文・絵:すがのたすく


プリプレイ

 はじめまして、こんにちは。このリプレイの著者、すがのたすくと申します。
 2012年、新春。私は恋わずらいをこじらせていた。
 『天下繚乱』基本ルールブックに登場するパーソナリティー、苛烈と正義の南町奉行、鳥居耀蔵(注1)
 リプレイ『妖異暗躍譚』シリーズのNPCとして登場したかの奉行の勇姿に心を奪われた読者は多かろう。かくいう私もそのひとりであった。それは鮮烈な恋だった。
 しかし時はたってリプレイは完結、『女子高生江戸日記』や『化政学園の冒険!! −プリンセス・トクガワ−』で幾度かの再会を果たしたものの、以来、待てども待てども再登場の機会は巡ってこない。
 辛抱の限界に達した私は、デザイナーの小太刀右京氏へと連絡を取った。

すがの:もしもし小太刀さん、ちょっと相談に乗ってもらえませんか。
小太刀:おお、かまいませんよ。仕事でなにかありましたか?
すがの:鳥居様に会いたいです。
小太刀:そ、そうか………………。
すがの: あのね、そろそろ次のサプリメントで、時空破断を起こして現代に鳥居様を召喚する方法を書いたマスターセクションとかあってもいいと思うんですよ。
小太刀:君は何を言っているんだ。
すがの: ゲームデザイナーなんだからそこはこう、お願いしますよ! できるできる、後生だから、ほら!がんばって!
小太刀:いやおいちょっと待て、落ち着け、正気に戻れ!
すがの:(息をつきながら)無理、ですか…………。
小太刀: 無理だよ!! ……まあ、そんなに会いたいなら、セッションをやって鳥居を出せばいいんじゃないか。
すがの:あっ! そ、そうだね!
小太刀:そうそう、NPCで出せばいくらでも登場でき――――。
すがの: (さえぎって)南町を舞台にしたシナリオにしてさ、鳥居様をPCにして参加してもらうの!
小太刀:PC!? え、いやおい、鳥居はNPCじゃないんか。
すがの: あ、それでさ、南町に引き入れられたPC1の少女が、PC2の鳥居様と衝突し憎みながら成長していったりする南町の裏側を描いたキャンペーンでさ!
小太刀:いや、ちょっと待て、え、キャンペーン!?
すがの: (聞いてない)おおおお、いいよいいよ、渋くて切なくてかっこいいお話になるよ、これ! そうだ、せっかくだしリプレイとして企画書書いて編集さんに出してきます! ありがとうございます!
小太刀:だからちょっと待てえええぇぇっ!!

 ――――そんなこんなで、2012年、5月某日。
 ゴールデンウィークを過ぎて一気に暑さを増した晴天の下、都内にある貸し会議室の一室に、5人のゲーマーが集まっていた。



プレイヤー紹介  


平沢ミノル(以下、平沢)
 私の学生時代の友人であるTRPGゲーマー。リプレイへの参加はこれが初めてとなる。はきはきとした口調の、色白で可愛らしい女性。
 『ダブルクロス』シリーズをはじめ数々のTRPGを精力的に遊び、時にTRPG合宿まで行う熱血ゲーマーである。
 逆境やせつなくキリキリするシチュエーションが大好物のため、今回逆境スタートを切ることになるPC1のポジションをお任せしたいと、リプレイへの参加をお願いした。非常に涙もろく、萌え悶え暴れやすいという特徴を持つ。近頃は大河ドラマ『平清盛』に夢中。無類の猫好き。 


三輪清宗(以下、三輪)
 『異界戦記カオスフレア』のゲームデザイナーであり、『STEINS;GATE』のノベライズで人気爆発中の作家であり、オカルト研究家であるという、謎が謎を呼ぶ黒衣のインバネスコートの御仁。
 『妖異暗躍譚』シリーズでNPCの鳥居耀蔵を演じた張本人であり、私が鳥居耀蔵に惚れたのも、『天下繚乱』に嵌まった末にリプレイ執筆を行いはじめたのも、今回のリプレイが書かれることとなったのも、つまりはこの方の所以である。
 幾層にも感情と世界を積み重ねる重厚なロールプレイは圧巻の一言。ただしダイス運は壊滅的であり、数々のリプレイで目を覆うような奇跡の出目を披露している。


小太刀右京(以下、小太刀)
 『天下繚乱RPG』のゲームデザイナーであり、『マクロスF』や『ガンダムAGE』をはじめ数々のノベライズを手がける人気作家。三輪清宗氏とは長年の相棒である。
 数々のリプレイ作品にGMやプレイヤーで参加しており、『天下繚乱』のリプレイにおいても、美青年からボンクラまで、非常に多彩で濃密なキャラクターたちを世に放ってきた。
 物作りにおいて常に真摯で思慮深い姿勢は尊敬の一言。セッションにおいては豊富な知識から繰り出される数々のウンチクや、的確かつ貴重なツッコミを放ってくれる。


李重Y(リ・ジュンヨブ)(以下、ヨビ)
 熱い魂と誠実さを胸に秘めた、韓国籍のナイスガイ。妖怪を愛し、天羅万象と藤田和日郎作品に全てを捧げている。
 『異能使いリプレイ 鳴神の巫女』の魔空院邪導をはじめ、熱く煮えたぎるロールプレイと狭間に繰り出される妄言は数々のリプレイを盛り上げてきた。卓の全員で楽しいゲームを行うことを日々全身全霊で追求し続けている素晴らしいゲーマーである。
 私が『異能使い』のリプレイ以来の大ファンであり、加えて平沢ミノルさんとも共通の友人であることから、今回是非にとお願いすることとなった。


すがのたすく
 今回のリプレイの著者であり、セッションのGM。『モノトーンミュージアムRPG』のゲームデザインを手がけるイラストレーターであり、近年はリプレイ執筆も行っている。『天下繚乱』では『大江戸妖怪絵巻』に続き2度目のリプレイ執筆となる。
 鳥居耀蔵および南町をこよなく愛しており、GMに執筆に挿絵まで描けるというこの千載一遇のチャンスに血沸き肉踊りながら、こうなったら隅々まで南町を蹂躙させていただく構え。好きな武器はバットステータスが付くやつ。至高のコンビはおっさん&少女。


GM: 本日は『天下繚乱』リプレイの収録にお集まりくださりありがとうございます!
一同:よろしくお願いしまーす!(ぱちぱちぱち)
平沢: (ガチガチになりながら)て、『天下繚乱』もリプレイ収録も初めてで、今日はとっても緊張してます。
小太刀:あんまり固くならんで大丈夫ですよ、いつも通りでいきましょう。
ヨビ:僕も収録はだいぶ久しぶりですよ、いやー、ははは、楽しみですなあ!
三輪:私もまさか鳥居耀蔵をPCでやることになろうとは(笑)。
ヨビ: あの……その話を聞いてからずっと気になってたんですが、ほんとに本物の鳥居さんをやるんですか?
三輪:本物ってどういう意味ですか(笑)。
ヨビ:だってGMのHPが大変なことになるじゃないですか!(一同笑)
平沢: リプレイのお誘いが来た時に、PC2が三輪さんで鳥居耀蔵って聴いた瞬間から「すがのはGM普通に出来るんだろうか」ともう心配で心配で(笑)。
ヨビ: 僕もびっくりしました。鳥居耀蔵はNPCだから、絶対PCにはならないだろうなってタカをくくってたんですよ。目の前に突きつけられるともう、震えが来ましてね(笑)。
GM:あ、そうだ、デザイナーに確認を取っておきたいことがあるのですが。
小太刀:はいはい、なんでしょう?
GM: 鳥居耀蔵は公式パーソナリティーですが、英傑とされているのはあくまでこのキャンペーン内のみである。皆さんの遊ぶ卓では英傑だろうが妖異であろうが、好きに設定してかまわない。という扱いでいいでしょうか。
小太刀: ああ、そういう事になります。クラスやレベルの高さなどについても、その時々で変えてかまわないです。
三輪: 実際、ルールブックに書かれているレベルは12ですけど、今回は5レベルスタートですしね。
平沢:他のリプレイだと非英傑だったし(笑)。
GM:うすうす。じゃあ、そういうことでよろしく頼む!(サムズアップ)
小太刀:なんで虚空に向かって親指立てるんだ(笑)。
GM: いや、リプレイになった時に、画面のあっち側に読者さんがいるかなって(一同爆笑)。
平沢:あははははっ(笑)。
ヨビ:ちょっと緊張、とけました?(笑)
平沢:(笑いながら)は……はい、たぶんいけます、大丈夫!
GM:よかったよかった、そいでは今回予告に行きましょうか。


