文・絵:すがのたすく



■ミドル04 勝利への切り札   ――――シーンプレイヤー:鳥居耀蔵

 雷光が空を裂いていた。
 隅田川にかかる両国橋、その雷撃届かぬ水路の影で、鳥居は次の一手を打つべく指揮を行っていた。


GM:次は鳥居と寅三郎サイドに行こうか。シーンプレイヤーは鳥居耀蔵だ。
寅三郎:俺も出ていいですかね。
GM:うすうす、一緒に動いてたようだし、特に判定なしでかまわないよ。
耀蔵:部下を拾い集めて関係各所へ連絡を飛ばしつつ、軋羽たちの帰りを待つとしよう。場所は……そうだな、両国橋近くの水路の中だ。
GM:水路の中!? そういうまた雷が苦手そうなところを……(笑)。
耀蔵:ふっふっふ(笑)。射角がついているから、直線的な攻撃は狙いづらくあろう。
軋羽:ねっねっGM、達成値にペナルティとかないかなあ、すっごくここ当たりにくそうだよ、ホラホラ!(一同笑)
GM:わかったよ、じゃあ印怒羅の達成値にマイナス1をくれてやろう(笑)。
寅三郎:よっしゃ、もらえるもんはなんでももらうぞ(笑)。
GM:登場するのは鳥居と寅三郎だね。では、印怒羅の攻撃だ。【知覚】7スタートで……そろそろPCたちを上回ってきたな。達成値は……う、あんま高くない。マイナス1を入れて11だ。
亜弥:あたしたちが帰るまで無事でいて〜!
寅三郎:(ダイスを振って)うし、俺は13だ。避けた。
耀蔵:わしも1上回って回避だ。「雷は水に散乱するか……」
GM:水面に落ちた雷が四散して消えていく。
耀蔵:まずは大久保殿の居場所だ。軋羽たちが戻る前に突き止めておかねばなるまい。
GM:では大久保の居場所についての情報だ。目標値は【知覚】か【理知】で15です。
寅三郎:【知覚】なら俺が高いんでいきましょう。(ダイスを振って)16でクリアだ。調子いいぞ。
耀蔵:一発か。では橋の下で寅三郎と合流しよう。「調べはついたか」
寅三郎:「は」てーことで情報をくれ(笑)。
GM:うす。大久保は先刻、配下を従えて、重鎮の避難指揮の名目で江戸城へ入ったとの報告が上がってくる。
耀蔵:そうか、あいつ老中なんだよなあ。江戸城にも素通しだ。まずいな。「大久保殿も厄介なことをしてくれたものだ……」
寅三郎:「しかし大久保がまさかですな。そう憂慮すべき人物という話は聞いていませんでしたが」
耀蔵:それには雷光照る天を見上げて言おう。「あれは雨雲と同じだ。幕閣内には絶えず存在する有象無象、あの方もそのうちのひとりに過ぎん。しかし、妖異であるならば話は別だ」
寅三郎:「阿良々木の言を信じるのなら、重鎮や下手すると将軍様までどうなるかわかりませんからな」
耀蔵:大久保殿が江戸城に入ったとあらば一刻の猶予もならん。うーん、この情報を柳生方に流すことができればいいんだが。
亜弥:え、柳生様?
耀蔵:そうだ。彼がこのことを知れば、城を守るため大久保殿の足止めになってくれるであろう。
寅三郎:先ほど研究所に居た忍びと繋ぎがとれていればよかったんですが。
GM:おお、なるほどね。ちなみにぶっちゃけると、忍びはシーンのどこかからずっと君たちを見ているよ。
寅三郎:お、今も居るのか。
GM:うん、実は。オープニングでも言ったけど、柳生の目付忍者はこの事態の責を見極めるために、ずーっと君たちを監視してる。
亜弥:事件が終わるまで見てるんだ。
耀蔵:ふむ……。(考えて)では、「そこにいるのであろう?」と、影へ声をかける。
GM:すると、橋の下の暗がりにかすかな揺らぎが。
耀蔵:「これは、ただのわしの独り言だが――――」
亜弥:時代劇の定番キター!(一同笑)
耀蔵:「もし、大久保殿が何か悪事を目論んでおり、そして企まれている将軍様への被害を避けたとあらば、それは大目付様の大変なお手柄となるであろう」
GM:ずいぶん具体的な独り言だな!
亜弥:聞かせる気まんまんだ(笑)。
耀蔵:(しれっと)いや、ただの独り言ぞ。
軋羽:あっはっは(笑)。
GM:鳥居の言葉を聞きとがめたか、暗闇に潜んだ影の中から、何人かが水路の外へ走っていく気配がした。
耀蔵:これで柳生殿が動いてくれればいいが……。
GM:ここらへんで軋羽と亜弥も合流どうだい?
軋羽:じゃああたいたちもそろそろ登場しようか。
亜弥:はいっ、登場! あたしはからくり飛行機に乗って飛んできます。
軋羽:あたいも亜弥の飛行機を援護しながら飛んでくるよ。
GM:では、隅田川の下流から雷光に追われながらふたりが飛んでくる――――というところでシーンに登場した君たちにも印怒羅の攻撃だ。達成値はさっきの値と同じ11だ。
軋羽:亜弥に《親分肌》。「後ろから来る、撃ち落とされるんじゃないよ!」
亜弥:ありがとうございます、これで5が出れば回避――えい! 11で避けた!
軋羽:あたいも大丈夫だ。無事にたどり着くよ。

 水面を震わせ絶え間なく轟く雷撃。
 降り注ぐ雷の林を潜り抜け、亜弥と軋羽は主の元へ降り立った。 


軋羽:ドカーン! 落雷と共にバッサバッサと羽の音。「鳥居様、お待たせしました」
耀蔵:「怪我はないか?」
亜弥:バルルルルッって到着!「ふたりとも無事です!」
軋羽:「大分雷撃の追及が厳しくなってきたようで」
亜弥:長兄ちゃんの精度がだんだん上がってきたね。
耀蔵:「して、その空飛ぶからくりが成果か」
亜弥:「はい。それと工藤綾さんから、印怒羅を壊すための鍵をあずかってきました」と、自壊鍵を見せる。
耀蔵:「鍵、とな?」
亜弥:「これを印怒羅の核に挿せば、印怒羅は壊れて江戸の街の人たちは救われます」
寅三郎:「なるほどな」……ん? だがそのからくり飛行機、ひとり乗りだよな?
耀蔵:全員で印怒羅へは行けんという事か?
軋羽:あたいは空を飛べますから亜弥の援護に回れますね。ただ、あの雷撃にさらされながら、誰かを連れて一緒に飛ぶことは難しいです。
寅三郎:大久保と、おそらく阿良々木も江戸城だろう。上に居るのが妙だ。印怒羅に向かう組と大久保を倒す組に分かれるか?
軋羽:二手に分かれるってことか。ううーん、でもここまで来たら全員でかかりたい気もするねぇ。
耀蔵:分かれずに済む方法がないものか……。
亜弥:むーん……。

 しばし考え込む一行。

寅三郎:(考えて)あ、よし、これだ。全員で印怒羅に上がる解決法を思いついたぞ。俺が奥義を一枚切るのはどうだろう。
GM:奥義……? あ、《一気呵成》(注1)か!
寅三郎:そう、《一気呵成》はキャラクターひとりを連れてシーンの好きなとこに移動できるんで、俺は奥義で自力移動をしつつ鳥居様を引っ張っていけばいい。
亜弥:軋羽さんは飛んでいってあたしはからくり飛行機……すごい、それなら全員移動できる!(ぱちぱち)
GM:おお、すごいなあ。ぶっちゃけるとクライマックスは二箇所に分かれるのを想定してたんだよ。
亜弥:ここまできたんだもの、妙には鳥居様も紫さんのことがあるし、全員で印怒羅にいきたいよ。
GM:うーん、なるほどなぁ……(シナリオを確認しつつ)うし、わかった。奥義まで切ってくれるんならOKとしよう!
軋羽:やったね!
耀蔵:よし、データ的にはいけるとして、問題は演出をどうするかだな。
寅三郎:そうだなあ、俺がバビューンってジャンプするのもなんだしなあ(悩む)。
亜弥:あ、それならあたしが英傑エンジンを作るってのはどうでしょう。
軋羽寅三郎:英傑エンジン!?
亜弥:おー、それはかっちょいいね! いい案だと思うよ。
GM:うーん、なるほどなぁ……(シナリオを確認しつつ)うし、わかった。奥義まで切ってくれるんならOKとしよう!
寅三郎:すげええ、亜弥はんぱねぇなオイ!
軋羽:あーもーかっこいいよ亜弥ー!(なでなで)
亜弥:えへへ(てれっ)。じゃあがんばります!
耀蔵:決まりだな。ここにいる人員全てで印怒羅に突入だ。大久保殿配下の人員は妙の赤墨にその多くを頼っている。それ以外は阿良々木ひとりと見てよいだろう。妙を落とせばあちらの戦力は激減する。
亜弥:そこを全力で当たる!
寅三郎:だな。老中が江戸城を制圧する切り札があの要塞と妙の赤墨なら、要塞を押さえるほうがいい。
GM:オッケ! じゃあ予定が変わったので、先に全員突入時のレギュレーションを説明しておきましょう。全員で印怒羅に突入すると、その間大久保古河守を止める者がいなくなることは事実。そのため、妙戦にラウンド制限が発生します。
耀蔵:猶予は?
GM:1ラウンドのクリンナップまで。これを超えると、幕府の主要人物―――具体的には、柳生や水野、田沼意次などの幕閣から犠牲者が出る。
亜弥:1ラウンド!?
軋羽:も、もうちょっとまかりませんかねぇ?(笑)
GM:まかりませぬ(きっぱり)。
亜弥:鬼ーっ!
寅三郎:まあ、もともと対PCふたり用にデータはチューンされているはずだ。全員でかかれば目はあるだろう、根性入れていこう。
耀蔵:(ぼそっと)まあ、水野様や田沼様が失脚してもらう分にはいいのだが……。
一同:よくねえよ!!(総ツッコミ)
耀蔵:それで幕府の機能が落ちてしまうことは本意ではない。「急ごう」
GM:では決意を固めた君たちの元へ、新たな雷光と共に何かが飛んでくる――――というところで一度、シーンエンドしよう。
軋羽:おぉ?
亜弥:だれだろう?



■ミドル05 いざ、天空へ!   ――――シーンプレイヤー:石蕗寅三郎

 雷光を潜り抜けて降り立ったのは男と少年であった。
 一同は江戸の命運を胸に抱き、天空に浮かぶ凶月、印怒羅へと飛び立つ!


GM:というわけで、いよいよ印怒羅へと飛び立つシーンだ。全員登場でよろしくね。
亜弥:あたしはからくり飛行機の改造に入ってます。ギュイィィーン!
GM:うすうす、よろしくね。まずはシーンしょっぱなの印怒羅の攻撃……なんだが、今回は君たちではなく向こうから飛んできた影へと代わりに雷光が降り注ぐ。
寅三郎:おお、そろそろ判定値上がってきてたんで助かった。
耀蔵:して、何者だ?
GM:雷の雨をかいくぐりながら、ひとりの少年を抱えた天狗が飛んでくる。「暴れんじゃねェぞ、糞餓鬼が! 絞め殺すぞ!」「うるっせえ、透かし禿! 誰のおかげで姉ちゃんたちの居場所がわかったと思ってんだ!」
亜弥軋羽:「涼太郎!」
寅三郎:――と、本庄殿か!
耀蔵:ふたりとも無事であったか。
GM:水路へ滑り込むようにして、包帯まみれのふたりは鳥居の前へ降り立つ。
耀蔵:「本庄か。なにかあったか?」
GM:「ご報告が遅れ、申し訳ありませぬ」本庄は涼太郎を放ると、息を荒げながら膝をつく。「動ける黒衣衆、総員江戸全域に展開を開始しております。関係各所との連携も機能をはじめました」
亜弥:本庄さん、無理して出てきてくれたんだ……。
耀蔵:「江戸市街の羅刹には黒衣衆を動かせ。仔細はそなたに一任する」
GM:「はっ」
耀蔵:「今回の件が陽動でないという保証はまだない。大久保殿がどこまで企んでいるか定かではないが……この江戸に張られた結界をまた破壊されてはたまらん」寛永寺は寛永寺で尽力しているだろうから、心配せずともよいと思うが。
寅三郎:今ごろ、神田明神の地下から大勘解由使が出動してるはずだ(笑)。
軋羽:ゴゴゴゴゴゴゴ(笑)。
耀蔵:「上空のあれはわしらが討つ。……亜弥、どうだ」
亜弥:あ、じゃあいじってたからくりから顔を上げます。「できました! 石蕗さん、お願いします」
寅三郎:よし、《一気呵成》を使おう。からくり飛行機に歩み寄って、亜弥が作った英傑エンジンに手を伸ばす。
亜弥:「ごめんなさい。ちょっとだけ、痛いかも……」
寅三郎:「まあ、多分いけるだろう。やってくれ」

