。

耀蔵:茶杓が割れたのを見て、珍しくすごく不機嫌そうな視線を向ける。「そなた……。蘭学者は物の価値のわからん奴ばかりか」
GM:「側室を嬲り殺されて少しはへこんでると思ったが、やっぱてめえは変わんねえな」
耀蔵:「何を言うか。今、貴様に紫の作った茶杓を壊されて怒りに狂っておるわ!」
亜弥GM:〜〜〜〜ッッッ!!!(机をバシバシ叩きまくる)
GM:ちょっ、ちょ、今俺様語りをしようと思ったのにちょっとヤバかったでしょ! やめてよいいじゃないのそういう気なら次はそこの紫が憑りついてる簪撃ち抜いてやるわよ!
耀蔵:そうしたら戦闘は避けられんな(笑)。
寅三郎:落ち着けGM、錯乱していることを自覚しろ(笑)。
GM:ハッ!? い、いや、すまなんだ……(笑)。高野はため息をついて笑う。「なあ、鳥居よ。天下泰平の徳川の世ってのは、裏を返せば泰平を保つために新たな芽をつぶし続けているってことだ」
耀蔵:(眉を寄せる)
GM:「そこに撃てる銃がある。人を救える医術がある。新たな英知があれば人はそれに向かって歩き出すのさ。それが生物の本能であり、人はそうやって進歩を続けてきた。それを潰してるのが、保守派のてめえらだ」
軋羽:ああ、そういう見方も確かにあるけど……。
GM:「俺様は、てめえみてえな老人どもが闊歩する暗黒の幕府を蘭学の力でぶっ潰す。止まる者も、盲目の安寧にすがる者も誰ひとりいない、新たな日ノ本を創り上げてみせる! てめえには、その様を目に焼き付けながらくたばってもらおうじゃねえか!」
耀蔵:「……それで終わりか?」
GM:「あー……なんつうか、もっとよおぉ、感嘆の涙とかスタンディングオベーションとかあるだろうがよ」
耀蔵:「高野長英。なぜわしが、蘭学を止めに入ったかわかるか?」
亜弥:なぜ……? そういえば、なんでこの人が蘭学が嫌いなのかって考えたことなかった。
耀蔵:「蘭学、それ自体は悪しきものではない。だが、蘭学をこの国に持ち込もうとする者たちの多くは、文字なき力に汲々としておる。文字がなくとも撃てる銃。文字がなくとも人々が従う方法。文字がなくとも民草が狂奔し、戦に向かわせる方法……」
GM:「何が言いてえんだよ、てめえの長々しい講釈を聞く気はねえぞ?」
耀蔵:「そなたたちのやっていることは所詮、過去の歴史の繰り返しだ。新しい技術に飛びついて、社会を混乱させ、争いを呼ぶ……。確かにその中から新しい力も豊かさも生まれよう。しかし、そなたが創り出す蘭学は、やがて人々を戦争に向かわせるのだ」
GM:「だから蘭学を弾圧したってか? 保守派のジジイの戯言だな。しみったれた朱子学にしがみついて、てめえはなんだかんだで自分の知らない時代が到来するのが恐ぇだけだ!」
耀蔵:「所詮そなたは無学の徒か? 違うであろう? そなたはわかっていたはず。何を怯えている、本当に世界を変えることを恐れていたのはお前たちだ」
GM:「馬鹿に……するなああァァァアアッ!」

 怒声と共に銃弾が座敷に無数の穴を開けていく。
 議論は平行線を続け、鳥居と高野の両者は一歩も引くことはなかった。
 それができるのならば、そも、蛮社の獄など起きなどはしなかった。
 時間だけがいたずらに過ぎ、破壊された室内には張り詰めるような殺気が満ちていた。





GM:高野の瞳には殺意と妖気が渦巻いているが、息を吐いて頭を振る。これ以上やると本気で鳥居を殺そうとしてしまいかねないんだ。
軋羽:ん、殺しにきたんじゃないのかい?
耀蔵:「随分と我慢強いな」
GM:「てめえのことは撃たねえよ。容易く楽になんざしてやるか。てめえは大久保の手で失脚したあとに、生きながら変わっていく世界を見て、絶望しながらくたばってもらわなくちゃならねえからな」
耀蔵:「変わる世界か。そなたは、その引き金を何も知らぬ女子供に引かせるのか? そなたは覚悟しているからいい。わしも覚悟している。だが覚悟していない者にも、人殺しの術を与えるのか?」
寅三郎:覚悟していない亜弥に無理やり覚悟させたのは誰だ……。
亜弥:そこはまあ、ほら鳥居様だから……(笑)。
GM:「女子供に? 引かせねえよ。俺の超蘭学兵器ならばそれを成せるさ」
耀蔵:「高野長英。そなたは道を誤っておる。その腕があれば、いくらでも日ノ本を新たに変えられる」
GM:「その道を閉ざしたのはてめえだろうがよ!」
耀蔵:「高野、わしと来い!」
一同:おおおおおっ!?
耀蔵:「そなたは蘭学の危険性も未来も希望も知っている。わしと来い。そしてわしが死んだ後、この国を導け!」
GM:「願い……下げだああぁぁっ!」絶叫と共に無数の銃弾が部屋を破壊していく。
耀蔵:「そなたにはそれができるのだぞ!」
GM:「願い下げだっつってんだろうが!」高野は焼けつくような憎悪の瞳で君を睨み据える。「てめえは尚歯会の崋山先生を殺した! あまたの同胞を殺した!」
耀蔵:「何ゆえ殺さねばならないかの理由はわかっているだろう!」
GM:「てめえの理由なんざ知ったこっちゃねえよ! ……いいか、これは俺様と、俺様の信じた蘭学の仇討ちだ。俺様の印怒羅で創り出す新時代を見ながら、己の非力に歯噛みして死んでいけ!」張り裂けるように叫ぶと、機械音と共に高野の姿が消えていく。《一気呵成》(注8)で退場します。
耀蔵:「その兵器で、そなたは日ノ本を導く神にもなろうというのか……?」