■今回予告  

 江戸を震撼させる強盗殺人事件。
 悪行を繰り広げる妖異を倒すため、南町の黒衣衆は闇を駆け、仇討ちを誓った少女は刀を取る。
 男を殺された少女と、男を殺した町奉行。奉行の忠臣と、奉行を探る間者の影。
 四人の瞳に英傑の輝き。闇夜に響くは貪婪の哄笑。
 今、赤墨の闇の中で、悪を正す者達の戦いが幕を開ける。

 天下繚乱RPG 南町黒衣録 「赤墨の予兆」
             百花繚乱綾錦―――いざ、開幕!



ヨビ:おお、かっこいい今回予告ですね! 貪婪ってどういう意味ですか?
GM:こうね、ガツガツ、グエヘヘヘヘッ! って感じです(一同笑)。
平沢:もうちょっと分かりやすく教えてよ(笑)。
小太刀:欲深に、貪欲に浅ましくというような意味ですね。
ヨビ: ああ、なるほど。ということは、“貪婪の哄笑”は浅ましく笑うという感じですか。勉強になりますね。
GM: かっこいい今回予告にしたかったから辞典を調べまくった(笑)。ちなみに赤墨は造語です。
三輪:で、今回のキャンペーンは南町の物語になるんですね。
GM:はい、まずは鳥居の関係組織をご覧くださいな(図解を広げる)。

【鳥居関係組織見取り図】
()内は出典サプリメントなど。



■黒衣衆
 鳥居耀蔵の指揮下にある、対妖異専門集団。公には存在しないとされる秘密組織であり、実質的に鳥居の私兵である。
 町奉行所が表の裁きを、仕置人が闇の暗殺などを行うのに対し、黒衣衆は妖異を倒すことを旨とする。
 活動を速やかに行うため、仕置人や奉行所勤めを合わせて行っている者も多い。
 また、黒衣衆には古くから鳥居家と契約を交わしている江戸天狗衆が組み込まれている。
 今キャンペーンにおけるPCたちの所属する組織となる。


平沢:へー、南町関係でもいろんな組織があるのね。
ヨビ:鳥居さん手広くやりすぎでしょう(笑)。
三輪: リプレイやサプリメントで設定が膨らんでいった結果、いつのまにかこんなになってしまいました(笑)。
平沢:こんだけ掛け持ちしちゃって、この人いつ寝てるんだろう(笑)。
ヨビ: 今回はこの中の黒衣衆にスポットを当てたキャンペーンですね。秘密組織はいいですね、ワクワクしますな(笑)。
GM: では、ハンドアウトに参りましょうか。今回はハンドアウト決め打ちで、PCも事前に作っていただいています。
小太刀:初期作成3レベル+2レベルの、計5レベルだね。
GM:PC1は平沢ミノルさん。
一同:おー!(ぱちぱちぱち)
平沢:はっ、はい! お手柔らかにお願いします!



■PC1用ハンドアウト  
 コネクション:弥八 関係:遺志
 宿星:兄の仇を討つ

 君は大江戸の片隅で、兄と肩を寄せ合ってひっそりと暮らす少女だ。
 兄、弥八は君のたった一人の大切な家族であった。
 しかしその夜、兄を迎えに出た君が見たのは、悪名高き南町奉行の一太刀のもと、倒れ付す兄の姿。
 事切れる兄を見た時、君は誓った。必ずや、仇を討つのだと。


一同:おおおおお!?(どよめく卓内)
小太刀: ちょ、ちょっとまて、PC1の兄貴を鳥居が殺すんか!? ホットスタートにも程があるぞ、おい!
ヨビ:PC1VS鳥居耀蔵ですか、ア、アンタなんちゅうことを!
GM: (真面目な顔で)鳥居耀蔵を仇と憎みながら、彼のもとで戦い成長する少女の英傑譚。このハンドアウトには萌えの全てが詰まっています。――ミノルさん、後は、託した!(ハンドアウトを差し出す)
平沢:(がっしり受け取って)おう、逆境プレイは大好きだ、任せとけ!
GM: 平沢さんにも三輪さんにも相談した上で了解をいただいたので、対立スタートにしてみました。おふたりともありがとうございます。
三輪:はっはっは、悪の南町奉行をやりますとも(笑)。
ヨビ:お、恐ろしい人たちだ……!(ガクガク)
GM:じゃあ、キャラクター紹介をお願いします。
平沢: はいっ! はじめまして、平沢ミノルです。キャラクター名は亜弥(あや)。13歳の女の子です。


PC@:亜弥 ――プレイヤー:平沢ミノル  

平沢(以下、亜弥): クラス構成は青龍(注2)が3、蘭学者(注3)が1、江戸っ子(注4)も1。うーんと、あとはどんなこと言えばいいのかな……?
GM: どんな過去や性格の子かとか、データや設定を教えてくれると嬉しいな。
小太刀:クラスに蘭学者が入ってるけど、蘭学を学んでるんですか?
亜弥: えっと、キャラを作る時にGMに相談して、コネクションの弥八兄ちゃんを蘭学者という設定にしたんです。

 亜弥の兄、弥八は、蘭学を志す徒であった。
 しかし近年鳥居耀蔵が行った蛮社の獄(ばんしゃのごく)によって蘭学弾圧が行われて以来、逃げるように住処を転々とし、現在は本所の達磨横丁という長屋で慎ましやかに暮らしている。


ヨビ:
蛮社の獄ってなんですか?
小太刀: 蛮社の獄というのはですね。まず、渡辺崋山という蘭学の権威が主催していた尚歯会(しょうしかい)という、蘭学や日本の政治を勉強する会がありまして。
ヨビ:ほうほう。
小太刀: 尚歯会には天才高野長英をはじめ、優秀な蘭学者たちが大勢所属していたのですが、当時大目付だった鳥居耀蔵が「彼らは海外に無断渡航している」といちゃもんをつけて、ほぼ全員を監獄に叩き込んで殺したり、自殺させたりしたのです。
亜弥:蘭学者の大弾圧って感じで、歴史の教科書にも載っていましたね。
ヨビ:なんちゅうこった。それは兄さんもひっそりと暮らさざるを得ない訳ですな。
小太刀:いや、しかし蘭学少女がPC1か。新しいな。
亜弥: 蘭学者はクラスとして持ってはいるんですが、きちんと学んだわけではなくて、兄ちゃんから見聞きした知識で知っているんだ。
ヨビ:物ではなく、知識で持っているという感じ?
亜弥: うん、あくまでも自力で蘭書を読んだり、兄ちゃんから聞いた知識として持っている。でも、きちんと学問として学んだわけではないので、蘭学の謎かけとかしても、チンプンカンプンな答えしか出てこない。
ヨビ:  (うなずきながら)その幼さ、初々しさ、いいですなぁ。うんうん、おじさんは好きだよ(一同笑)。
小太刀:なんですかそのまろやかな笑顔(笑)。
亜弥: 戦闘では《胸倉づかみ》(注5)から相手に《剛落撃》(注6)食らわせたりとかします。物理攻撃系ですね。《秘蔵の蘭書》(注7)を片手に読み解きながら情報収集をしたりもします。
三輪:攻撃と情報収集の両方が得意なのは便利ですね。
亜弥: で、ライフパスなんですが、実はちょっと迷ってるんです。亜弥はボンクラなただの町娘だから、“境遇”で取れる宿星がみんなかっこよくてどうしようかなって……。
GM: そこは気にせず拡大解釈しちゃっていいと思うよ。たとえば、兄の死の真相を知りたいから、【宿星:真実の探索】とか。
亜弥:あ、なるほど!
GM: あるいは「兄ちゃんの敵は許さない!」ってことで【宿星:悪は許さぬ】とか、【宿星:仇討ち】もいけるんじゃないかな。
亜弥: そっちはハンドアウトの宿星とかぶりそうだから、【宿星:真実の探求】にします。
GM:ほいほい、了解しましたー。
亜弥: あと、武器で取得している薙刀なんですが、できれば最初は持ってなくて、セッション内に渡されるって演出にしたいんですが大丈夫かな?
GM: おお、じゃあ途中でこちらから渡せるような演出にするよ(シナリオにメモを取る)。あくまでも演出なので、常備化ポイントを払って取得しておいてね。
亜弥:はーい。じゃあ、よろしくお願いします! がんばります!