 廃材を寄せ集め赤墨の羅刹から妖気を組み込んだ駆動炉に、寅三郎は左腕を差し入れた。
 鈍い痛みが腕を貫き、どうっ、とからくりが鼓動を打つ。


寅三郎:「……っ」
GM:からくり飛行機の後部に突き出た筒から、コオオォォォォ……という音と共に白い光があふれ出す。
亜弥:「よかった、できた……。どんどん出力が上がっていく」
軋羽:エネルギー充電120%! だめだ、臨界点突破です!
寅三郎:爆発するじゃねえか!(笑)
軋羽:いや、ごめん、ついつい(笑)。「こいつは印怒羅と同じ機構か」
耀蔵:「あれを見ただけで模したか。凄まじい才気よ。なんぞに使えんものかのう」
亜弥:「ん……でも、本当はこれは作っちゃいけないものだと思います。だから、これは今、一回だけ」
GM:寅三郎へ本庄が声をかける。「寅、あの阿良々木という男には気をつけろ」
寅三郎:「ああ、わかってますよ」
GM:「奴の秘剣は、虚無であった」
耀蔵:虚無?
GM:「あれは……隙だ無防備だなどという甘っちょろいものではない。あの圧倒的な虚無の前では、指先ひとつ動くことすらかなわぬ」 
寅三郎:「虚無、か……。いや、ご忠告痛み入る」
GM:「願わくば共に行って、お前の秘剣とどちらが強いのか見てみたかったが……残念だ」
寅三郎:「いやあ、本庄殿は相変わらず俺を買いかぶっておられる。相手が強いですよ、それはね。……ただ、最後に立っているのは俺さ」
軋羽:寅三郎はいいなぁ……(ユラユラ揺れる)。
寅三郎:(ぽつりと)「強いってのはそういう事じゃないんだ……そうじゃないんですよ。ようやくわかってきた」
GM:そ、そんないいこと言われると、本庄もお前のこと斬りたいな……。
軋羽:ああっ、本庄様がいきなり舌なめずりを!(笑)
亜弥:人斬り同士め(笑)。
寅三郎:「ま、今のところ、この英傑エンジンやらいう火鉢に手を突っ込んだ状態ですからな。今俺を斬ってもつまらんでしょう」
GM:「てめえはいつもそうやってかわすんだ」本庄は笑うと、鳥居を振り返って「では、市街赤墨の鎮圧に参ります」
耀蔵:「後で石蕗とやるためにも、死ぬわけにはいかんな」
GM:「なにせ、最後まで立っていた奴が勝ちですからな」本庄は黒衣衆の指揮のため飛び去っていく。
耀蔵:あれも随分酷使しておるなぁ……。
亜弥:あっ、そいえば涼太郎は!?
軋羽:そうだ! あいつ、本庄に放られてどこにいった(笑)。
GM:そこで涼太郎も亜弥と軋羽のところに駆け寄ってくる。「軋羽姉ちゃん、よかった、やっと喋れた。シーンの最初からずっと待ってたんだぜ!」(一同笑)
亜弥:メタっぽいこと言うなって(笑)。
軋羽:涼太郎には合わす顔がなかったんで、ちょっと目を伏せてしまう。「あんたが無事で……本当に良かったよ」
GM:「そんな顔すんなよう、軋羽姉ちゃんらしくないぜ? ……ほら、姉ちゃんにいいもの預かってきたんだから」涼太郎は握りしめていた文を出す。
亜弥:文って?
軋羽:「こいつはなんだい?」
GM:「さっき奉行所に、鴉のおっちゃんが持ってきたんだ。長筒の玉みたいにすげえ速さで飛んできてさ。軋羽姉ちゃんに、だって」
軋羽:鴉の? も、もしかして……文を開くよ。中身は?

 軋羽は焦る手を滑らせながら文を開く。
 半紙一面を、綴りがまちがいだらけのよれた文字が埋め尽くしていた。
「げんきです」「ねえちゃんがんばれ」「みんなでまってる――――」


軋羽:あの子たちったら……!
GM:「鴉のおっちゃんから伝言。こちらは案ずるな、だってさ。……で、なんて書いてあるんだよ?」
軋羽:「……なあに。里の家族からの久しぶりのたよりさ」その文を大事に胸元にしまいましょう。「涼太郎。こいつのためにあんな雷の中、怖い本庄様の背に乗ってやってきたってわけかい。ありがとよ」
GM:「あっ、あんなジジイ怖くねえよ!」
亜弥:ジジイいうな(笑)。
GM:「軋羽姉ちゃんたちを見つけたのだっておらたちだぜ? 八百八町遊撃隊の情報網をなめんじゃねえや」
亜弥:じゃあ正太たちもがんばってるんだ。嬉しいなあ。
GM:「火消し組は総出で消火に当たってるし、ぼたん姉ちゃんたちは赤い墨の化け物と戦ってる。北町奉行所も大江戸妖怪連中も寺のやつらも出張ってる。この町が何回やばくなったと思ってんだい。火事と喧嘩は江戸の華ってんだぜ。江戸っ子の底力をなめんじゃねえや!」
軋羽:もーがんばったんだなあ。その頭を撫でながら、「……そうだね、あんたもあたいの心強い仲間さ」
GM:(少し照れながら)「な? おらだって役に立つんだぜ」
軋羽:「こいつぁあたいらもがんばらなきゃあね。まあ、こっちには黄泉返しの寅に、泣く子も黙る鳥居様、それに――――」と、亜弥の尻を叩くよ!
亜弥:「にゃんっ!?」
軋羽:「あの高野長英を唸らせた大蘭学者の亜弥もついてるからさ。だから涼太郎、あの厄介な空の月はまかせな。あんたは町の連中を手伝っておあげ」

 からくり駆動炉が白熱を帯び、爆音を上げる。
 回転翼が円を描き、ゆっくりと一同の乗るからくり飛行機が地を離れた。
 涼太郎が水路の影から手を振る。


GM:「……絶対、帰って来いよ! 絶対だかんな!」
亜弥:「うん、全部終わったら達磨横丁にも顔を出すよ。涼太郎も気をつけてね!」
耀蔵:「では、行くぞ」

 目前に落ちる雷光にその身を翻し、四人は天空に輝く印怒羅へと飛びたった!



■ミドル06 満天の月空  ――――シーンプレイヤー:亜弥

 炎立つ隅田川から一同は飛び立った。
 雷と炎に照らされた江戸の街は瞬く間に足元に置き去られ、さえぎるもののない地平が少女たちの眼前へと飛び込んできた。


GM:シーンプレイヤーは亜弥で全員登場です。爆音とともに江戸の空に舞い上がった君たちは印怒羅へと向かう。

 空から見た世界は壮大であった。
 眼下には赤々とゆらめく江戸の街。それはとても小さく、目を上げれば印怒羅の矢の届かぬ遥か彼方まで、広大な大地と海が広がっている。
 空は満天。上昇するにつれ、印怒羅の影から姿を現す満月。それは焼かれる街の火にも惑うことなく空の彼方で煌々と光り輝いている。


亜弥:うわあ……。(呆然と)「綺麗……」
GM:君が軋羽と共に飛んだときよりももっと高く、どこまでも広い。
亜弥:「すごい……これが、兄ちゃんが見せたかった世界……」
耀蔵:「…………」
GM:しかし、月の光に照らされながら印怒羅がギラリと光り、近づく君たちに矢を放ってくる!
寅三郎:やはり、ただでは辿りつかせてくれんか。
GM:まず説明しておくね。今回の判定の成否に関わらず君たちは印怒羅にたどり着けます。ただし判定に失敗して雷が命中すると30+10D6のダメージを受ける。今回はからくり飛行機に乗ったメンツはまとめてひとつとして扱うので、乗ってるうちのひとりが代表で振ってくださいな。
亜弥:こっちは3人ぎゅうぎゅうで一緒に飛んでるもんね。誰が振ってもいい?
GM:うん、いいよ。駆動炉の核になってるのは寅三郎だし、操縦してるのは亜弥だし、指示を出してるのは鳥居だしってことで。
耀蔵:わしの【反射】は3だ。高い者は誰だ?
寅三郎:俺は5ですね。
軋羽:亜弥は?
亜弥:4です。やっぱり石蕗さんにやってもらうのがいいかな。
寅三郎:では振りますよ。
GM:おっけ、印怒羅の達成値は15だ。雷撃が君たちへと迫る。
軋羽:あたいは飛んでるから自力で振らなきゃあね。(ダイスを振って)……よっし、同値で回避したよ。
寅三郎:俺でも10以上で成功か。ギリギリだなあ。
軋羽:じゃあ《親分肌》で寅三郎の達成値を+2するよ。これで8以上だね。
寅三郎:(ダイスを振る)うーん、失敗。鳥居様、振り直しもらえますか。
耀蔵:では《名将の指揮》(注2)だ。
寅三郎:(ダイスを振りなおして)よっしゃ、成功だ。雷を紙一重で避けて突っ込んでいく。

 雷撃をかわしながら四人は、印怒羅の内部へと侵入した。

軋羽:やっとたどり着いたか。いよいよ決戦だねえ!
亜弥:ついに来たよ!
GM:地上の轟音が遠く響いてくる。内部では、あちらこちらからからくり歯車の鳴る音がカラカラと響き、木材と鉄で組まれた壁面を、明滅する明かりが美しく照らしている。
軋羽:「こいつはぶったまげた……」
亜弥:「すごい……」
耀蔵:「言うてもせんのないことではあるが……。これがあれば飢饉を減らせように」
寅三郎:そ、そうかなあ……。いや、なんでもない(笑)。
GM:君たちは核のある印怒羅の中心部へと進んでいく。
軋羽:あっ、じゃあ進みながら鳥居様と少し会話するよ。「鳥居様」
耀蔵:「ん、どうした」進みながら話を聞く。
軋羽:「里に向かった鴉天狗殿から連絡を受けました。里は無事であると」
耀蔵:「そうか。ならばそなたにも帰る場所があるということだ」
軋羽:(こくりと頷いて)「ありがとうございます。その上でひとつ、お願いがございまして」
耀蔵:「なんだ」
軋羽:「この戦いが終わり、無事に帰れたら、あたいにお裁きをいただけませんでしょうか…」
亜弥:ええっ!?
軋羽:ぶっちゃけて言ってしまうと、今までやってきたあたいの犯罪を裁いてほしいんです。大久保の下で悪事を成していたってことも含めて、いまのあたいはそれが苦しくてたまらないんだ。
亜弥:あ……、長屋で言ってたのもそういうことだったんだ。軋羽さん……。
耀蔵:それには表情を動かさぬまま応えよう。「わしは忙しい。此度の一件が収束すれば、山のような後始末が待っている。証拠のない犯罪者にかまけて、その間に犠牲になる者たちを捨て置くことはできぬ」
軋羽:「しかし……」
耀蔵:「そなたはすでに、負わねばならぬ責を持っている」

「――――その上でもし、為せとわしが言うことがあるならば」
 鳥居は変わらぬ顔で軋羽を見やる。


耀蔵:「そなたは読み書きを続けよ。そして、そなたが守るべき里の者に教えるのだ。その者らが明日の日ノ本を背負っていける人材になるように、導け」
GM亜弥:鳥居様……!
軋羽:やっぱりこの方は大久保とは全然違う所を見据えておられる……。やっぱり敵わないなこの人には。
耀蔵:「……大久保殿がそなたを操ったようなことを、わしもしている。わしがそなたの事を追捕しないのは、単に証拠がなく、そなたの事情を知っているからだ。それが政治というものだ。だからこそそのようなことが起きぬように学び、変えてゆかねばらならぬ。そなたは変える機会を得たのだ。他の者にその機会を分け与えろ」
軋羽:「ああ……。あたいは、あなたに付いてきてよかった」
耀蔵:「間違いであるかも知れんぞ」
軋羽:「構いません。今、そう思っているのですから。(笑って)あたいはね、こう見えても騙されやすい女なんですよ」
耀蔵:では、その言葉を聞いて足を止める。「……見よ、この印怒羅を」