 呟きに返答はなかった。
 銃弾に蹴散らされた座敷に再び静寂が訪れる。
 床の間の掛け軸が、積み上げられた書が、書棚の硯が無残に砕けて銃痕にまみれた畳を汚していた。


耀蔵:「……そなたは女子供に銃を撃たせぬ社会を作るといいながら、この部屋のように壊すのだ」




■ミドル08 見知らぬ顔  ――――シーンプレイヤー:亜弥

 寅三郎の背はみるみるうちに遠ざかって消えた。
 療養所からの帰路、ひとりきりになった亜弥は屋敷への道を急いでいた。沈む夕日が妙に心細い。
 神田川にさしかかった時、再びその男は亜弥の前に姿を現した。


GM:では、亜弥がシーンプレイヤー。他のPCは登場不可だ。
寅三郎:む、しまった。これは置いて行ってしまったか。
亜弥:わーん、石蕗さん先に行っちゃった……。ひとりでとぼとぼ帰っていきます。とぼとぼとぼ……。
GM:君が神田川の橋にさしかかった時、橋の向こうに高野長英の姿が見える。非常に不機嫌そうで額には青筋を浮かんでいる。
軋羽:橋の欄干蹴っ飛ばしたり(笑)。
亜弥:ビキビキしてる(笑)。
GM:君を見止めると、高野はいつもの笑みに戻り歩み寄ってくる。「よぉ、どうした? 浮かない顔じゃねえか」
亜弥:「……長兄ちゃん」
GM:「今から亜弥のところに行こうと思ってたんだぜ。な、俺様と一緒に来るって話、そろそろ心は決まったか?」と、君の頭をなでようとする、その手からは硝煙のにおい。
亜弥:じゃあ、撫でられそうになったのをさっと避けて「長兄ちゃん……誰を撃ってきたの?」
GM:「あーまあ……なんだ、ちょっとイライラしちまってな。人は撃ってねえよ」高野は少し困った顔をして笑う。「血が頭に上っちまうのはよくねえよな」
亜弥:いつもの長兄ちゃんだ……。やっぱり赤墨で操られてる感じとかはしない?
GM:見た限りでは、そういう気配はないね。君の知っている通りの“長兄ちゃん”だ。「……どうした? 南町の奴らからまた何か吹き込まれたか?」
亜弥:「長兄ちゃん、あのね……」え、えっと……(苦悶の顔)。
軋羽:大丈夫かい、無理に探ろうとしなくてもいいんだよ?
亜弥:違うの、今から蘭学兵器のフルネームを言いたいんだけど……その、恥ずかしい……(一同爆笑)。
耀蔵寅三郎:そっちかよ!!
軋羽:き、気持ちはわかるよ(笑)。
GM:迷うなよ! いいじゃん堂々と言えよ超かっこいいじゃん!
亜弥:うっ……うう、うん。「ちょ、超究極摩訶最強蘭学兵器・印怒羅……」
GM:「ん、お前、弥八から聞いてたのか?」
亜弥:「あたしの兄ちゃんも、その兵器作るの手伝ってたの?」
GM:「ああ、もちろんさ。弥八の奴は……あーまぁ、カラクリ作りに関してだけは天才だったからな」
寅三郎:ん? 凄いんだぜ、と無条件で褒めてる感じではないな。
軋羽:何か含むところがあるね。
亜弥:「兄ちゃんと長兄ちゃんは、印怒羅を使ってどうするつもりなの?」
GM:「そりゃあ、鳥居みたいな融通の利かねえオヤジも、蘭学を馬鹿にする奴もいない、平和な治世を作り上げるのさ」高野は君の背に背負われた薙刀を見る。「亜弥みてえな子供がそんな武器を持って戦わなくてもいい世の中だ。俺様たちは平和な時代を創るために戦ってるんだぜ?」
亜弥:「兄ちゃんはそれ、賛成してたの?」
GM:それには、少し間が開いてから、君から目をそらす。「……そうに決まってるじゃねえか。俺様とあいつは古くからのダチだぜ?」
亜弥:「あたしは兄ちゃんから、蘭学は人を幸せにする手助けをする、って聞かされてたの」
GM:「そうさ。蘭学は人を幸せにする学問だ」
寅三郎:はぐらかすなあ。
亜弥:でもここで、あたしの眼で確かめなきゃ……!「あのね、長兄ちゃんは、うちの兄ちゃんが赤い墨で妖異にされちゃったっていうの、知ってたの?」
GM:「あー、まあ、俺様もこの目で見ちゃあいねえがな。赤墨の妖異とやらが弥八を操ったんだろ? 俺様の情報網を甘く見るんじゃねえぜ?」
亜弥:「じゃあ……南町の花井さんが誰かに襲われたって話は知ってる?」
GM:「お前、俺様を疑ってんのか?」高野は少し気まずそうに頭をかく。「ま、隠してもしょうがねえか。花井は俺がやったさ」
亜弥:「〜〜〜〜ッ!? やっぱり……長兄ちゃんだったんだ……」
GM:「いいか、花井はかつて俺様たちを裏切った。こいつぁ正当な仇討ちってやつだぜ?」高野は君をなだめるように言葉を続ける。「亜弥ならわかってくれるよな? なんたってお前は、弥八の仇を討つために鳥居の元に居たんだもんな?」
亜弥:うっ、ううっ……そう言われると言い返せない。でも……!「花井さんが襲われたとき、赤墨が出てきたって話を聞いたの……」
GM:(頭をボリボリ掻きながら)「ンん? あーそんなこたあ知らねえなあ」
亜弥:「ち、長兄ちゃんも赤墨の妙と繋がってると思っていいの? もしそうなら、どうしてうちの兄ちゃんを妙に操らせたの? なんで……なんで見殺しにしたの!?」