 ※  ※  ※


GM:では、次はPC2の鳥居耀蔵を……はあはあ(一同笑)。
ヨビ:ちょっと落ち着いてください、GM(笑)。
GM: だ、だって、ハンドアウトに鳥居耀蔵って書いてあるよ!(一同爆笑)
小太刀:あんたが書いたんだろ!!
GM: ほんとだ!(笑) ではPC2、鳥居耀蔵。プレイヤーは三輪さんでお願いいたします。
三輪(以下、耀蔵):はい。

■PC2用ハンドアウト  
 コネクション:PC1 関係:有為
 宿星:妖異から江戸を守る

 君は南町奉行鳥居耀蔵その人だ。
 近頃江戸では幕府要人を狙った強盗殺人事件が頻発している。君もある晩、ひとりの妖異の賊の襲撃を受け、それを討った。
 直後、妖異の家族を名乗る娘に君は襲われる。
 娘の瞳に宿るは妖異のそれではない、英傑の光。
 その才に目をつけた君は、喚く少女を捕縛し帰路へとついた。


GM: ちょっと変則的ですが、このハンドアウトには亜弥にお願いしたい内容も含まれています。チェックしといてくださいな。
亜弥:はーい。兄ちゃんを殺した鳥居さんを殴りに行くよ!
ヨビ:でもこれ、鳥居様のハンドアウトでは弥八が妖異って書かれてますねえ。
亜弥:うう、どういうことなんだろう……。
GM:というわけで三輪さん、紹介をお願いします。
耀蔵:(重々しい口調で)南町奉行、鳥居甲斐守耀蔵である。


PCA:鳥居甲斐守耀蔵 ――プレイヤー:三輪清宗  

耀蔵: ――水野忠邦(注8)派閥に属する町奉行です。町奉行とは、江戸の行政や司法を担当し治安を行う行政官です。
亜弥:町奉行って、お白州で裁きを下したりする人ですか。
小太刀: そうそう、それです。時代劇だと遠山の金さんが有名ですね。寺社奉行・勘定奉行を並んで三大奉行と称されていて、幕政にも関わる重大な役職です。
GM:水野忠邦ってのは、今の老中首座です。政を実行運営する偉い人ですな。
小太刀:まあ、今で言う総理大臣みたいな感じだと思えばいいよ。
亜弥:なるほどー。
耀蔵: (重々しい声で)今、この国に危機が迫っている。その危機を呼び寄せているのがおそらく妖異である。奉行職だけではそれらに対応することは叶わぬ。それ故に、闇の仕置人や黒衣衆を組織したのだ。
ヨビ: (パーソナリティーのページを見ながら)解説には「苛烈で無情で、歌舞伎や蘭学への弾圧や禁制令を出し、江戸の人々には“蝮(マムシ)”と呼ばれ恐れられている」と書いてありますね。
耀蔵: 守るべきは国、そしてそこに住む民草。そのためには手段は選ばぬし、大局を成すには小事を切り捨てることもやむなきこともある。
亜弥:おおお、すごい……。
耀蔵: (声が素に戻って)で、データ的には玄武(注9)3、十手持ち(注10)1、天下人(注11)1。天下人は奉行ということでレベルアップ時に後取りした形です。
ヨビ:支援系ですか!? てっきり攻撃する人なのかと。
耀蔵: 最初は玄武4、朱雀(注12)1で攻撃できるようにしようと思ったんですが、そうすると【体力】がヘロヘロで、日本刀が持てなくてね……(一同爆笑)。
亜弥:か、かっこわるい!(笑)
耀蔵: 武士の魂たる日本刀は持たねばならんと思って、条件を満たせるクラスを探したんですよ。最初に「コレだ!」ってなったのは鬼神衆(注13)で。
小太刀:「コレだ!」じゃねえよ! 鬼になんな!(一同爆笑)
耀蔵:あとは妖怪(注14)人狼(注15)からくり人(注16)――。
小太刀:どこに行く気だよ!!!
亜弥:からくり耀蔵はいやだー!(爆笑中)
GM:まあ、人外は体力を上げやすいクラスが多いもんね。
亜弥:戻ってきてください、鳥居様(笑)。
耀蔵:で、あきらめて最終的に十手持ちになりました(笑)。
ヨビ:ああ、十手持ちはイメージぴったりじゃないですか。
亜弥:奉行ですしね。いいと思います。ああー、十手持ちでよかった(笑)。
耀蔵: まあそういうことで、日本刀は意地で持ちましたが、攻撃特技は持っていません。味方の再行動に【HP】や【MP】回復。あとは振りなおしや達成値操作などですね。
小太刀:ガチ支援だな。MP回復もあるのは心強いなあ。
耀蔵: で、ライフパスの邂逅ですが、鳥居家は江戸天狗衆と契約しているという設定が『京洛夢幻』にあるため、契約の証として紫という名前の側室を迎え入れております。
亜弥:側室! すごく時代劇っぽい!
小太刀: ……もしかしてなんだが、紫というキャラクターはGMから提示ですか?
GM: あ、そうです、なんで分かったの? ……いや今回さ、亜弥がなんていうかイイカンジになるわけじゃない。鳥居様と。しかもめちゃめちゃピリピリギリギリした関係でさあ!
ヨビ:あんたがそういうハンドアウト書いたんでしょうが!(笑)
GM: しのとうこ(注17)さんにシナリオの相談をしてたら、「嫉妬でマスタリングできなくならないように気をつけた方がいいよ」って言われて。で、いろいろ考えた結果、完璧な解決策を考え付いたのです。――――そうだ、鳥居様の妻をやろう(一同爆笑)。
小太刀:そうだ、じゃねええぇっ!!
GM: (両手を合わせて)妻をNPCとしてロールすることで、私は亜弥と鳥居様の関係を心穏やかに微笑ましく見守ることができるのです。
ヨビ:あ、あかん、この人重症や……。
GM: や、元々シナリオの重要なNPCでもあるのです、ちゃんとフェアーにいきますよ(笑)。
耀蔵: 契約としての関係ということで、彼女との関係は[取引]です。それでは、よろしくお願いいたします。


■PC3用ハンドアウト  
 コネクション:鳥居耀蔵 関係:忠誠
 宿星:強盗殺人事件を解決する

 君は鳥居耀蔵腹心の黒衣衆だ。
 近頃、江戸では幕府要人や豪商を狙った強盗殺人が頻発している。そしてとうとう、鳥居のもとへも妖異の賊が現われた。
 妖異の事件、鳥居が連れ帰った少女。様々な火種を感じつつ、主君のため、そして江戸の平和を守るため、君は事件の解決を誓った。


GM: PC3は小太刀さんへ。鳥居の腹心というハンドアウトになります。
小太刀(以下、寅三郎): キャラクターの名前は石蕗寅三郎(つわぶきとらさぶろう)。35歳の元新撰組の男です。
一同:新撰組っっ!?