 鳥居は銀に輝く天辺を一眼した。
 「素晴らしいではないか。どのような想いがこれを生み出したのか」


耀蔵:「わしはこれを、わしに対する復讐心から作らせてしまった。これは咎だ。本来の形であれば、もっと素晴らしいものだったのだろう」 
亜弥:「兄ちゃんはこれを、みんなが乗って地平を見るからくりにしたかったの。きっと空の上からなら広い外の世界を感じることができるからって」
耀蔵:「技術には心が伴う。この印怒羅は最初に見たときから妙だと思っていた。ただ、人を殺めるための道具ではない、誰かが、誰かの幸福を願い作ったものだ。もちろんそれとて、今こうしてあるように、簡単に人を殺めるための武器となってしまう」
亜弥:その言葉に自壊鍵を握りしめます。
耀蔵:「亜弥よ」
亜弥:「はい」
耀蔵:「叶うならば、将来その兄の志を継いで、これと同じものをもう一度作れるようになって見せよ。……そして、此度のようなことではなく、わしに空の上から地を見る経験をさせてくれ」
軋羽:おおおう。
亜弥:「そのためにはもっと勉強しなきゃ。でも、尽力します」
耀蔵:「阿良々木という男が言っていたな。わしは失脚すると。武家である以上、勝敗は常にある。それは至って普通のことだ」

「人は生きていれば必ず死ぬ。だから、そなたが信じる良いと思う道へひた走るのだ。……そのためならば、いくらでもわしを裏切って構わんぞ」

亜弥:じゃあ鳥居様を見上げて笑います。「大丈夫、もしも鳥居様が失脚して遠くの島に流されちゃったとしても、あたしはこれよりすごい月を作って、海を超えて会いに行くから」
耀蔵:「楽しみにしているぞ。……まあ、わしとて負けるつもりはない。敗北が武家の常ならば、勝利も同じことだ。時空破断が歴史の変革の可能性というのであれば、今、我らが成してみせようではないか――――」

「あヒァあ、あひハはハハハあァッ!」
 突如、粘ついた嘲り声が響いた。
 四人の向かう先、印怒羅の核の光ちらつく前で笑う女の姿。
 銀光輝く室内が、瞬く間に赤黒い妖異の気に包まれる!




クライマックス

■クライマックス01 赤墨終滅  ――――シーンプレイヤー:亜弥

 印怒羅の核が収められた外殻に腰をかけ、赤墨の羅刹を従えて、黒髪をびったりと肌にはりつかせた女が笑っていた。
 人形繰りの妙。奉行所七十八人殺しの下手人であり、弥八や紫を傀儡とした妖異の女。


GM:いよいよクライマックスだ! 核の外殻に腰掛けた妙が君たちを見下ろす。「アハハぁ、こんなところまでまァ、まさか来るなんてねェ」
耀蔵:わしの傍らにいる紫がそっと口元を隠す(笑)。
亜弥:紫さん……(笑)。
軋羽:「妙、腹ァくくりな。あんたもついに年貢の納め時だよ!」
GM:その言葉に、妙の顔が憤怒に歪む。「アァぁあ、笑っちまうねぇ。どこまでも無礼な奴らさ! 我が殿様がお作りになったこの雷卵にあんたたちが足を踏み入れるなんて百年早いんだよ!」 
耀蔵:「作ったのは、高野長英と弥八であろう」
GM:「大久保様が金をお出しになって指示をされたのだもの。あのふたりは働いた人足に過ぎませんよ」
亜弥:「でも、兄ちゃんが本当に作りたかったものとは、随分形が違うみたいだけどね!」
GM:「だってねェ、あんたの兄さんが作りたがったものは、我が殿様が望んだものじゃなかったもの。ね? だから、兄さんが悪いのよォ」
軋羽:「よくもまあいけしゃあしゃあとしたもんだね。空に浮かんだここじゃあ逃げ場なんてないんだよ」
GM:「アハハァ、そりゃあねぇ、ここまで来られたのにはびびっちまってますよう」
軋羽:「何を笑ってんだい、あんたはもう絶対絶命だってわからないのかい!」
GM:「でも……逃げ場がないのはそちらも同じでござんしょう? 」妙の笑みに歓喜が混じる。「これで思う存分我が殿様のおん敵を膾にできるというもの。えェエェ、一匹たりとて逃すもんですか。大久保様を裏切ったあんたも、手向かう甲斐守も、ましてやその右腕である黄泉返しも、印怒羅の核となることを拒んだそこの娘、お前もねェ!」
亜弥:「紫さんのことは逆恨みじゃない!」
GM:「それだけじゃあないですよ」ダン、と妙は核壁を蹴る。「あァ、元を辿れば逃げ出したあんたの兄貴を捕まえるところがうっかり殺しちまったのがあたいの運の尽きさ。甲斐守を殺せば失態を取り戻せると思ったのに。夜道でも側室の時もあんたらに邪魔されてよオォおッ!」
亜弥:なっ……!? え、兄ちゃんを殺したのはうっかりってこと!?
GM:そう。なので失態を埋め合わせるためにその足で甲斐守を襲った。それが最初の夜の顛末だ。
寅三郎:こ、この女ひっでえな! 間違いなく大久保の配下で一番万能だが、途方もない馬鹿だ。始末におえん。
耀蔵:力と人格は比例せん。欲望に呑まれた妖異ならなおさら顕著であろう。
GM:「どれだけ……どれだけ、わっちが我が殿様のご信頼を失わないよう必死だったかわかってるのかいィ!!」
亜弥:(俯きながらぷるぷる震える)「……あたしだって……あたしだってねええっ!」
軋羽:「亜弥!?」
寅三郎:おい、大丈夫か?
亜弥:(震えながら)「あたしね……復讐の為に南町に入って、でも色んなことがあって、ただ怒って復讐するのは間違いだって思ってるの。本当なの。でも……こいつだけは許せないよ!」
軋羽:「ははっ……あたいも同じだよ。そろそろ押さえがきかなくてね」辺りの風が逆巻きはじめるよ。
耀蔵:「亜弥、自身の怒りの全てを否定するな。あれはそれをぶつけるべき相手であり、そなたにはその権利がある」
亜弥:薙刀を振りかぶって妙に構えます!「兄ちゃんを殺したこと、絶対に後悔させてやるんだから!」
GM:「邪魔はさせないよ、大久保様の統治する新たなお国造りの大仕事。わっちの一生一代の花道をねエェッ!」殺気を放つ妙の周囲に赤墨が立ち上り――――。
耀蔵:(制して)待て。「そなたにひとつ聞きたい」
GM:ん? では今にも君たちに襲いかかろうとしていた妙の動きが止まって、「なァんですか、野暮な男は嫌われますよ」
耀蔵:「大久保殿が全ての妖異を統べるとは、どういうことだ?」
寅三郎:あ、そうだ、それは確かめんと。これ以上妙な力を隠されてたんじゃたまったもんじゃない。
GM:「えェえぇ、そうですとも。大久保様は全ての妖異を統べるお方よ」
寅三郎:「馬鹿にするな、そんな戯言が本気で通るとでも思うのか」
GM:「うひアァ。ねえェ、笑っちまうわよねえ。そんなこと、叶うよしもないのに」
亜弥:……え?
寅三郎:何……!?
GM:「ちっぽけな老中の座で全てを従えていたあの方は、妖異の力を知って、己の手腕で今度は全ての妖異をも操れると、そんな幼稚な夢を見ているの」

「そしてね、そんな愚かなあの方が、わっちは途方もなく愛しいの」
 遠雷が響く。妙はうっそりと哀れむような笑みを浮かべた。
「エェえェ、馬鹿でいいじゃありませんか。殿方はみな、荒唐無稽な夢を持つものよ」


亜弥:ひっ、ひどい! こいつ、好きな人の事まで……!
寅三郎:こいつは本質的には大久保の事などどうでもいいんだろう。ただ、自らの身勝手な恋心に狂った妖異だ。
耀蔵:「やはりそなたは、大久保殿を愛しておらぬな」
GM:(ピシッと固まって)な……いや、ちょっと待ってね。いや、GMはいいんだけど、妙としては鳥居耀蔵に愛なんか語られたくないよね!
耀蔵:(勝ち誇った顔で)わしの後ろにいる紫がどうかしたか?(一同爆笑)
GM:見ないもんそこ! 目の焦点とかちょっとずらして見ないようにするから! アーアーなんにも見えない!(笑)
軋羽:これはもはや勝敗が決まったようなもの(笑)。
GM:「愛しておりますとも! 愛しい殿方の泡露の夢、せめて一晩、見させてやりたいじゃあありませんか!」妖気が渦巻き、赤墨が舞い上がっていく。
耀蔵:「……大久保殿も、可哀想な男よの」
GM:「だから、あんたらには死んでもらうよ! 今度こそねエェッ!」

 赤墨の波に淀む銀壁に、女の哄笑が反響した。


●第一ラウンド



GM:では戦闘だ! まず妙、その周囲に赤墨の羅刹が8体。赤墨は妙が操っている操り人形で、妙本体を倒せば戦闘は終了します。
軋羽:ぐうう〜、結構数が多いねえ。
耀蔵:だが、江戸城に犠牲を出さぬためにはこのラウンドでケリをつけねばいかん。
寅三郎:周りの羅刹は放っておいて、妙に一点集中で攻撃するしかありませんな。
亜弥:あ、そうだ、長兄ちゃんは!? 核に鍵を差し込めば印怒羅は壊れるんだよね?
GM:うむ。だけど、高野は戦闘に参加しません。高野の居る核は妙の背後にある。
寅三郎:妙を倒さんと鍵は差し込めんか。
GM:そういうことね。
耀蔵:(手を上げて)ああ、そうだGM。以降の戦闘では、わしは鎖帷子(注3)は脱いできています。
GM:また!?
耀蔵:うむ。そして【行動値】がこれで16まで上がる。
GM:うっ…………。
軋羽:どうしたのGM。顔色が悪いわよ。
亜弥:(ハッとして)あ、そっか、ミドルの戦闘に出てきた赤墨が【行動値】13だったから……(笑)。
GM:ぐうううちっくしょー! 相変わらず戦術が細かい! くっそーオッケー、じゃあセットアップ!
軋羽:やけくそになるんじゃないよ(笑)。妙に《朱雀の眼光》を使用するよ。「口では愛とか呟いてる割にはずいぶん寂しい女だね、あんたは」
GM:「あんたにだけは言われたくないねェ、魔縁の年増がよオォ!」
軋羽:「あたいはあんたと決定的に違う点がひとつあるのさ。あたいには大切な仲間がいる。そして……過ちを気づかせてくれたんだよ、その仲間たちがね!」
GM:「あひァアあ、仲間ァ? 仲間なんざいるもんですかね。我が殿様さえいるのならあァッ!」叫ぶ妙が《勢揃花吹雪》(注4)
寅三郎:うおっ、遊芸者か!
GM:「いらないねェ……そう、いらないさ、大久保様とふたりきりの世界でいいじゃないか。入りこむものの誰もいない、ふたりきりのねエェえッ!」
亜弥:何をする気なの!?
GM:これは、エキストラをシーンから退場させるという特技です。退場させた人たちは二度とそのシーンに出ることができません。そして江戸の街にカットが映る。