 不意に、頭を掻く鉄の腕が止まった。高野の眼に淀んだ光が宿りはじめる。
「…………お前も弥八と同じだなぁ、オイ」


亜弥:びくっ……!
GM:「あぁ、あいつによく似た剣幕だ。純真な瞳ってのは反吐が出るぜ」高野は、君の知らない目で君を見下ろす。「……弥八はよ、俺様たちを裏切ったんだ。ま、だから仕方ねえよな。仕方なかった。そういうことだ」
亜弥:長、兄ちゃん……!「仕方なかったとかわかんない! 兄ちゃんと長兄ちゃんは友達じゃなかったの!?」もう、涙がぼろぼろ出ちゃう。
GM:「ああそうさ、志を同じくする同志だった。志が違って袂を分かった。それだけだ」鉄の腕をギシリ、と鳴らしながら高野が君に一歩を踏み出す。「亜弥、悪く思うんじゃねえよ。……全部、お前の兄貴が悪いんだぜ?」
寅三郎:出た! そんな台詞、人生にいっぺんぐらい言ってみてえ(笑)。
軋羽:そんなこと言ってる場合かい(笑)。いいから早く逃げるんだ、亜弥!
亜弥:「長兄ちゃん、なんで……」じりじりっと長兄ちゃんから後ずさります。でも、背中の薙刀には手を伸ばせない。
GM:身構える君の後ろからひとつの女の声。「あヒァア、高野さん、随分てこずってるじゃあないですか」

 ぺたん、ぺたんと破れたぞうりの音が鳴る。
 粘つく笑い声とともに、伽羅油でびったりと黒髪を濡らした女がひとり。
「こんなちいちゃな小娘ひとり、ふんじばって連れてきゃいいのによう」


軋羽:妙っ!?
寅三郎:まさか本体か!
GM:うむ。高野が不愉快そうに妙を見やる。「楊にはそれで逃げられただろうが。それにこいつは弥八の妹だ。いくら命を差し出してもらうからって、筋は通したくてよ」
耀蔵:命……だと!?
寅三郎:蘭学者の仲間を増やしたいわけじゃなかったのか!?
GM:「――――だが、そろそろそれも限界だ」高野の目がらんらんと妖異の輝きを帯びはじめる。
亜弥:震える手で薙刀を抜いて握り締める。「長兄ちゃん、いくら平和な世を創りたいって言っても……でも、それで妖異に堕ちたら意味ないよ!」
GM:「どこに堕ちようが成さなきゃならねえ覚悟ってもんがあるんだよ。お前の兄貴にはそれがなかった。ま、お前に兄貴の穴を埋めてもらうさ」高野は君へと歩み寄り、瞬間、亜弥の腹に一撃が打ち込まれる。
軋羽:亜弥ーっ!
亜弥:がふっ!「長、にい、ちゃ……っ」

 鋼鉄の腕が亜弥の腹部にめり込んだ。掠れた視界の向こうに男の顔。
 見たことのない冷たさと妖異の臭気を帯びるその顔は、しかし、やはり“長兄ちゃん”であった。
 腹からこみ上がる眩暈と共に、少女の意識は闇へと落ちた。



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南町黒衣録 第三話「雷卵招来」第三幕へ続く