PCB:石蕗寅三郎 ――プレイヤー:小太刀右京  


 石蕗寅三郎は天保4年、会津藩に生まれた。黒船来航をきっかけに脱藩した彼は、日本国を救うべく浪人となったのである。
 紆余曲折の末に浪士組へ入隊、寅三郎は新撰組の隊士となり、一番隊の平隊士として幕末を駆け抜けた。
 池田屋事件を過ぎ、組の精強と没落を目の当たりにし、戊辰戦争は母成峠の戦いで後の総理大臣となる板垣退助に惨敗、……そして敗北と死の淵で時空破断に巻き込まれた。

亜弥:おー、波乱万丈だ!
寅三郎: 瀕死の重傷を負って化政時代へ飛ばされてきたところを、鳥居耀蔵に拾われ、そして忠誠を誓って今に至っています。
耀蔵:寅三郎が未来の人間であることをわしは知っている?
寅三郎: 知ってるんだけど、喋ると事態がどうなるかわからないから喋らないし鳥居も聞かない、っていう関係にしたいんだけどいいかな。
耀蔵:かまわないよ。成すべき仕事をしてくれるなら、そこは追求せずにいよう。
寅三郎: 俺の知っている歴史では、鳥居耀蔵は失脚している。ただ、失脚するに至った詳しい経緯までは、東北の田舎侍だった自分は知らない。
ヨビ: これから失脚するかもしれない主に忠誠を誓う新撰組……胸中にはなにがあるのか。
亜弥: 未来から来たってことは身元はあやふやなんですよね。表向きはどういう立場なんですか?
寅三郎: 鳥居家の食客、つまり居候です。鳥居の個人的な家臣というか使用人ですね。いちおう武士ですがあやふやな身分、はっきり言って胡散臭い侍です。
GM:立場的には黒衣衆の本庄辰輔(注18)と似たような感じですか?
亜弥: そういえば、江戸絢爛パーソナリティーの本庄さんも鳥居さんの使用人でしたっけ。
寅三郎: そうですね、本庄との関係は部下っていうか子分。ライフパスの邂逅も本庄に取りました。で、ここが重要なんですが、俺は新撰組としてはあまり強くなかった。
亜弥:強くないのが重要なんですか!?
寅三郎: クラスが白虎(注19)3、新撰組(注20)1、で、秘剣使い(注21)でして、必殺技《秘剣:百舌刺し》(注22)を取得しています。名前を変えていいというルールを使って、《秘剣:黄泉返し(よもつがえし)》という呼称に。
一同:秘剣黄泉返し!
GM:かっこいいな!
寅三郎: あと、《高名なる秘剣》(注23)を持っているので、俺が秘剣使いなのは知れ渡ってるんです。「石蕗寅三郎と言えば、あの秘剣黄泉返しを使う……」みたいな。
ヨビ:「お前が噂の、“黄泉返しの寅”か」ってやつですね!
寅三郎: 「こいつはどうも秘剣を使うらしい」というのは知られてる。で、秘剣について「見せてくれよ」って言われると「いや、俺の秘剣は見せるようなもんじゃないので」と言い続ける。なぜかというと、俺の秘剣は自分の【HP】が0になった時にしか使えない。
亜弥:まさに必殺なんだ!?
耀蔵:瀕死の際にだけ使える必殺剣で、それ以外の腕はからきしということか。
寅三郎: そうです。設定的には一刀流の流れを組んだ甲冑剣術で、本来は相手の剣を甲冑で流して、カウンターをとって殺す技だった。しかし俺には才能がなく、そこの見切りがどうしてもできなかったために、自分も重傷を負うんだけど、相手は死ぬ。っていう秘剣になってしまった。
GM: 天才だったんじゃなくて、才能がなかったが故に秘剣になってしまったのか。おもしろいなあ。
寅三郎: そう、それがすごいコンプレックス。ただし、いままでその秘剣を受けた奴は皆死んでいるので、技を破られたことはない。
ヨビ:じゃあ体中に傷があったりするわけですね。
寅三郎: そうそうそう。で、基本的にはあんまり喋らなくて、何が楽しいのかよくわからない男です。
GM:寡黙系? それとも感情が消えてる系?
寅三郎: 寡黙系です。考えてることはあるんだけどあまり喋らない。あと、元新撰組ですが、新撰組のだんだら羽織は着ていません。
ヨビ:それは何ゆえに?
寅三郎: 自分はあの時代で結局何も成せなかったと思っている。そしていまさら、あんなバカバカしいことはもうできない。しかし、もしかすると自分にはまだなにかやるべき事があるのではないかと思って、鳥居に付き合っているんです。
ヨビ:燃え尽きそうな中で今だくすぶってるわけですね。渋い男ですなあ。



■PC4用ハンドアウト  
 コネクション:大久保古河守利真(おおくぼこがのかみとしざね) 関係:忠誠
 宿星:鳥居耀蔵を探る

 君は老中、大久保古河守の配下であり、南町奉行のもとに潜入している間者だ。
 君の任は鳥居の懐に入り込み、彼の弱点や不都合な証拠を押さえることである。
 大久保の手引きによって、君は鳥居の対妖異部隊“黒衣衆”の一員として潜り込むことに成功した。
 主君のため、そして図らずも江戸の人々を守るこの任務に充実を感じながら、君は虎視眈々と機を伺っている。



GM:お待たせしました、PC4はヨビさんにお願いいたします。
亜弥:おおー、スパイなんだ! いいなあ!
寅三郎:チーム物といっても、結構人間関係が複雑だな。
ヨビ:(ハンドアウトを見ながら)大久保古河守というのは実在の人物ですか?
GM: いえ。元ネタになっているのは何人かいますがオリジナルのキャラクターです。
ヨビ:わかりました。えっと……この人はいい人ですか?(一同笑)
亜弥:なんて直球な(笑)。
GM:むむ、それはわかっていたほうがやりやすいということかな?
ヨビ: はい、それによってスタンスがだいぶ変わってくるのです。なんとなくでかまわないので、知った状態でロールプレイがしたいなと。
GM:そういうことなら。そうだなあ、何か腹に一物ありそうな人物です。
ヨビ: なるほど、ありがとうございます! では自己紹介を。名を、軋羽(きしば)と申します。種族は天狗、20代前半の女性です。


PCC:軋羽 ――プレイヤー:李重Y  

  駿河の山々に住まう天狗を両親として軋羽は生まれた。
 天狗同士が子を成す事は禁忌である。軋羽は“魔縁”と呼ばれる忌み子であり、乳飲み子の時分に両親と共に山を追われた。
 数年後、両親の病死をきっかけに彼女は裏街道へ足を踏み入れ、生きるために数多の罪に手を染めていったのである。
 じょじょに力をつけ、才ある天狗の力で大盗賊として名を上げた彼女は、自らと境遇の似た魔縁や孤児を集め、駿河の辺境に里を作った。
 世間に恐れられる女盗賊は、孤児たちに穏やかな暮らしを与えながら、裏街道の日々を送っていた。
 五年前、江戸で捕り方に捕縛され、死罪を申し渡されるまでは。