 妙の声に呼応するように江戸の各所で赤墨が唸りを上げた。
 雷光の花道に舞うは鮮血の花吹雪。
 ぱたり、ぽとり、江戸の命の灯が消えていく。


亜弥:あああああ!
寅三郎:げええっ、なんちゅう外道な使い方を!
GM:「そう、誰ひとりたりとて、いらないのさァアあ!」
軋羽:「外道が……ッ!」
耀蔵:「本当に大久保殿は、哀れな男よな……」
GM:「大久保様を悪く言うなんて許さないよ!」
耀蔵:(素になって)いえ、悪く言ってるのはあなたのことです(笑)。
GM:……ほんとだ!(笑) しかし、その真意は妙には届かない。
亜弥:あたしは《武神の作法》を使います。これでダメージに+1D6。
寅三郎:んー、俺の《直衛守護》(注5)はどうするかな。
軋羽:あたいさ、今回は妙のほうに突っ込んで行こうと思ってるんだ。あいつが万が一にでも逃げないようにエンゲージを止めておくつもりさ。
寅三郎:よし、それだ! なら軋羽に《直衛守護》でついていこう。
軋羽:「そういえば、あんたの隣に立つのはこれが初めてだね」
寅三郎:「お前の風凪ぎの術、真近で見せてもらおう」
軋羽:「ははっ、とくと眼に焼き付けてくれよ、黄泉返しの寅!」
GM:では、イニシアチブプロセスだ。
軋羽:バサリッと《天狗変》! 
GM:こちらは妙が奥義、《気韻生動》(注6)を使用。ラウンドの間、妙のエンゲージにいる敵の〈神〉属性含む防御修正が+3D6だ。
軋羽:ううーん、どうしようかね。ちょっと消すには微妙だね……。
寅三郎:難しいな。1ラウンド以内に終わらせねばならんが、3D6か……。くそ、いやらしい手を使ってきやがる。
耀蔵:大久保戦も考えると、こちらの奥義は温存せねばならんな。そもそも現時点で石蕗の《一気呵成》が使用済み、さらに亜弥の《驚天動地》が使用予定か。
亜弥:ここはそのままいきましょう。3D6分くらいのダメージ、あたしたちで押し切れる!
GM:じゃあ通しだね。では妙の居るエンゲージに防御修正を……(ダイスを振る)おおおっ、すごい! 3D6で15! 
一同:げええええっ!
軋羽:マジかい!? 歪んだ情愛ってのは怖いね……!
GM:ヒャッホゥ! ウヘッヘェ、見てください我が殿様! 15点の防御修正をゲットだぜ!
亜弥:妙さんキャラ歪んでますよ(笑)。
GM:うひゃっほう! 赤墨が妙らの体を守るように渦巻く!
軋羽:くそっ、防御修正なんざこっちのダメージでぶち抜いてやるよ。マイナーアクションで妙のエンゲージへ!「寅三郎、遅れるんじゃないよ!」
寅三郎:「応!」俺も妙に接敵だ。
軋羽:行くよ! 《頼むぜ相棒》に《地を薙ぐ者》(注7)&《悪を薙ぐ者》(注8)! 命中達成値は……22!
GM:(ダイスを振る)妙は命中、赤墨も……全員命中か。妙を赤墨Aが庇います。
軋羽:寅三郎、《挟み撃ち》(注9)をしてくれないかい?
寅三郎:おおよ、《挟み撃ち》! (ダイスを振って)――6点上昇だ。

 暴風が赤墨を巻き上げ切り裂く。血潮の死角から剣撃が走る。
 ふた筋の銀閃が、赤墨の奥に潜む傀儡を捕らえた!


軋羽:《一点張り》で、てえええいっ!(ダイスを振る)う、うおぉっ!?
GM:(出目を覗き込んで)えっ……ダ、ダメージ高くない?
軋羽:よっしゃ、51点に寅三郎の6点追加で……〈斬〉57点!
GM:赤墨は防御修正で15点弾いて……ハッ! 庇わなければ、赤墨生きてたんじゃ……!?
耀蔵:(優しい声で)そうだな、かばうとダメージが二倍になるからな。
GM:ぎゃあああああああっ! 赤墨Aが暴風に吹き散らかされ、羅刹と化していた死体が切り裂かれる。
軋羽:「……だから言っただろう? あたいの風は、防げない」
GM:妙の瞳に一瞬、怯えが掠める。「こッ、こんな……一匹ぽっち倒したくらいでいい気になるんじゃないよオォおッ! こんな人形、わっちにかかりゃあいくらでも作れるのさ!」
亜弥:「そうやって兄ちゃんも紫さんも使い捨てて……あんただけはぜったいにぜったいに、ぜっっったいに許さないから!」あたしの番! マイナーで接敵して、エレキテル薙刀で殴りつける!
耀蔵:《軍神の気》(注10)を使用して、亜弥の攻撃対象を範囲(選択)に変更だ。
亜弥:ありがとうございます! 《眩惑の巧み》に《剛落撃》で攻撃、これでクリティカル値が8だから……出目が11でクリティカルッ!
GM:げ、げええええっ! 全員回避失敗!
耀蔵:軋羽の攻撃でかばわなければ生きてたと言っていたから……(軽く計算して)赤墨の【HP】は最大でも80程度として、40ほど出せば落とせるな。
亜弥:大丈夫、いきます。〈斬〉24スタートだから、《剛落撃》に《嵐の心》も入れて、ダメージは〈斬〉48点っ!
GM:ぎゃあああ! せっかく奥義使って15点も防御修正上げたのにぃーっ!? エンゲージ内の赤墨は全部ちぎれ飛んだ!「小娘エェえぇエッ!!」
亜弥:「大久保様が居ればいい? あんたが着てる服は誰が作ったの!? あんたの住んでる屋敷は誰が建てたの!? あんまり江戸のみんなを馬鹿にするんじゃない!」
軋羽:おおー!
GM:(妙のHPを減らしながら)痛ったーい、いたたたた! だって大久保様が全部くれたのー! 大久保様がお金で全部買ってくれるでしょー! それ全部大久保様のものだもん!(一同爆笑)
寅三郎:銀座のホステスかよ!!
亜弥:ダメな子だー!(笑)
GM:違うごめんちょっとずれた(笑)「それがなんだってのさアァ! 小伝馬町の牢から救い上げられた時に、わっちは我が殿様と生きると誓ったんだよ! それを邪魔するやつは全部消すだけさアァ!」
亜弥:「あたしも兄ちゃんの仇を討つためならなんだってやるって思ったこともあった。でも、周りにはみんながいるの、世界があるの! それをきちんと見なきゃ意味がないじゃん!」
軋羽:弥八……、あんたの妹はちゃんと受け継いでるよ……。
耀蔵:次はわしの手番だな。「裸の王様か……」
GM:「あァア!?」
耀蔵:マイナーアクションで移動。「異国にそういう噺があるらしい。お前は、大久保殿を裸の王にするだけなのだな」《緊急指令》を亜弥に。もう一撃行け。
亜弥:はい! さっきと同じコンボで攻撃! (ダイスを振って)うーん、ちょっと低い……混沌の運命で1個だけ振り直す!……ぬあーん、出目7かあ。
耀蔵:ここはクリティカルを狙おう。《名称の指揮》だ。
亜弥:(ダイスを振るって)う、下がった。さっきの反動が来てる……。《てやんでえ!》でも一回振りなおして……きたぁ、6ゾロ!
GM:「させないよオォ!」《天を砕く者》で振りなおしや!
軋羽:あっ、くそ! そうか、こいつも朱雀か!
亜弥:ううっ……随分下がった。
耀蔵:ではもう一回振りなおしを飛ばそう。《天賦の貫禄》(注11)だ。
亜弥:今度こそ……っ!(ダイスを振る)クリティカルっっ!

 獲物を振り上げた刹那、眼前の女に纏わりついた赤墨の向こうに、亜弥はほの暗い黒を見た。
 それは月のない夜、どこまでも暗い水墨のような闇。
『兄ちゃんの仇を討つためだったら、あたしは鬼にでもなんでもなる――――』
 墓前での復讐の誓いが脳裏をよぎる。それは、ひどく遠い昔の出来事のよう。
 少女は、かつて憎くて憎くて殺してやりたかった仇を振り返った。


亜弥:「……鳥居様、ごめんなさい。あたし、やっぱり鬼にはなれませんでした」ってちょっと笑います。「もっとやりたいことを見つけてしまったから」
耀蔵:「…………」
亜弥:そしてカッと妙を睨みつける!「でも、今だけは! この時だけは! ――――赤墨の妙、あんたを倒す鬼になる!」

「くらえ! 兄ちゃんのっ、仇だああああっ!」
 渾身の力で振り切った薙刀が、鈍い駆動音を立てて妙の半身を凪ぎ飛ばした!





GM:「アァあああぁアアッ! 小娘がアァアッ、この、ナマ言ってんじゃないよオォおォッ!」
軋羽:さすがに妙も必死だねぇ。
GM:そりゃあねェ! ふたりでくるもんだと思ってたからこっちもヤバいんだよ!(笑) 妙の全身から流れ落ちる血が蛇のように唸りを上げて襲い掛かる! 目の前の三人に《夢幻能》からの《晴明桔梗印》(注12)、メジャーで《五行呪:水行》(注13)
軋羽:げっ、飛行してるあたいは防御修正無視か! 
GM:《撃滅者・弐式》(注14)を念には念にで入れておこう。対象のファンブル値に+2。対象は鳥居耀蔵だ。
耀蔵:きたか。
GM:「あんたは確実に殺しておかなきゃねエェ!」お、10が出た、達成値は22!
軋羽:22ならあたいは避けられ……いや、特殊攻撃だから【抗魔値】で回避!? やっばい、振り直しさせますか?
耀蔵:悩むところだな……出目が10以下になる可能性にかけるか。
軋羽:じゃあ《天を砕く者》だよ!
GM:くっ、ボコスコ振りなおししやがって……(ダイスを振る)って上がった! 達成値23!
耀蔵:仕方ない、では《仕切り直し》だ。
GM:ま、まだ振りなおしあんの? 鳥居様、やっぱ振りなおし取りすぎだぞ! (ダイスを振りなおして)うおおお!? やった、ダイス目変わらなかったあぁ!
一同:げええええっ!
軋羽:こ、こいつは厳しいな。
寅三郎:仕方ない、最悪覚悟状態になっても次の戦闘までには立て直せる。
耀蔵:それしかないか。
亜弥:(ダイスを振る)んー出ない。
軋羽:23は無理だねえ。
寅三郎:俺もだ。三人とも命中か……。
GM:《業火の心》(注15)諸々含めてダメージは〈氷〉38点! 汚濁の赤墨が襲い掛かる!「あひァアァッ、終わりだよオオォッ!」
寅三郎:赤墨の波を切り散らす! 《範囲防御》(注16)で……10点軽減! 
軋羽:それは、助かる! あたいは残り6点で生き残った!
亜弥:あたしも倒れなかった、17点残ってる! 石蕗さんは?
寅三郎:40点残ってる。「まるで涼風だな」
GM:ぐおお、寅三郎かってええ!
寅三郎:よし、もらった!「うすっぺらだと言ったのは訂正せねばならんな。斬り応えのありそうな腐った魂をしている」マイナーで《平晴眼》(注17)、メジャーで《片手平突き》(注18)のいつものコンボだ。達成値は18。
GM:待って、待ちたまえ……(ダイスを振る)うう、当たりだ。
寅三郎:ダメージはまあまあだな。ダメージ〈斬〉32点。さらに《今の技は秘剣にあらず》で狼狽をくらえ。
GM:《外道属性》で5点食らって打ち消す。……累計97点か。もう虫の息だ。
軋羽:ほう、けっこう脆いね。
GM:妙自身はそんなに体力があるわけじゃないんだ。本体が強ければいままで隠れてる必要もない。
軋羽:なるほどね。「妙、短い付き合いだったけど、あんたは心底可哀想な女さ」
GM:「だまりやァアアッ! あんたの大切な里の餓鬼共だってねえェ、今ごろ首をはねられていようよ!」
軋羽:「ははっ、里だって? ああ、鳥居様がお守り下さった駿河の里のことかい?」
GM:「キいいィアァあぁあッ!」絶叫と共に行動順のラスト、赤墨の連続攻撃だ。
耀蔵:いや、待て。攻撃を食らったあとはクリンナップだ。一ラウンド以内に終わらせる為には今しかあるまい。「……石蕗、任せた」
寅三郎:「はっ」俺が攻撃に割り込んで《粉骨砕身》(注19)を使います。
GM:ぐう、う、打ち消せる奥義はもう持っておりません。
寅三郎:おそらくこれが最後の一撃だ。が……亜弥にちらと目線をやる。……いいか?
亜弥:「お願いします!」あたしはもう兄ちゃんの分まで殴ってやったから。
寅三郎:(口の端で笑って)「……それでいい。お前はそれ以上“こちら”に来るべきではない」マイナーで《平晴眼》、メジャーで《片手平突き》。「斬るのは……俺の役目だ」
軋羽:寅三郎の判定に《親分肌》だ。「頼んだよ。引導を渡してやんな」
寅三郎:よし、達成値は19!
GM:回避するには11以上出さなきゃいかんか。《漆黒の波動》(注20)で攻撃の達成値をマイナス2する、が (ダイスを振る)……ああああん!
軋羽:よっしゃ当たった! GMさすがでございますよ! しょっぱな緊張させといて最後にプレイヤーに花を持たせるとは!
GM:うるせー!
寅三郎:ダメージもだいぶいった。〈斬〉53点!
GM:うお、お、それで妙が落ちる。馬鹿な、秘剣すら出させられなかった……! 