軋羽: 死罪を待つ牢から大久保古河守利真に拾われまして、「無罪放免にしてやるから五年間自分の下で働け」と言われ、彼のもとで働くことになったのです。
GM:取引で仕えてるんだ。じゃああんまり親密ではない感じ?
軋羽: はい、どちらかというとビジネスライクというか、仕方なく、ですね。報酬は里に送ってやる、って言われてるので、あたいはそれを信じるしかない状況です。
寅三郎:取引が五年前ってことは、今が最後の一年なのか。
軋羽: そうです、この任が終われば無罪放免で放してやると言われています。この任が解かれたら、あたいは里の子供たちに会いに行くんだ。
GM: なんでそんなにおいしそうなフラグを持ってくるの。そんなこと言われたら酷いことしたくなるじゃない(一同笑)。
軋羽: そう、帰ったら里は焼き討ちに会っていて子供たちの白骨が転がっているシチュエーションだったりしたらプレイヤーはもう狂喜乱舞! そしてあたいは泣きながら骨を食み「許せぬぅ!」って叫びますよ!(一同爆笑)
亜弥:やめてー!すっごい燃える展開だけど!(笑)
GM: ひ、ひどすぎる(笑)。まあ子供たちの無事を祈りつつ、クラス構成はどんな感じですか?
軋羽: 朱雀2、天狗(注24)1、渡世人(注25)1、白波(注26)1です。犯罪者というか、アウトローなクラス構成ですね。メインは《頼むぜ相棒》(注27)で〈斬〉9D6+3ダメージを【行動値】25で率先して叩き込もうというプランです。
GM:えっ、レベル5でダメージダイス9Dは結構すごくない?
寅三郎:すごいすごい。相当なダメージ特化の組み合わせだ。
軋羽: 《凶状持ち》(注28)《空舞う黒影》(注29)などなど、ダメージロールを上げる特技をたくさん持ちました。《頼むぜ相棒》は、幼い頃から一緒に過ごしている鎌鼬(かまいたち)に襲わせる、という演出で。
亜弥:妖怪を従えてるんだー。じゃあやっぱりかっこいい系のお姉さん?
軋羽: そうですね、黒髪で背の高い女性的な身体に、天狗羽は魔縁を表して乱れています。カバーは御用聞きなんですが、オープニングで潜入の命を受ける時に、表向きは御用聞きとしても入り込むということにしたいなと。
GM:おお、いいですね、了解です。じゃあそんな感じに演出しましょう。
亜弥:いいなあ、渡世人の人情派お姉さん!


■PC間コネクション  

GM: では、PC間コネクションを順番に取得しましょう。PCたちがどのような関係性であるかを表すものです。まずはPC1の亜弥から、PC2の鳥居へ。
亜弥:はい。兄ちゃんを殺すことになる鳥居さんには[憎悪]しかないよ!
耀蔵: 燃えるような憎しみの目で見られるたび、元気でよいことだと思っております(一同爆笑)。
亜弥:ちくしょー、絶対に痛い目を見せてやる!
耀蔵:人生には、目標が必要だ。
軋羽:鳥居様の手の内で転がされてる(笑)。
GM:では、鳥居からは寅三郎に。
耀蔵: [有為]ですね。そうだ、立場上の上司として聞いておきたいのだけど、石蕗は楽しみとか趣味ってある? わしが知ってそうな。
寅三郎: そうだなあ……(考えて)読書、かな。実はけっこうインテリで、国学とか神学とか和歌とか寺巡りとかいろいろかじっている。
ヨビ:金魚鉢で金魚を一匹だけ飼ってたりとか。
寅三郎:そうそう、そういう感じ。すごく内向的な。
GM: 寅三郎からは軋羽に。寅から見ると軋羽は、新しく入ってきた黒衣衆、という立場になるね。
寅三郎:そうねえ……じゃあ最初は[疑念]で行こう。
軋羽:寅三郎から疑念だー、ひゃっほーい!(一同笑)
GM:ど、どうしたですか、いきなり(笑)。
軋羽: (満面の笑みで)だって、“黄泉返しの寅”から疑いを持たれているんですぜ。あの!“黄泉返しの寅”から!(一同笑)
亜弥:秘剣使いの二つ名のかっこよさはずるいよね(笑)。
GM:最後は軋羽姉さんから亜弥に取ってね。
軋羽: ライフパス表の任意を選択して、[同情]にしましょう。かわいそうな娘ね……と。
耀蔵:里の子供たちの姿も思い起こさせる?
軋羽: はい、それに立場は違えど自分と似たような境遇なので、複雑な心情、と申しましょうか。
GM: では、いよいよセッションに入りましょうか。改めて、よろしくお願いしますー!
一同:よろしくお願いしまーす!



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オープニングフェイズ  
■オープニング01 大久保よりの密命

 江戸城西丸下、老中屋敷街。
 夜闇の中、その広大な老中屋敷は無音の威圧感を湛えて軋羽を迎え入れた。
 日陰の身である自らへ下された大久保直々の呼び出し。
 それは、今から彼女が受ける任が非常に重大な事柄であることを予感させた。

GM:では、最初のオープニングは軋羽から参りましょう。
軋羽:はい、登場しましょう。
GM: 君は、主である大久保古河守利真の屋敷へと呼び出された。日陰の者として仕える君が主直々の呼び出しを受けるのは非常に珍しいことだ。
寅三郎:今回の件がそれだけ重要な意味を持っているということか。
軋羽: では、あたいは屋敷の廊下を歩いていくんですが、普通は軋む廊下が、軋みを立てない。
亜弥:おお。
軋羽:そして、主の部屋の前に来たところで一回、音を鳴らすのです。ギィ……。
GM:「入れ」襖の向こうから声がする。

 襖が開くと、青畳が整然と敷かれた間の奥に、ふたりの男が座していた。
 ひとりは老中、大久保古河守利真。六十を間近に控えた眼光鋭い老獪の面を、白髪交じりの髷が彩っている。
 大久保の背後にはひとりの護衛。顔立ちの整った総髪の若い武士が、部屋の隅で影のように座っていた。

軋羽:おお、大久保様の登場だ。あたいは後ろにいる男も知っていますか?
GM: あ、そうね、名前くらいは知っててもいいかも。大久保の護衛で阿良々木(あららぎ)という名です。いつも彼の後ろに控えている。
軋羽: 噛みそうな名前だ(笑)。では、阿良々木の方にも会釈をしましょう。
GM:彼はちらりと君に視線を向けるだけで微動だにしない。
亜弥:無愛想な人だなあ。
軋羽: 日陰者のあたいをなぜ直々に呼び出したのだろうと、訝しげに思いながら「軋羽、ただいま参りました」と、頭を下げます。
GM:「面を上げい」
軋羽:「はっ」
GM:「…………そろそろ、五年になるか」
軋羽:(頷いて)「はい、この季節を迎えて、ようやく五年でございます」
GM: 「そなたにはずいぶんと役立うてもろうたな。その働き、里の者たちもさぞ喜んでいることであろう」
軋羽: 「もったいないお言葉です。あの子たち……いえ、あの者たちは元気なのでしょうか?」
GM:すると、控えの者が数通の文(ふみ)を持ってくる。
軋羽: 「これは……! ありがとうございます」本当はすぐにでも読みたいのですが、さすがに大久保様の前で開くわけにもいかないので、面に書かれた宛名だけを見つめて。
GM: ろくに文字もかけない里の子たちががんばって書いたのだろう、間違いだらけの歪んだ字で“軋羽姉ちゃんへ”と書いてある。
亜弥:ああん!(左右に揺れ始める)
寅三郎:萌えるの早いな!(一同爆笑)
亜弥:お、お姉ちゃんのためにちっちゃい子たちが頑張って書いたんだよね!?
GM: うん、頑張って書いた! あちこちに墨に汚れた小さな指紋がペタペタとついているよ。
亜弥:(ヘッドバンキングをはじめて)ああ、たまらんのう……!(一同爆笑)
軋羽: 平沢さんのスタートダッシュがすごい(笑)。あたいは大事に文を懐へしまいましょう。
GM: 大久保はそんな君を静かな笑みを湛えながら見つめている。「最後の勤めとして、ひとつ大きな任を担ってもらわねばならぬ」
軋羽: 今日言い渡される任務が終わればあたいは里に帰れるんだ、と一瞬すごく嬉しそうな表情になるんですが、顔を引き締めます。「なんなりとお申し付けください。いかなる任であろうともあたいが立派に勤め上げてみせましょう」
GM:(机をバシバシ叩く)はあはあ……!
亜弥:(一緒に机を叩きはじめる)はあはあ……!
軋羽:え、ど、どうしました?
亜弥:20代のばいんばいん姉ちゃんにそんなこと言われたらたまらんね!
GM: なんでも、なんでもお申し付けていいの? いいのね!? ちがう、大丈夫、別にやましいことじゃないよ、はいっ!(一同爆笑)
寅三郎:ふたりしてなんなんだよ! 全然シーンが進んでねえじゃねえか!(笑)
耀蔵:はははははは!(爆笑中)
軋羽:そろそろ任務をください、大久保様(笑)。
GM:ごっ、ごめん!(笑)「――南町奉行、鳥居甲斐守耀蔵。知っておるな」
軋羽: 「もちろんでございます。あの者を知らぬものはこの江戸にはございません」
GM:「そなたに、鳥居のもとへ潜入してもらいたい」
軋羽:「……っ!」

 軋羽はびくりと身体を強張らせた。背中で乱れ羽根がざわざわと震えている。
 鳥居甲斐守といえば、南町の毒蝮と仇名される苛烈な実力者だ。
 権力と金におぼれる無能な幕閣を殺るのとは訳が違った。

GM: 「鳥居は水野忠邦の右腕と目される男だ。水野の勢力は日に日に高まっておる。このまま、彼らに胡坐をかかせておくわけにはいかんでの」
軋羽: 少し間を空けて、こくりと頷きます。「仰せのままに……。して、どのような事を調べて参ればよろしいのでしょうか?」
GM: 「鳥居のもとへ入り、鳥居に従え。鳥居を新たな主と思い、尽くし、あの男の全てを知るのだ」大久保はパシリ、と手にした扇子を打つ。「……あやつは妖異を討つために黒衣衆という私兵を編成している」
軋羽: 「噂には聞いておりました。やはりそのような集団が存在するのですね」江戸天狗たちが鳥居と契約しているという話は知っていますので。
GM: 大久保は頷く。「江戸のそなたの同族の者たちも、黒衣衆の一員であると情報が入っておる。その中にまぎれこめるよう手はずを整えた。表向きは南町の御用聞き、裏では黒衣衆として任を果たすのだ」
軋羽:「黒衣衆として、任を……」
GM: 「黒衣衆、そして噂によれば、闇の仕置人にもあの男は関わっておる。あやつの闇の部分はあまりにも多い。鳥居のもとで働き、あやつを失脚させるに足る証拠を掴むのだ」
軋羽: 噂に聞く鳥居耀蔵のもとに潜伏すると聞いて、内心不安でたまらないのですが、今回の任を終わらせれば里に帰れる、と心を奮い立たせます。「かしこまりました。軋羽、この身に変えてもその任を必ずや成し遂げて見せましょう。……その暁にはあたいを放免していただくということでよろしいでしょうか?」
GM:「里の者たちも、待っておるのだろう? そなたとの約束は忘れておらぬ」
軋羽: 「なれば、お約束いたしましょう。南町の蝮めをこのくちばしで貫き通し、奴の持つ真実を全て、おん前にさらけ出してご覧に入れましょう」
GM:満足そうな笑みを浮かべて、大久保は頷く。
軋羽: では、立ち上がって部屋を出たところで、胸元にしまってあった文を手に取るのです。

 墨染みに塗れた文を見つめ、ぽつりと呟く。
 「これであんたらの
もとへと戻れるからね」

軋羽:――そして、音もなく廊下を去っていくのです。
亜弥:軋羽姉ちゃんかっこいい……!
GM: では、そこでシーンを終了いたしましょう。軋羽に【宿星:鳥居耀蔵を探る】を差し上げます。




■オープニング02 伊崎屋凄惨ノ事態

 近頃江戸では毎夜のように強盗殺人事件が起きている。
 狙われるのは幕府の要人や豪商ばかり。金品は奪われ、家の者は人に有らざる殺し方をされるという。
 寅三郎は同心にまぎれ、事態を精査するべく事件現場へと赴いた。
 下手人が妖異であれば、奉行所の同心ではなく黒衣衆の出番だ。

GM:お次は、石蕗寅三郎のオープニングです。
寅三郎:へえ、登場しましょうか。
GM: 近頃江戸で頻発している連続強盗殺人事件。昨晩も大店と目付の屋敷、二軒が襲われたとの報を受けた。
亜弥:うわあ、そんなに起きてるんだ。
寅三郎: ただの畜生働きってんなら俺らの出る幕じゃないですが、妖異となれば話は別だ。まずは現場を見にいくとしましょうか。

 寅三郎は昨晩の事件現場の一軒、日本橋の大店、伊崎屋へと赴いた。
 同心たちが行きかう室内には天井まで噴き上げた血痕おびただしく、死臭と血、そして嘔吐物の匂いが充満している。
 賊の人数は不明。当主の他、家人の大半が殺害されたという。
 現場の隅にはくるむことすら叶わないのであろう、残骸が積み上げられ、それを覆い隠すように幾枚ものムシロがかけられている。
 赤い池を生みながらこんもりとそびえる骸の山は、襲撃者が人でなき者だということを確認するには十分だった。

亜弥・軋羽:うわぁ…………。
寅三郎: これはまあ、派手にやったもんですなあ。ひとまず奉行所の連中には顔を通しておきましょうか。「鵜殿(うどの)(注30)様、どうですかい?」
軋羽:鵜殿って誰でしたっけ?
耀蔵: 『江戸絢爛』のパーソナリティーだな。南町奉行所の与力――同心たちのトップのひとりだ。
寅三郎:妖異のことは何も知らない、保身主義の男ですね。
GM: ほいほい、じゃあ奉行所でこの件を担当しているのが鵜殿ってことにしよう。(江戸絢爛をめくって鵜殿の説明を確認しながら)彼は現場を見るのも嫌な様子で、扇子で顔を覆っている。「あぁイヤだイヤだ! まったく酷い有様ねェ」(一同笑)
亜弥:えーっ、そんなオカマっぽい口調の人なの!?(笑)
寅三郎: 俺は、なんでこんなところにいるんだという目を同心連中に向けられながら、「人間の仕業ではありませんなあ。あぁ、いや、失礼」
GM: 「石蕗さん、アナタも物好きねェ。お奉行様のお客人がわざわざ見るようなものでもありませんことよ?」
寅三郎: (ニヤリと笑って)「いやあ、もっと酷い死体はいくらでも見ましたから。まぁ、こんなのは、ね」
GM: 「嫌だ、このような有様がそうそうあるわけないじゃありませんか。見たなんて言わないで下さいよ。あァ、気持ち悪い気持ち悪い!」
寅三郎:それには苦笑する。まあ、悪い人ではないんだろうがね。
GM: 「見物もいいですけれど、石蕗さんもあんまり長居するもんじゃありませんよ!」と言いながら鵜殿が引っ込んでいくと、入れ替わるように野次馬の間を縫ってひとりの男が近づいてくる。

 それは、額に剃りこみの入った、剣呑な目つきの男だった。
 本庄辰輔。
 寅三郎と同じく鳥居に仕える使用人だが、その実は黒衣衆の江戸天狗の総纏めや、鳥居の組織する闇の仕置人の元締めの天狗である。

亜弥:(手を叩いて)わー、本庄さん来たー!
GM: 本庄は漂う死臭にも頓着することなく君へと歩み寄る。「俺が行った目付の屋敷も似たような有様だ」
寅三郎: ムシロをめくって死体を検分しながら、「……やはり、同じ手口ですか」
GM:「お前の見立ては?」
寅三郎:「断定はできませんが、まぁ、人間じゃないでしょうなあ」
GM:「……寅、これは俺たち黒衣衆の案件だ」
寅三郎:「でしょうな」
GM: 「下手人は幕府要人や豪商を狙い撃っている。このままじゃあいつ甲斐守様に刃が向かぬとも限らん。この一件、早急に片をつけるぞ」
寅三郎: 「そうですな。まあ、俺とあんたが揃ってるんですから、そう焦ることはありますまい。今の南町で一番は本庄殿、二番が俺だ」
GM: 「二番、ねぇ……」本庄の目に剣呑な光が宿る。「“黄泉返しの寅”ともあれば、俺なんざ居なくとも木っ端妖異を返り討ちにできる、だろう?」
寅三郎: 「はは、よしてくださいよ。そうやっておだてて、また俺に黄泉返しを使わせようとする。……あんたはそういう人だ」
GM: (ニヤリと笑って)「なんのことだかわかんねえな」
寅三郎: 俺も笑って、「本庄殿、あんたは俺がいた京の都に吹く風と同じ匂いがする。……俺はね、あんたのことが好きですよ」
GM: その言葉に本庄は、ふっともう一度笑って君から視線を外す。「まあいい、期待しているぞ。その秘剣とやらで、甲斐守様のお役に立っていただこう」
寅三郎:「ああ、任しておくんなさい」と言って、現場から去っていこう。
GM: では寅三郎に、【宿星:要人暗殺事件を解決する】を差し上げてシーンエンドにいたしましょう。
亜弥:(ぷるぷる震えながら)しぶい、しぶいよ……!
軋羽:かっこいい……!