 赤墨が風に流れた刹那、一閃。
 室内が静寂に包まれた。次いで、赤墨の羅刹が音もなく崩れ落ちる。
 後には寅三郎の刀に貫かれた妙が、ぶらり。


GM:「そん、なアァぁ……。お前の秘剣、あの時しかと見たはず……!」
寅三郎:「……おい、よせよ」

 ごりぃ。
 低い囁きと共に、妖異の下腹に突き込んだ刀がさらに深くねじりこまれた。
 妙の喉が歪な音を立て、赤黒い血泡が噴き出す。


寅三郎:「他の男の持ち物とわかって秘剣を使うほど、俺も野暮天じゃあない」
GM:「ヒッ、グ……大久、保……さ……――――」

 人形繰りの妙が最後まで言葉を紡ぐことは適わなかった。
 そこにいない主を求めさまよう腕が、命の糸が絶たれてぶらりと垂れる。
 刀が引き抜かれると、どしゃり、音を立てて落ちた華奢な肢体からどす黒い赤が静かに広がっていった。


軋羽:ああ、仇は取りました、紫様……。
GM:妙が倒れると同時に、死体となって操られていた赤墨の羅刹からも、赤墨が溶けるように消えていく。戦闘終了だ。
耀蔵:終了時に《玄武の癒し》(注21)を使っておこう。全員に24点回復だ。
寅三郎:ありがたい、連戦になりますからな。
耀蔵:「傀儡にされていた者たちも弔ってやらねばならんな。……いずれにせよ亜弥、これを止めてやってくれ」
亜弥:「……はい」


  
*   *   *



 それは、壁にめり込むように備えられた卵状の核であった。
 低い駆動音が響く。淀んだ妖気に満ちるその核の中に、かつて天才蘭学者と呼ばれた妖異が繋がれていた。



亜弥:「長兄ちゃん……」核の前で、袂から綾さんから頂いた印怒羅の自爆キーを取り出します。
GM:駆動音に紛れてかすれた声がする。「それで、いいのかよ……」
耀蔵:む。
軋羽:あいつ、まだ意識があったのかい。
亜弥:「……長兄ちゃん。長兄ちゃんが作った雷で、たくさんのものが壊れちゃったの。もう、終わりにしなきゃいけないんだ」
GM:核に四肢を繋がれた高野は目だけで亜弥をみやる。「印怒羅を止めようが、弥八は罪人のまんまだ。世間では私怨で奉行に刃を向けた罪人と罵られることに変わりはねえんだぜ。そういう奴らを……全部壊してやりてえとは思わねえのかよ」
亜弥:(きっぱりと)「思わないよ。兄ちゃんたちの信じた蘭学が汚れて人々を踏みつける未来は見たくない」って言って、長兄ちゃんに笑います。「あたし、信じたいと思うんだ。こんなやり方じゃなくても、鳥居様たちに蘭学がわかって貰える世は絶対にくるって」
GM:「それがてめえの視る未来かよ、甘いよなあ……」銀光煌く核に埋もれ、亜弥のさらに遠くのどこかを眺めながら高野は呟く。「……ああ、まるで夢物語だ」
亜弥:「夢になんかしない、あたしが作り上げてみせるから。兄ちゃんも、昔の長兄ちゃんも見たかった此の先を」
GM:高野はまぶしそうに目を細め、目を閉じようとする……が、次の瞬間妖異の気が一気に噴出し、はじかれたように核が唸りを上げる!
寅三郎:来たか、蘭学者対決。
GM:「させ……るかよオォォッ!!」高野が《驚天動地》を使用。バチバチと核から伸びたケーブルが舞い、黒い雷光をまとって亜弥に襲い掛かる!
軋羽:亜弥、あんたなら勝てる、気張るんだ。
亜弥:うんっ、あたしも《驚天動地》!
GM:《業火の心》に《煉獄の化身二式》で、高野のダメージは28点!
亜弥:《嵐の心》に《暴風の化身》、《武曲星の光輝》(注22)で……(ダイスを振る)32点っ!

 少女の身体に触れたケーブルが英傑の気にはじかれちぎれ飛ぶ。
 妖異の気を踏み分け、亜弥は渾身の力で自壊鍵を差し込んだ!
 ――――ガシャン!
 どこかで大きな音がした。背後で鳴っていた駆動音が止まる。


GM:ふうぅ、対決は亜弥の勝ちだ。ケーブルが力なく垂れ、急激に妖異の気が拡散し、消えていく。
亜弥:「……長兄ちゃん。ゆっくり、おやすみなさい」
耀蔵:では、最後に一言だけ、「……すまんな、お前を妖異にしてしまって」
GM:光を失いゆく高野の目が鳥居の方へとかすかに揺れ――――そして、そのまま動かなくなる。

 ゴーン、ゴーン、ゴオオォォン……。
 核のさらに奥の向こう側から何かを貫く音が円を繋いでいく。
 ふいにピシリと天井が割れた。
 花が咲くようにバックリと開いた銀の月は、あちらこちらから火花を上げ、静かに移動をはじめる。


寅三郎:印怒羅が沈むか。街の上に落ちるとやっかいなことになるな。
亜弥:でも、街から動きはじめてるってことは、爆発するとかじゃないのかも。
耀蔵:緊急着陸のことも考慮されているだろう。そなたの兄だ。
寅三郎:「俺たちもさっさと脱出しましょう。今なら江戸城が目の下だ」
軋羽:「大久保のやつめ、今ごろ大切な赤墨の部下が消えて泡くってるだろうねえ」
耀蔵:「軋羽、降りられるか」
軋羽:「雷の矢が降らないなら、ひとりくらい抱えて降りるなんざ造作もないですよ」
亜弥:あたしもからくり飛行機持ってきます。降りるだけならひとりくらい増えてもいけるんじゃないかな。
耀蔵:亜弥は軽いだろうしな。
亜弥:鳥居様も細いしいけるいける(笑)。
GM:おすおす、黒衣衆の増援が来る予定だったけど、そっちのほうがいっか(笑)。
軋羽:亜弥、さっきの対決でダメージけっこうくらっちまっただろう。大丈夫かい?
亜弥:大丈夫、ぎりぎり倒れませんでした。鳥居様に回復してもらってよかった。
耀蔵:今の内に今一度回復はできるか?
亜弥:みんなで薬湯(注23)グビグビ飲みながらいこう(笑)。
GM:各自アイテム使用一回、あるいは回復特技一回の使用をOKとしましょう。では、クライマックス2になだれ込むよ!
一同:おおーっ!



■クライマックス02 江戸城炎中決戦  ――――シーンプレイヤー:鳥居耀蔵


 江戸城二の丸が燃えていた。
 本丸へと至る渡り廊下に転々と倒れ伏す黒衣の忍者。
 炎の只中にその者たちはいた。

 阿良々木の一閃で地に崩れ落ちる、大目付、柳生宗矩。
 漫然と見下ろすは大久保古河守利真。


一同:柳生ーっ!
寅三郎:うっほお、やっべえ、柳生までやられたぞ!
軋羽:嬉しそうだね、あんた(笑)。
耀蔵:たとえ柳生殿といえど妖異には適わぬか……。

「……ふ、はは……ははは……。妖異の力あれば大目付殿とて敵ではない、か」
 大久保古河守は整然と居並ぶ赤墨の羅刹に大手を振る。
「本丸へ向かうぞ。まずは将軍様を確保せい。水野や老中どもは悉く消すのだ」
 こらえきれぬ笑みが、弛んだ口の端から漏れ出る。
「今宵が、この大久保古河守の統べる治世の始まりぞ――――」

「オォ……大久、保、さ……――――」

 かすれた呻きが炎に交じる。
 次の瞬間、糸が切れるように周囲の兵が崩れ落ちると、赤墨が揮発していく。
 「な、なっ……!?」 
 驚愕する大久保古河守の頭上で、雷卵が轟音と共にばっくりと花開いた。


亜弥:いえーいっ!
軋羽:はっはー、大久保め、ざまあみろさ!

「まさか、そのような……いったい何が起きたというのだ! 阿良々木、鳥居甲斐守の始末は済んだのであろうな!?」
「ご報告の機を逃し申し訳もございません。鳥居甲斐守殿の一団、先刻、青山にて取り逃がしてございます」
「なっ……あ、阿良々木、貴様……ッ!」
 いきり立つ主を制し、阿良々木は薄い笑みを浮かべる。虚ろな目の奥に暗い炎が揺れる。
「鳥居甲斐守は遠からず殿の御前に現れましょう。さすれば、今度こそ拙者が蝮の喉を掻き切ればよいだけの事」


寅三郎:おい、阿良々木のほうが断然強そうだぞ(笑)。
軋羽:大久保……(笑)。

「そっ、そうだな……。そなたがおれば事は足りよう」
 大久保古河守は本丸へ向かい歩き出す。
「もはや一刻の猶予もない。なれば混乱の収まる前にひとりでも多くの老中どもを潰すしかあるまい!」


GM:――――というところで全員登場だ。君たちは炎渦巻く二の丸の廊下で、ついに大久保古河守の姿を捉えた!
耀蔵:いよいよ、最後の決戦か。登場だ。
寅三郎:これが江戸城か。俺もやりがいがありますな。
亜弥:登場っ! からくり飛行機で燃えてる廊下の壁をぶち破って降り立ちます。ドオオォォンッ!
軋羽:あたいも登場だ。「待ちなよ。そんなに急いでどこへ行くんですかい、大久保様」
GM:壁が崩れる音にびくりと肩を震わせ、大久保古河守は君たちを振り返る。「貴様は、軋羽……!」
耀蔵:わしはまず、後ろで倒れている柳生殿を助け起こそう。「ご無事ですか、大目付殿。大事ありませぬか?」
GM:血塗れの柳生宗矩は微かに息を漏らす。「うぬぅう、無念……」
亜弥:せめてがまの油(注24)をかけとこう(笑)。
GM:「甲斐守殿、ご注意めされよ。我が柳生忍軍が、あの武士の面妖な一太刀の下に悉く……」 
耀蔵:「後は引き受けます。体をいとうてください」と言って立ち上がろう。
GM:「軋羽、雷卵を打ち壊したは貴様か!」怒りに唾を飛ばす大久保古河守が、そこで鳥居に気づき顔をこわばらせる。「これは……鳥居甲斐守殿」
耀蔵:「大久保殿。どうやら、思った通りに事は進んでおらぬようですな」
GM:「まさか妙を退けあの雷卵を落とすとは……貴殿を侮りすぎたか!」
耀蔵:「大久保殿、あなたを追いつめたのはわしではない。あなたの誤りは三つだ」
GM:「誤りだと……!?」
耀蔵:「まず、この江戸に住む者たちをあなどったことだ。あなたの侮った江戸の民が皆、この状況を作り出すために働いた」 
GM:「民の力は確かに侮りがたい側面もあろう。しかしそれは政治においての事。わしの従える妖異の力ならば、そのような者どもは塵にすぎぬわ!」
耀蔵:「第二は妖異の力に頼ったことだ。大久保殿も最初は気高い志で物事をはじめられたのでしょう。しかしその心に妖異が忍び込み、そしてこの有様となった。妖異の力に頼らねば、わしごときあなたが追い落とすは容易であったはず」
GM:その言葉には、大久保は嘲るように笑う。「頼るとは心外ですな。わしは妖異の力を利用しておるだけ、妖異の力を従えておるだけじゃ」
耀蔵:「あなたは今の状態が見えぬとおっしゃるか。その眼を開き、よく御覧なさるがよろしい。……あなたは裸の王だ。あなたを愛しているとのたまう娘ですら、あなたの夢を嘲笑していた」
GM:「なっ……! あ、あれは所詮妖異。獣は餌で飼えど、わしの崇高な野望を理解することはできぬわ!」
耀蔵:「おかしなことをおっしゃいますな。既に、あなたも妖異であるというのに」
GM:「何をたわ言を!」嘲笑する彼の目は、しかし赤々と妖異の輝きに満ちている。彼はそれに気付いていない。
耀蔵:「そも、閻羅王ですら全ての妖異を統率できておらぬというのに、一介の妖異がそれを成せるだろうなど勘違いも甚だしい。もう少し井の外を知るがよかろう」
GM:「えん、ら……? な、なんだそれは!?」
寅三郎:お、おう……そうか、閻羅王も知らねえか。こいつまじでダメダメじゃねえか(笑)。
軋羽:ああ……第一話のオープニングではかっこよかったのにねぇ……(ほろり)。
亜弥:そこで大久保様に言います。「……妙が言ってたとおりだ。大久保様、あんたはとても愚かです」
GM:「なっ……、小娘が何を無礼な!」
亜弥:「勘定奉行の後藤田様でさえ、自分の妖異の力の強さをわかってたのに、あんたは妖異の力を知っただけで操れるって思い込んで、結局誰よりもちっちゃい妖異になっちゃってる」