■オープニング03 弥八と亜弥

 江戸本所、達磨横町。
 亜弥はその小さな長屋の一室で、兄の弥八と肩を寄せ合って日々を生きていた。
 長屋で蘭書を読み、傘張りの内職や大家の手伝いで日銭を稼いで一日を過ごす。夜が更ける頃、兄が仕事を終えて帰ってくる。それは平凡だが幸せな暮らしであった。
 ある新月の夜、少女の目の前で別れが訪れるまでは。

GM:お次はPC1、亜弥のオープニングに行きましょう。
亜弥:(背筋をピンと伸ばして)はっ、はいぃ……っ!
GM:君は達磨横町にひっそりと住む少女だ――――って大丈夫?(汗)
亜弥: (ガチガチになりながら)す、すいません、いざ自分のシーンだと思ったら緊張しちゃって……。
耀蔵:リラックスリラックス(笑)。
寅三郎:さっき萌え転がっていた時の気分を思い出すんだ(一同笑)。
GM: 最初は弥八との回想からいこうか。兄ちゃんは夜に仕事を終えて帰ってくるんだけど、亜弥は何をして待ってる?
亜弥: えっと、昼間は蘭書を読んでたりするんだけど、夜に読むのは油を使っちゃいそうなので、月明かりでできる程度の内職をしています。
軋羽:傘張りとか、花細工とか?
亜弥:あ、傘張りがいいな!
GM: おけおけ、傘張りは内職の鉄板だよね(笑)。じゃあその日も君が内職をしていると、「亜弥、今帰ったよ」と優しい笑顔を浮かべて兄の弥八が帰ってくる。
亜弥:「あ、兄ちゃんお帰りー」ててててっと駆け寄って。
GM: 「またこんな夜更けまで内職をしていたのかい?」弥八は軽く苦笑して、「銭の心配はしなくていいと言っているのに」
亜弥: 「だって、兄ちゃんだけに働かせるわけにはいかんよー。やっぱり、おまんま食うためには働かないと!」
軋羽:ええ子やー。
亜弥:で、今日稼いだ小銭を出して「こんだけ稼いだー」
軋羽:(切ないナレーション風に)たったの、三文であった…………(一同爆笑)。
GM:しょっぱいな、おい! もうちょっと奮発しようよ(笑)。
耀蔵: 傘張りなら十二文は稼げるかと。この時代は実質3時間ぐらいでそれを稼いでたって話だから。
寅三郎:子どもが稼ぐには上等な金額じゃないですかね。
亜弥:じゃあ握りしめてた十二文を兄ちゃんに渡すよー。
GM: 「ありがとう、亜弥。明日は一緒に何か美味しいものを食べにいこうね」と言いながら、兄は文机の上にある蘭書に目をとめる。「また、蘭書を読んでいたのかい?」
亜弥: 「兄ちゃんがどういう事を学んでるのか知りたいから。けど、あたしにはちんぷんかんぷんだ……」
GM: 「大概の人が分からないと言って途中でやめてしまうんだ。わからなくてもきちんと読もうと続けている亜弥はとても偉いよ」
亜弥: 「ちょっとでも兄ちゃんの役に立ちたいんだ。兄ちゃんが学んでいる蘭学は、きっといいものに違いないもん」
GM:弥八は少し嬉しそうな顔で、亜弥の頭を撫でる。
亜弥: 「だって、前は蘭学すごい蘭学すごいって言われてたのに、今は蘭学ってだけでお上に睨まれちゃうなんて、あたしは悔しい……」
GM: 「外の世界を見ようとすることはとても難しいんだ。今あるものを見ることで、大概の人は安心して満足してしまう。……けれど、蘭学は人々に新しい可能性と希望を運んできてくれる学問だと、兄ちゃんは信じているよ」
亜弥:(ぱあっと顔が明るくなって)「兄ちゃん……!」
GM: しかし、弥八の表情が少し陰る。「だけど、この本を持っていることは他の人には言ってはいけないよ。この本がいかに素晴らしかろうと、今はこれを持っていると捕まってしまう。(声を潜めて)……特に、今の南町奉行の鳥居……いや、鳥居様に見つかったら、最後だ」
耀蔵:はっはっは(笑)。
軋羽:まるで悪者ですな(笑)。
亜弥:(ゴクリ、と唾を呑んで)「うん……わかった」
GM: 「いつかはきっと、誰もが望むものを大手を振って学ぶことができる時代になる。そのために兄ちゃんはがんばっているんだ。……亜弥もがんばっているね」と笑って、十二文を持った君の手を上から握り締める。「さ、ご飯にしようか」
亜弥:「うんっ!」
GM:そんなやりとりが君の日常だ。
亜弥:ああ、いい兄ちゃんだ。弥八兄ちゃん、大好き……!
軋羽: こ、こんないい子と兄貴をこれからよくも……鳥居耀蔵めぇ!(一同爆笑)
耀蔵:(渋い声で)行いの善悪は、人格の善悪には関係ない。
軋羽・亜弥:くそおおおおっ!(笑)
GM:さて、そんな日々が続いていたある日。それは新月の晩の事。

 その日亜弥がいつまで待っても、兄は長屋へと帰ってこなかった。
 時折、表を通る人々の足音や風の音に腰を浮かせるが、兄が戸を開けることのないまま、とうとう丑の刻の鐘が鳴った。

亜弥: 「兄ちゃん、なんで帰ってこないん……?」不安になって、長屋の外に出て通りの方をずっと見ています。なにがあるかわからないので、いつも使っている竹箒を握りしめて。

 夜霧が濃い。月のない空が水墨のごとき闇となって江戸の町を満たしている。
 空気が妙に重く、四方から少女を押しつぶすようにのしかかっていた。

GM: そんな中、はるか向こうの武家屋敷が続く道の角に、弥八らしき姿がちらりと見える。
亜弥:いた!「兄ちゃんっ!?」
GM:弥八は君の声に気づかないのか、角を曲がって見えなくなってしまう。
亜弥: 「兄ちゃん、暗いから曲がる角間違えたのかなあ」と呟きながら、竹箒を持ったまま兄ちゃんの後を追っかけます。
GM: すると、弥八が消えた曲がり角の向こうから喧騒が聞こえてくる。刀の鳴る音、鈍い音に叫び声。
軋羽:う、うわあぁ……。
亜弥: なんだろ? と、ちょっと不安に思うんだけど、兄ちゃんのことが心配なので走って角を曲がろう。

 角を曲がった亜弥が見たのは兄の後姿。
 次の瞬間、少女の眼前に鮮血がほとばしった。



■オープニング04 闇夜の襲撃者

 江戸の町では強盗事件が頻発していた。
 現場へと赴いた黒衣衆の寅三郎と本庄からは、事件が妖異の仕業であると報告が上がっていた。早急の対処を練りつつ、山のように積み上がった仕事を終えた南町奉行は、役宅への帰路へと着いていた。