 亜弥は大久保古河守を見据えた。目の前の老中だという男は、どこまでも矮小で滑稽だった。
「あたしはまだあんまり妖異を見てないけど――――でも、今まで出会った妖異の中で、あんたは一番、愚かな妖異だ」


GM:「こっ、この……ッ、たかが一介の町娘風情が、このわしを侮辱するなど……無礼者がああっ!」
耀蔵:「たかが、ではない。この娘は、日ノ本を真によき国にするために夢を持つ者だ」
GM:屈辱に顔を白黒させながら、大久保古河守は言葉を失う。
耀蔵:「そしてそれは、この娘の兄らも同じであった。……あなたの最後の過ちは、次の世を作る若者たちを利用し踏みにじったことだ」
GM:「新たな国造りの時に下賎な命にかまっておれるか! わしはこの阿良々木と共に、わしの支配する国を作るのだ! それを、それをォオ甲斐守イイィィッ!」
耀蔵:「やはり、か……。あなたはその阿良々木に操られている傀儡にすぎない」
亜弥:えっ?
耀蔵:「大久保殿、あなたの後ろにいる阿良々木の目を覗いてみるがよい。そやつの目は冥(くら)い力に溢れている。あなたの目とは違って」
GM:「謀るな! 目など見ずともわかっておるわ。阿良々木、そうであろう!」と問うと阿良々木は静かに答える。「は。大久保様の御力の下、あらたな争いのなき地を創るため」

 音もなく阿良々木が歩み出る。
「ここが正真正銘、死地にございまする。鳥居甲斐守、そして英傑の各々方。――――いざ、尋常に!」
 炎に煽られ立ち上る妖異の気。半壊した江戸城二の丸で今、ここに、最終決戦の火蓋が落ちた!



●第一ラウンド



GM:妙の操っていた赤墨は消えたので、敵は阿良々木と大久保古河守の二体のみ。両名を倒せば戦闘終了となります。
軋羽:よっし、もう遠慮はなしだ。大久保をぶちのめすよ!
亜弥:(戦闘配置図を覗きこんで)あれ、戦闘マップになんか線が引いてある。
GM:今回は江戸城の廊下ということで、戦場の横幅がせまいのだ。そのため、阿良々木のところが封鎖状態になっています。
寅三郎:げ、阿良々木を倒さにゃ大久保のところまで近づけんのか。
GM:そゆことです。
亜弥:江戸城の廊下ってそんなに狭いんですか?
耀蔵:いや、普通に歩く分は問題ない広さなのだが……刀を持った人間が自由に動けるというと難しいな。
寅三郎:そうそう、刀を持った人間がなだれ込めないようになってるんですよ。刀を抜いているとすれ違うのに難儀してえらいことになったりする。
軋羽:おー、チャンバラっぽいねえ。
亜弥:思いっきり殿中するよ!(笑)
GM:あくまでも封鎖の効果は移動の阻害なので、遠距離攻撃は通常通り命中します。……では、正真正銘最終戦闘だ!
一同:おーっ!

  
*   *   *


GM:セットアッププロセス。こちらの【行動値】は阿良々木が17、大久保古河守が16なので、軋羽からどうぞ。
軋羽:この布陣だと、主戦力はおそらく阿良々木ですよね?
耀蔵:と、見て間違いあるまい。
軋羽:じゃあ、阿良々木に対して《朱雀の眼光》だ。風で炎を巻き上げて、阿良々木の動きを封じるよ。
GM:狭い廊下の中に赤い暴風が渦巻き上がる。「……む」
軋羽:で、その後ろにいる大久保を見て、「大久保様。あんたには言いたいことが山ほどあるけど……とりあえずは感謝しますよ」
GM:「感謝、だと?」
軋羽:「あんたの下で五年勤めを終えていたら、あたいはいつまでも自分の罪を認めることもない、ただの盗人のままで終わっていた。まあ、そもそも生きていたかどうかもわからないけどね」

「……でも、おかげさまであたいは鳥居様を得て、そして仲間を得て、今ここに立っている。それはあんたに心から感謝してるんだよ」

GM:「そなたには随分と目をかけたつもりだが……所詮は鳥か」大久保古河守は怒りで周囲に瘴気を噴き上げる。
亜弥:軋羽さんを切り捨てる気満々だったくせに! あたしは《武神の作法》を宣言。攻撃に+1D6!
GM:阿良々木はセットアップはなし。大久保古河守が《しるべの声》(注25)。阿良々木の【行動値】を+2D6します。
軋羽:ぎゃー!
GM:(ダイスを振って)……さすがに軋羽には追いつけないか。でも亜弥は抜いた、【行動値】は23だ!
寅三郎:げーっ、ザ・めんどくさいぞ!
GM:大久保古河守が怒りに任せ喚く。「阿良々木イィィッ! わしの世を阻む羽虫どもを打ち落とすのだ! 斬れっ、斬り捨てい!」
軋羽:あああ、大久保がどんどん小物に(笑)。
耀蔵:今まで老中という地位に悠然と胡坐をかいておったのだ。それが覆されたがこの方の最後か。
GM:次は寅三郎のセットアップだ。
寅三郎:うーん……どうするかな。
耀蔵:後衛を庇うか前に出る者についていくか。
寅三郎:(悩んで)……よし、《直衛守護》の対象は亜弥だ。今回はたぶん、移動の一手番が生死を分ける気がする。
GM:ではイニシアチブプロセスだ。
軋羽:あたいは《天狗変》!
GM:うす。そして大久保古河守がここで《鎧袖一触》(注26)
亜弥:うわあぁ!
GM:はっはァ、南町奉行が天下人持ってるんだから老中だって持ってるよなぁ!
軋羽:ど、どうしましょう?
耀蔵:ダメージが上がる上に石蕗の防御が激減するな。止めるか否か……(悩む)。
寅三郎:通していいんじゃないでしょうか。俺たちは食らったら落ちる前提で前のめりに突っ込む以上、あとで《破邪顕正》(注27)が切れる方がつらい。
軋羽:そうですね、いざとなったらあたいの《不惜身命》で肩代わりしますよ。
耀蔵:ならばそうするか。
GM:じゃあ《鎧袖一触》は通しだね。では、イニシアチブ。最初のメインプロセスは軋羽だ。
軋羽:まず、マイナーアクションでエンゲージから後方5m離れるよ。これで範囲攻撃を食らいづらくなったろう。
GM:く、万全だなあ。
軋羽:メジャーアクションで《頼むぜ相棒》。対象は……まずは阿良々木を削ろう。攻撃には《一点張り》も使用。長屋から持ち出してきた大久保からの褒美をばらまきながら攻撃!
亜弥:今までの汚い過去を全部この時にぶつけるぜ!
軋羽:「大久保の元でため込んだ汚ねえ褒美の金品だ。あんたに全部くれてやるよ!」
GM:梁を次々にへし折りながら舞い飛ぶ金銀の暴風!
寅三郎:これは! もらったはいいが置き場所に困る1m超の狸の置物だ!(一同爆笑)
亜弥:ええーっ!?
寅三郎:こっちはゴルフコンペでもらった、なにに使ったらいいかよくわからない、会長の銅像!
軋羽:結婚式でもらった夫婦の写真入りペアグラス!
GM:なに与えてんだよ、大久保はよおおおおっ!(笑)
軋羽:それはそうと達成値は17かあ……。んーと、一回振り直しをさせてもらってもよろしいですか?
耀蔵:ならば、わしから《名将の指揮》を飛ばそう。同意対象にしか使えないので早めに使っておいたほうがいい。
軋羽:ありがとうございます。出目が9になったから達成値21!
亜弥:わーい、だいぶあがった!
GM:(ダイスを振る)ううぅん、阿良々木に命中だ。
軋羽:ダメージだよ、11D+10で〈斬〉の55点!
GM:ぐ、やっぱ一撃がでかいな。阿良々木の身体が揺らぐが、彼はまだ剣を抜こうともしていない。
軋羽:「あたいの風ごときでは微動だにしないってわけかい」
GM:それには薄く笑い返して、阿良々木の行動だ。イニシアチブプロセスに「《いざ……尋常に勝負!》」
耀蔵:む、まずいな。
GM:単体を連れてエンゲージを移動させる特技だ。対象は寅三郎!
寅三郎:ってことは……げえっ、亜弥と引き離される!
亜弥:石蕗さーんっ!
GM:寅三郎をこちらのエンゲージまで引き寄せる。これで一対一だ!

 阿良々木の瞳が寅三郎を捕らえた。どこまでも虚無に満ちた暗い闇。
 刹那、寅三郎は自身がいつの間にか阿良々木の間合いへ入りこんでいたことに気づく。


寅三郎:「俺の間合いを盗んだ!?」
GM:阿良々木がオートで《抜刀術》(注28)からの《秘剣:終の比良坂》! これは黄泉返しと同じくオリジナル秘剣名だ。元は《秘剣:竜尾返し》(注29)
耀蔵:げ、竜尾返しか!
軋羽:ど、どんな特技なんですか?
GM:対象に重圧、狼狽、放心を与え、この攻撃で与えるダメージに10D6だ。
亜弥:ぎゃー!
GM:た、ただね……たしか寅三郎はん、あなた今回バッドステータスを無効化する特技を取ったんだよね?(汗)
寅三郎:おう。重圧、邪毒、マヒ、狼狽を無効化できる。これを取っていなかったら《秘剣:黄泉返し》(注30)は封じられていたな。
亜弥:あっぶなかった! 
軋羽:よっしゃー、ナイスレベルアップ!
GM:くっそおお! くっそおおおおっ!!!(地団駄)
寅三郎:(ニヤリと笑う)
GM:そ、それでも最初の一発は寅三郎に撃つ! 虚ろな笑みを浮かべた阿良々木の目の奥。その果てのない虚無が君の眼前―――否、魂を侵食する。
寅三郎:これが本庄殿が言っていた、虚無の剣か。
GM:「秘剣……終の比良坂」命中判定はクリティカル!
耀蔵:振り直しをするか?
寅三郎:いや、俺は戦闘値が低いんでどの道よけられんです。……だめだ。
GM:虚無に満ちたその眼に、刹那、凄絶の灯が灯る。ダメージロールに《一刀両断》(注31)を使用―――〈神〉111点!

 おびただしい鮮血が噴き上がった。
 流麗な所作で納刀した阿良々木が呟く。
「…………虎、一匹」


寅三郎:さすがに強いな。一撃で【HP】が尽きる。鳥居様、《天佑神助》(注32)をください。
耀蔵:よかろう。《天佑神助》を石蕗に使用だ。
寅三郎:《天佑神助》で《一気呵成》を回復して代償に使用。《秘剣:黄泉返し》!

 剣撃は捕らえることすらできなかった。逆袈裟に薙がれた寅三郎が驚愕の表情で倒れていく。
 それを眺める男の眼が、次の瞬間、驚きに見開かれた。
 崩折れる寅三郎の背から生えた一本の刃が、阿良々木へと襲いかかる!


寅三郎:覚悟状態! 倒れる自分の背を盾に、俺の身体ごと貫き返す。「なるほど……これが貴様の抜刀術か」
GM:「貴公、動ける、のか……!?」
寅三郎:「生憎だったな……。俺はもっと恐ろしい目玉に見つめられている日々を送っているんだ」《平晴眼》《片手平付き》で〈斬〉98点!
GM:「まさか、このような剣をふるえる者に出会えるとは……」刀に貫かれながら、にやあぁと、口の端が裂けるような笑みを浮かべる。
軋羽:「寅三郎の秘剣を受けても笑えるなんて、あいつはいったい何者なんだ!?」
GM:「あぁ……これが黄泉返しか! やはりこれなのだ……そうでなくては!」黄泉返しの一撃を受けて阿良々木が《一蓮托生》(注33)! 血まみれの手で抜刀し、寅三郎に振りかぶる!
寅三郎:「ぬ……!」
軋羽:「寅三郎をやらせはしないよ!」風が逆巻いて、振りかぶった阿良々木の手を縛ります。《破邪顕正》! 
GM:く、止められたか! つむじ風に捕らえられ右腕が切り裂かれるが、なおも阿良々木は笑い続ける。
軋羽:「その腕でまだ戦うっていうのかい!?」
亜弥:次はあたしの番だ。阿良々木を攻撃するのが一番かな。でも、石蕗さんの因縁の戦いに入っていいのか……。
寅三郎:それに対しては迷いなく言うよ。「亜弥……頼む!」
亜弥:「石蕗さん!?」
寅三郎:「俺の黄泉返しと奴の秘剣は同じ虚無より生まれし剣。ゆえに、おそらく千日手になる。だが、お前のまっすぐな眼差しならば、奴の虚無の先をも見通せるはずだ!」
軋羽:おおおお!(ぱちぱち)
亜弥:わかった、じゃあ任されたから、行く! マイナーで阿良々木に接近、メジャーで《眩惑の巧み》と《剛落撃》で攻撃します。(ダイスを振って)クリティカルはしなかったけど、達成値は21!
GM:こっちは【回避値】8スタートだ。軋羽に2下げられてるのがまじで痛い。なんとかクリティカルしたいが……ううん、出目5か。これはあきらめよう。
亜弥:じゃあ、貫き合っている石蕗さんを引き剥がすように薙刀を振るいます。それに《一刀両断》も!
GM:う、うおお、大久保古河守から《破邪顕正》!「あ、阿良々木、貴様、何を遊んでおるかああッ!」
軋羽:大久保め、よけいなことを!
耀蔵:だが、これ以上こちらが打ち消すと危ういな。
亜弥:《破邪顕正》は通しましょう。それでも67点の〈斬〉!

「娘……我らの邪魔をするな……!」
 不快げに放たれる白刃をかわし、真っ直ぐな斬撃が妖異の左腕を消し飛ばす!


GM:きついきついきついきつい! ちょっとまってね……(計算中)累計ダメージが200越えたか。でもまだ阿良々木はそこにたたずんでいる。
耀蔵:さすがにまだ落ちぬか……。
GM:次の鳥居の行動に回すと亜弥か寅三郎が再行動しちゃうな。なら、その前に阿良々木が《粉骨砕身》!

 隻腕となった自らの腕を呆然と眺める阿良々木の顔が、しかし、すぐに凄絶な笑みへと変わった。

GM:「……そうか、貴公もそうなのか。ああ……なんと喜ばしいことであろうか」
亜弥:「あんた……いったい何がしたいの? 本当に新時代を作りたいの?」ぜんぜんそうは見えないよ!
GM:「新たな世か……あぁ、願っていたとも」阿良々木の瞳に虚ろが陰る。「……だが、今度こその新時代だ、治世だと邁進すれど、拙者の心は砂地のように乾き続けていた。そして……黄泉返しと再会した夜、魂に炎が渦巻いた。そして、拙者は全てを悟ったのだ」
寅三郎:「……」(眉をひそめる)
GM:「いくら求めようとも、拙者は竜馬にも小五郎にもなれなかった。違う、求めることこそが愚かであった。血風吹きすさぶ戦場の中、貴公らのような者たちと果てなく斬りあい続ける――――それこそが、魂が真に欲していたものだと!」

 それは先の世の怨霊であった。誠をこぼれ落とした武士のなれの果てであった。
 炎に照らされた端正な面を無残に歪め、阿良々木は歓喜の笑みを浮かべる。
「迷いまどうた旅路の果て、ここが我らの黄泉路の終わり。――――さあ、殺し合おうぞ、英傑たちよ!」


軋羽:こいつも妙と同じだ。歪んでる……。
寅三郎:……。
GM:阿良々木が《秘剣:終の比良坂》からの《古流:無影剣》、大久保古河守が《軍神の気》で範囲化、秘剣の対象は今度は亜弥! 攻撃は範囲なので寅三郎も巻き込んで達成値は22!
耀蔵:これは通すと厄介だな。《妙計奇策》(注34)だ。
GM:それには大久保古河守が《天佑神助》で《破邪顕正》!
寅三郎:仕方ない、奥義を切らせたので良しとしましょう。その上で阿良々木の達成値を下げておこう。《弾き落とし》(注35)でマイナス2だ。
耀蔵:《出端挫き》でさらにマイナス2だ。阿良々木の達成値はこれで4下がる。
軋羽:《秘剣:終の比良坂》をもらってるし、亜弥はクリティカル回避に賭けるしかなさそうね。寅三郎に対して《親分肌》で+2だよ。
寅三郎:よし、これならなんとかいけるかもしれん。(ダイスを振る)……同値か。いや、ここは自分に《防御支援》(注36)。達成値2差で回避しておこう。
GM:2差!? ひどい、なんでそういうことするの!(バンバン!)
耀蔵:どうせ達成値を下げるか上げるかする特技を持っているのだろう?
亜弥:用心は大事だもんね(笑)。
GM:くっそ、まじで読みいいな! 大久保古河守が《天賦の貫禄》で寅三郎に振り直させるよ!
寅三郎:いいよ。(ダイスを振りなおして)ええと避けた。
軋羽:よっしゃー!
GM:ぐあー、避けられたか……仕方ない。亜弥に〈神〉309点だ! 消し飛べ!

 それは喜悦であった。
 死と虚無の狭間で魂を砕く熱に陶酔した、淀んだ愉楽であった。
 咄嗟に構えた薙刀を造作なく両断し、少女の小さな身体を刃が切り裂いた。


軋羽:「亜弥ーっ!」
亜弥:「あたしは……殺し合いがしたいわけじゃない!」って膝をついて立ち上がる。覚悟状態だ!
耀蔵:その様子を眺めながら声をかけよう。「……阿良々木といったか。そなた、生太刀という言葉を知っておるか?」
GM:「……?」
耀蔵:「そなたは刀を殺すためのものと思っているだろう?」
GM:「殺すため? ……違う、斬らねば砂漠となってしまうのだ。論理ではない、現象なのだ。これは、あの動乱に生きた者に刻まれた魂の乾き」阿良々木は静かに首を振る。「……太平の幕閣にはわからぬか。なあ……黄泉返し」
寅三郎:それには何も答えない。
耀蔵:「阿良々木よ。世の中には、斬るたびにそなたの言う砂漠を潤す者も確かにあるのだ」
GM:「そう思うもよいさ。それよりも……」阿良々木はとうに狂った笑みをうかべる。「――――貴公も拙者に刃を、向けてくれるのだろう?」




耀蔵:「……そなたのような存在を未来に作り出すに至るは、わしらの咎だな」マイナーアクションで《自在幻法》。メジャーアクションで《水天の術》(注37)だ。
GM:え……誰かを再行動させるんじゃないんだ?
耀蔵:《忠実なる右腕》(注38)を使用、大久保殿に攻撃をする。達成値は29だ。
軋羽:高っけええ! ほら大久保様、29ですよ!(笑)
GM:うえええ、うるせー! っていうか忠実な部下と思い込んでいた阿良々木が目の前で狂気に支配されてるから、わし今けっこうびびってるんだよ!(笑)

「阿良々木、貴様、何をやっておる! 血迷うたか!」
 喚く大久保古河守は後方の鳥居を見、そして驚愕の悲鳴を上げた。
 鳥居耀蔵の背後にぼうやりと立つ陽炎は、死したはずの彼の妻。


軋羽:「紫様……!」
GM:「な……幻影だと!?」
耀蔵:「死しても想いは残る。そなたが殺せたのは、わしの妻の肉体に過ぎん」現われた紫が手にした槍で空中に円月を描くと、大量の水が濁流となって大久保殿に襲いかかる。
GM:29なんざ避けられるか! ダメージカモン!
耀蔵:《心裂く刃》(注39)で属性を〈闇〉に変える。〈闇〉17点だ。さらに特技の効果で、波を操る紫が大久保を阿良々木の居るエンゲージまで移動させる。
GM:本命はダメージじゃなくてそっちか!
耀蔵:「……想いの強さを知るがよい」
GM:「甲斐守……この、戯言をオオッ!」怒りに震える大久保が目の前のエンゲージに《千変万化》(注40)からの《驚天動地》!
亜弥:うわあっ!
GM:亜弥と寅三郎はふたりとも覚悟状態だろう! どす黒い瘴気がふたりに絡みつく。《水の心》(注41)《怒涛の化身》(注42)も使用して、〈神〉の34点!
寅三郎:軋羽! 頼んだ!
GM:あ、くっ、《不惜身命》(注43)か!
耀蔵:しかも、軋羽はまだ覚悟状態になっていない。このタイミングを待っていた。
軋羽:ああ、もちろん《不惜身命》さ! 瘴気を風で巻き上げてこちらに吸い寄せる!
GM:「軋羽、この期に及んで、貴様アアァァッ!」
軋羽:「はっ、知っての通り魔縁の出でね。あんたほどじゃなくても禍々しい気を読んだりできるのさ」とはいえ、残り【HP】は30点だったので、あたいも覚悟状態だ。くー。
耀蔵:「大久保殿。あなたが軋羽をどんなに軽んじておったか、よくわかります。(薄く笑って)部下の能力は把握しておきませんとなあ」
GM:「くっ、あ、あのような下賎な鳥など、せいぜい諜報が関の山かと……!」
軋羽:(ニヤリと笑って)「下賎な鳥で結構。あんたのおかげで真に認めてくださる主君の元につけたんだ。ああ、何度でも言って差し上げますよ!」
GM:大久保古河守は顔を真っ赤にしたまま震えている。次は大久保本来の行動だ。《緊急指令》を阿良々木に使用する。「阿良々木、何を暢気に笑っておる! わしへの忠心を思い出せ!」
寅三郎:大久保はほんとにしょうもねえなあ。
亜弥:ほんとにしょうがないね……。大久保様を見ながら呟きます。「これが、妖異の本当の恐ろしさなんだね」
軋羽:え?
亜弥:「何人殺せるから恐いんじゃないんだ。怖いのは、心の隙に忍びこんでいくってことなんだ。どんなにすごい人でも、そうして心を壊していってしまって……」
耀蔵:「そうだ。その末路が、此達だ」
亜弥:折れた薙刀を握り締めます。「絶対にあたしたちは負けない。……もう誰も、妖異なんかにさせたくない」

「軋羽さんも、石蕗さんも鳥居様も、涼太郎も花井さんも本庄さんも、南町の人も長屋の人たちも江戸の人ももっといっぱいのひともみんなみんなみんな! 妖異にさせない先の世にするんだから!」

一同:おおーっ!(ぱちぱちぱち)
亜弥:えへへ、でも、あたしの手番は終わっちゃってるけど(笑)。
GM:いや、すごくいい振りだ。「すばらしい……なればこそ殺し合うにふさわしい、英傑よ!」阿良々木が喝采を上げると刀を抜き放つ!
寅三郎:……来たか。
GM:《抜刀術》からの《古流:無影剣》《範囲攻撃》。しかし既に彼の心は闘争の喜びに支配され、虚無の心ではなくなっている。秘剣は使えずに目の前の亜弥と寅三郎に攻撃!
軋羽:妖異に完全に堕ちたから秘剣が使えなくなるって解釈は面白いね。
GM:実はデータ的には、秘剣の使用回数を使い切ったからだけどね(笑)。淀んだ歓喜に満たされた心では、相手の心に重圧を与えることはできないのだ。――――達成値は23!
亜弥:……っ、23でギリギリ回避!
GM:それに対して大久保古河守が《漆黒の波動》でマイナス2だ。これで命中させる!
寅三郎:俺も2足りなかった。亜弥を《援護防御》(注44)で庇おう、ダメージをくれ。
GM:では、寅三郎に〈神〉の55点!
寅三郎:俺は落ちるな。【HP】が0になったので、《起死回生》(注45)を消費し、再び《秘剣:黄泉返し》!
耀蔵:そこに《軍神の気》を重ねる。秘剣の範囲化だ。
GM:秘剣の範囲化っっ!?
寅三郎:よし、これを待っていた!
GM:「き、貴様っ! 鳥居甲斐守、まさかこのために……!?」うわあああ、だから《緊急指令》しないで引き寄せたのか!
耀蔵:無言で勝利の笑みを浮かべる。
寅三郎:鳥居様が大久保を連れてきた時点で意図はわかってた。さすが鳥居様、俺のやりたかったことをわかってくださる。
耀蔵:「そなたには舞台を用意してやると、約束しただろう?」
寅三郎:「はい」と笑って。――――阿良々木の横薙ぎに俺の羽織が切り裂かれ、その下から浅黄色のだんだら羽織が舞い上がる。
一同:おおおおおっ!?
寅三郎:実はだんだら羽織を所持品としてはずっと持ち続けていたのです。……これが、新撰組だ。