GM: それでは、鳥居のオープニングに参りましょう! 寅三郎と軋羽は登場可、亜弥は途中で自動登場となります。
亜弥:(両手を握りしめて)はいっ!
寅三郎:では俺は先に出ておきましょうか。
軋羽: 黒衣衆に無事潜入したあたいも登場します。亜弥を捕まえる準備は満々さ。
亜弥:うわーん(笑)。
耀蔵:……では、登場しよう。
GM: その日、仕事が深夜まで及んだ君は、外での雑務を終えて奉行所に併設されている役宅への道を歩いている。
耀蔵: 要人を狙った賊がこちらへ来る事も考え、警護が手薄になるよう見せかけておこう。わしも籠は使わず歩いている。
軋羽:こ、この人仕事帰りにまで賊を捕まえる気満々だ……(一同笑)。
亜弥:さすが、鳥居耀蔵(笑)。
GM: 君たちが武家屋敷沿いの通りを歩いていると、ふいに周囲の気配が変わった。まるで空気に粘度が増したかのように、重苦しく妖異の気が漂ってくる。
耀蔵:「ふむ……。手間が、省けたな」
GM:〜〜〜〜っっっ!!!(机をばしばし叩く)
軋羽:だっ、大丈夫ですか、落ち着いて!
GM:だっだだだだって、鳥居様が、鳥居様がシーンに登場してる!(一同爆笑)
寅三郎:当たり前だろ! PCだぞ、アホか!(笑)
亜弥:鳥居さんが一言しゃべるごとに悶えはじめないでね(笑)。
GM:だ、大丈夫! 本筋に戻ろう、ごめん!
軋羽: あたいは隠れ潜んでいるので、鳥居様の近くの護衛が「か、甲斐守様、これは……!?」
耀蔵:「…………来たか」
GM:道の先、ゆらりとひとりの青年が立ちずさんでいる。
亜弥:も、もしかして兄ちゃん……?
GM:青年は夜闇の中すたすたと、明かりもなしに君たちの方へと歩いてくる。
寅三郎:(急に護衛になって)「怪しい奴、貴様、名を名乗れ!」
軋羽:(護衛になって)「そこの者、止まらんか!」
GM:  あんたらPCが登場してるのになんでモブをやろうとするんだ(一同笑)。では、二の句を継ごうとした護衛たちの口がふいに止まる。
亜弥:えっ?

 ふいに地面から赤黒い墨のような帯が立ち上り、護衛たちの体に巻きついた。
 護衛ががくがくと痙攣をはじめたかと思うと、血泡を吹いて次々と地面に倒れ付す。
 それをじっと見る青年の口の端に赤い線が走り、次に耳まで口が裂けたかと思うと、周囲に満ちた妖異の気が猛りはじめた。

軋羽:(護衛になって)「おっ、おのれ、奇怪な……うわあー!」(笑)
耀蔵:護衛たちを制し、周囲に隠れている黒衣衆に合図を送る。「前には出るな」
GM:  青年の目はらんらんと妖異の輝きを帯びている。擦れたような、喉の奥から呻くような声で、「南町奉行、鳥居甲斐守耀蔵殿。そのお命、もらい受けまする」
耀蔵:「いかなる理由だ」
GM:  「語る必要は、ありませぬ」瞬間、青年の肌に赤墨の帯が蛇のように蠢いたかと思うと、右腕に赤い刃が生み出され、赤い残像を引きながら跳躍し、飛び掛ってくる!
耀蔵:「――――石蕗」
寅三郎:「はっ」と、影の中から現われ抜刀します。
GM:すると、寅三郎の足元からも赤墨が伸び、刀へと絡み付いていく。
寅三郎:「む、ぬかった!」
GM:青年は寅三郎の頭上を飛び越えて、一直線に鳥居へと刀を振りかぶる。
寅三郎:「ちっ!」では、口から放った含み針でその足を貫く。
GM:  おおっ!? では、青年は体制が崩れ、たたらを踏んで地面に倒れる。うめき声を上げながらよろよろと起き上がって。
耀蔵:その様子を見て、やれやれと思いながら刀を抜こう。
GM:「……の御為……っ!」
耀蔵:  八双の構えから切りつけるようにして、賊の刃を受け止める。そして流れるように脇差を抜き、一閃!

 一撃を止められた青年の眼が驚きに見開かれた。
 次いで、赤墨よりも赤い赤い鮮血がほとばしる。

耀蔵:  心の中で、しまった、と思う。瀕死にした状態で事情を聞こうと思ったのに、最近刀を振ってなかった所為か、振りぬいてしまった。
軋羽:加減を間違えた、というやつですね。
GM:で、ここで亜弥は登場をお願いいたします。
亜弥:うわああん、やっぱり兄ちゃんだったー! じゃあ登場します!

 亜弥の頬に赤い飛沫が散った。
 少女の眼前で鮮血を噴き上げながら、ぐらり、兄の体が揺らぎ、地に崩れ落ちる。

亜弥:(ぽかんとして)「え、あ…………?」
GM:  青年――弥八はくず折れながら亜弥に気づき、目を見開く。「亜弥、逃……げ…………」と、声を次ごうとし、そのまま動かなくなる。
亜弥:顔に飛び散った血を触って、「に、兄……ちゃん……?」
寅三郎:飛び出してきた亜弥に目を留めて、「娘……!?」
耀蔵:無言で出方を見ていよう。
亜弥:  血のついた手と、兄ちゃんと鳥居さんを見比べて、「あん……たが斬ったの……?」
耀蔵:「そうだ。わしが斬った」
亜弥:  「うっ……う、うわあああああーっ!」抱えてた竹箒を鳥居に振り上げて、めちゃめちゃに殴りかかる!
耀蔵:「…………ほう」一瞬、娘の瞳の強さを見止めて目を細める。
亜弥:「にっ、兄、ちゃ……っ、よくも、よくもよくもおぉぉーーっ!」
軋羽:では、止めに入りましょう。亜弥の竹箒が風で切られてことりと落ちるのです。
亜弥:びくっ!「え……っ!?」
軋羽: 音もなく彼女の後ろに立って、肩をがっしりと抑えて動きを封じます。「鳥居様、この者は賊の関係者のようですが」
耀蔵:「まだ、殺すな」
亜弥:「はっ、はなせっ、はなしてよーっ!」
耀蔵:では、娘へ向いて、「兄か」
亜弥:  「そうだ! あんたが斬ったのは、あたしの兄ちゃんだ!」軋羽を振りほどこうと、足を思いっきり踏んづけようとする。
軋羽: ではそれを避けて押し倒します。そこで改めて、この子、女の子なんだ、と気づきます。
亜弥:「ぎいー、やだやだーっ! 離せー!」
軋羽:「大人しくしないか!」
亜弥:「人殺しー! 人殺しいいぃーっ!」
軋羽: 暴れる亜弥に轡(くつわ)を噛ませてしまいましょう。「鳥居様、この娘いかがなさいますか?」
亜弥:「むぅー! うぐーっ!」バタバタ!
耀蔵:「妖異の関係者とあらば役宅は面倒だ。秋葉原の屋敷に連れ行け」
軋羽:「はっ」
耀蔵:「賊の死体は回収せよ。他に目撃者はないか?」
寅三郎:「ありますまい。ただ、長くいれば人目にも付きましょう」
耀蔵:「痕跡を消せ。引き上げるぞ」
寅三郎:「かしこまりました。俺がやっておきますよ」
耀蔵:「任せた」
寅三郎:「まぁ、慣れておりますんで」
軋羽: あたいは眉間にしわを寄せながら、亜弥を肩に担いで鳥居様の後ろを付いていきます。「こら、大人しくしないか!」
亜弥:「んーっ、んんーっ!」モガモガしながら鳥居様を睨みつける。
耀蔵:わしの後ろではゴミのように片付けられる兄の姿が。
寅三郎:ちゃっちゃと綺麗に片付けちゃおうねー(笑)。
亜弥:うわあああああんっ!!
GM:そこ、あんまりプレイヤーをいじめるな(笑)。
亜弥:よっ、よ、よくも兄ちゃんを! ばかーっ!「ふぎー! ふぎゃーっ!」

 にじむ視界の隅で、動かない兄が筵に包まれていく。
 遠ざかる兄の姿は、すぐに闇夜の帳へと消えた。
 轡をかみ締めながら、喉も張り裂けんばかりに少女は喚き立てた。


耀蔵:「少々、騒がしいな」
軋羽:「はっ」

 それが、意識を失う前に最後に聞いた、兄を殺した憎らしい声。 
 少女の慎ましやかな幸せの日々は、その夜、鮮血と共に終わりを告げた。



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「赤墨の予兆」第二幕へ続く