 浅黄のだんだら模様がはためく。燦然と誠の一文字。
 血飛沫を上げながら返す刀は白刃のきらめき。
 その一太刀が貫くは、死した怨霊たる自身と、その先の妖異。


寅三郎:「秘剣――――黄泉返し!」

 それは黄泉路を返す一閃、生への眼差し、未来への一太刀。
 淀んだ瞳に宿る、英傑の灯。


寅三郎:絶対命中だ、94点〈斬〉!
GM:ぐおおおぉっ、そっ、それはだめだ、大久保も阿良々木も崩れ落ちる!
亜弥:うわあぁ、わああああ!
寅三郎耀蔵:やった!
軋羽:やったああっ!(拍手喝采)
GM:黄泉返しの一閃が、二体の妖異を、打ち倒した……(呆然とポーンを倒す)。
軋羽:ま、待って。これで寅三郎も死んじゃうの……?
耀蔵:いや、石蕗には最後の《天佑神助》を使う。手をさしのべながら 「まだ、早いぞ。わしは舞台が一度だけとは言っておらん」
寅三郎:回復した《起死回生》を使用、ニッと笑って鳥居様の手を取る。「は。それはまた、豪気なことですな」
GM亜弥:おおおおー(机をばしばし叩く)。
軋羽:「まったく……驚かすんじゃないよ」少しだけ鼻をすすって涙をごまかすかね。

 火勢は静まりつつあった。
 街の彼方、花びらが枯れて落ちるように印怒羅が海へ沈んでいく。
 煙けぶる空にふと、切れ間が現われた。
 満天の星空の中、美しい満月が江戸の街を照らしていた。




エンディング

■エンディング01 蒼風の旅立ち  ――――シーンプレイヤー:軋羽&石蕗寅三郎

軋羽:いやー、最終決戦はすごかった! 戦術の二手、三手先を読んだ動きが最後に爆発するなんてね(笑)。
GM:くっそおおお、すっごい悔しい! ぜんっぜん気付けなかった、まんまとしてやられた気分だ。すごい!
寅三郎:そう。全ては行動順すらも見越した俺と鳥居様の連携だったのだ。
耀蔵:なぜわしが鎖帷子を脱いだのか、というな。
亜弥:あーっ! そっか、そこからはじまってたんだ!(感嘆)
GM:なんでふたりともわかりあってるのよ、相談とか全然してなかったのに!
軋羽:あっはっは(笑)。
亜弥:壮絶だったー。でも、誰も死なないでよかったなあ。
寅三郎:いや、本当にな。
GM:さて、話は尽きないけどエンディングへと参りましょうか。まずは戦いの後、この事態がどのような落着を見せたかですが。

 江戸に大打撃を与えた事態の責、その行き先はあっけないほど簡単に決まった。
 他ならぬ大目付・柳生宗矩が、大久保古河守が妖異の主格である事実と、鳥居甲斐守率いる黒衣衆がそれを打ち倒したと証言したのだ。
 それによって鳥居にかけられていた奉行所七十八人殺しの責も晴れたのである。


亜弥:はー、よかったあぁ。
耀蔵:そうか。今回の一連の件については、全て柳生様が内々におさめた、ということにしてくれ。
亜弥:え、せっかく鳥居様が活躍したのに。
軋羽:公にすれば、これで民からの信頼を得られるかもしれませんよ?
耀蔵:妖異はもちろんのこと、そもそも黒衣衆は公にはあるはずのない影の組織だ。ここで表に出るは本意ではない。
寅三郎:まあ、俺らはそういう意味では、いないことになってるやつらですからね。
耀蔵:そう。であるならば、後々のために柳生に恩を売っておくほうがよい。
亜弥:それが政治的判断ってやつかー(少し残念そう)。
GM:先々を見越しているなあ。さすが鳥居耀蔵。
耀蔵:印怒羅の件は高野に全ての責を負ってもらおう。工藤綾らが事態鎮圧に役立った件を押せば、無用に蘭学者排斥に傾くこともあるまい。
軋羽:……鳥居様、もしかして、亜弥のことをお気になさってます?
耀蔵:政(まつりごと)には加減というものが必要だ。洋学は使えるものもある。なにもかも潰してしまうわけにはいかん。
亜弥:ありがとうございます……!
耀蔵:だがな……人々の眼を引くのは、まず必要なものではなく、きらびやかな物だ。金銀や兵器、そして妖異の力のようにな。そのための戦いはこれからも続く。

 こうして江戸の危機は終わりを告げた。
 英傑たちは再び元の日常へと歩き出す。
 幾ばくかの変容を携えて。


GM:それじゃあ、ひとりずつエンディングにいこうか。軋羽か寅三郎からいきたいと思うんだけど。
軋羽:それならあたいが先にやるよ。
GM:こっちから提案することもできるけど、軋羽がやりたいシーンとかある?
軋羽:亜弥とは絶対話をしたいんだ。でも寅三郎にも言いたいことがあって……ううーん(悩む)。
GM:キャンペーンの最後だし、好きなだけいろいろがっつりやっちゃうといいさ。
軋羽:じゃああたいは、みんなと話をしていきたいな。
寅三郎:あ、それだったら俺は軋羽とまとめてにしてくれ。俺はもうやりたいことが決まってるんで。
GM:じゃあ寅三郎と軋羽のエンディングを一緒にして、視点は軋羽から入ろうか。

 事件からひと月が経った。
 土から這い出た蝉たちが騒々しく喚く中、拍子を打つような鑿の音が夏雲見事な空に響いている。


軋羽:奉行所は今立て直してる最中で、大工や用人たちが行きかっているのです。
GM:鵜殿さんも現場でテキパキと指示を飛ばしてるよ。「ハイ、もーそこもうちょっと早くしてよねェン!」
亜弥:鵜殿さんもお元気そうだー(笑)。
軋羽:あたいも奉行所の復興を手伝う日々を送っていて、役宅の廊下を歩いている時に、ふとかつて紫様がよく庭の掃除をしていたところを通りかかるのです。

 暖かな風が吹く。主を失った離れから、涼やかな風鈴の音がなった。
 軋羽は足を止め、少し寂れた中庭を眺める。


軋羽:思いを巡らせながら、ちょっと立ち止まって動けなくなっている。そこらへんで……亜弥、出てきてくれないかい(笑)。
亜弥:わかった!「軋羽さーん、お茶入りましたー」って声をかけるんだけど、様子が気になって縁側まで出てきます。「……どうしたんですか?」
軋羽:「ああ……」ぼーっと誰もいない中庭をじっと見ている。
亜弥:「……紫さんのこと、ですか?」
軋羽:「……まぁ、いろいろ考えてしまってさ。あたいがもっと早く大久保に見切りをつけていれば、ってさ」
寅三郎:まあ、わかってても考えちまうよなあ。
軋羽:「そうすれば紫様がお亡くなりになることも、涼太郎が傷つくこともなくて、それに江戸中がここまで大変なことになることはなかったかもしれない……ま、今となっては後の祭りだけどさ」
亜弥:「でも、それを言ってしまったらどこまでいってもキリがないな、って思うな」
軋羽:(フッと笑って)「そう、そうだね……キリがない」
亜弥:ちょっと兄ちゃんのことを思い出しながら、「あたしにもね、後悔はいっぱいある。もっとあたしが蘭学に励んでたら兄ちゃんは秘密を教えてくれたんじゃないかとか、長兄ちゃんの怒りに気付けてたらとか」

 かすかに涙が滲んだ。しかし、それをぐいと拭って。

亜弥:「……でも、それはもう帰ってこないことだから。だったら後悔じゃなくって、その人たちの想いを背負って、前を見て歩いていくことが大切だから」
軋羽:「そうだね……。色々あったけど、最後にはこの江戸を守ることができた。あたいも里のみんなに顔向けができる」と言って笑いましょう。「何度だって言うけどさ、あんたたちに、亜弥に会えてほんとによかった」
亜弥:軋羽さんが笑ったのを見てちょっとホッとしつつ。「あたしも、やっぱりずっと恨みだけを持って生きるなんてできなかった。なんだかんだあったけど、軋羽さんや石蕗さんや鳥居様に出会えて、南町のみんなと会えて良かったって思うの」
軋羽:じゃあ、お尻をバシンとはたくよ!「亜弥はやっぱり大人だねぇ。あたいなんかよりもずっとしっかりしてるよ」
亜弥:にゃんっ!? いっつもお尻叩く〜(笑)。「そうかなぁ……」
軋羽:「そうだ、後片付けがひと段落したらさ、鳥居様に掛け合って少しお暇をもらって里に顔を出そうと思うんだ」
亜弥:「結局ドタバタして帰れてなかったもんね。きっとみんな喜ぶよ」
軋羽:「でさ、亜弥、あんたも一度来てみないかい?」
亜弥:「え? あたしも?」
軋羽:「なにしろ里の奴らに文字を教えるって鳥居様に約束してしまったんだ。あたいひとりじゃまだ、仮名を教えるのが精いっぱいだ」
亜弥:じゃあ……少し考えてから。「そうだね……。じゃああたしも少しなら、軋羽さんと一緒に行ってもいいかな……」
軋羽:「決まりだね。あとさ、あの仏頂面の寅三郎も連れて行こうと思うんだよ」
亜弥:うわぉう!「石蕗さんも?」
軋羽:(照れたように笑って)「ほら、あいつ自分の故郷とかもないわけだし、たまにはそういうモンを見せてやるのも悪くないかな、なんてね」と言って、寅三郎を探そうかな。「ところであいつ、いったいどこで油を売ってるんだろうねぇ」
亜弥:あ、じゃああたしはここで退場します♪
寅三郎:俺はですね、玄関で旅支度を整えて出て行こうとしているところです。
軋羽:「あれ? 寅三郎、あんたどこに行くんだい?」と、姿を見止めて駆け寄るよ。
寅三郎:「亜米利加(アメリカ)だ」
一同:えええええっ!?
亜弥:出て行っちゃうの!?
軋羽:アメリカ!?「ちょ、ちょっと待ちなよ!」
寅三郎:「鳥居様にはもう話を通してある。……いろいろと考えたんだが、俺はやはりこの時代に居るべきではない人間だ」
軋羽:「そんなこと……、あたいはあんたに居てほしいよ!」
寅三郎:「いや、阿良々木と相まみえてわかった。俺はやはり過去から逃げることはできない」と言って草鞋を履くと立ち上がる。「だが、俺はもう一度自分の腕を確かめてみたくなった」

 ひどく憑き物の落ちたような顔で、寅三郎は軋羽を見た。
「俺は近藤局長にも土方さんにもなれなかった。……それでも、俺は強くなりたい」


寅三郎:「この時代で何かを成すためには、もっと俺は強くならなくてはいかん。そのために、もっと広い外ツ国を巡ってくる」
亜弥:おおおぉ、石蕗さんが前向きになってる(机をバンバン叩く)。
GM:あきらめてた人だったのに!
亜弥:俺は弱い、って言ってたのに!
軋羽:「本当に……行っちまうのかい」
寅三郎:「……すまん」
軋羽:「それが、あんたがここで見つけたものなんだね」
寅三郎:「ああ」
軋羽:なんだ、こいつはとっくの昔にかわっちまってたんだな……と少しだけさびしそうな顔を見せるよ。
寅三郎:「そう思えたのはお前たちのおかげだ。強くなる理由を、お前たちが教えてくれた」
軋羽:そっか……。じゃあ笑みを作るよ。「……いいさ、亜米利加にでもどこにでも行けばいい。あたいもこの地で見つけたんだ。同じように、あんたもどこかの地で見つけられるさ。だから……強くなれたその時は、一度くらいここに戻ってきなよ。それまであたいも、鳥居様も待ってるからさ」
寅三郎:「……わかっている。ここは俺の、故郷だ」
軋羽:それを聞いてあたいはすごく晴れ晴れしい笑みを浮かべるよ。「あたいが見送ってやる。だから安心して行ってきな、寅三郎」
寅三郎:「ああ。……そうだ。これをお前に預かっていてほしい」と言って、腰に下げていた刀を軋羽に渡す。
耀蔵:おお。
軋羽:「これ……」それはあまりにも傷だらけで武骨で、ずっしりと重い。
寅三郎:「俺の血を吸った黄泉返しの剣だ。……もう、俺には必要のないものだ」
軋羽:秘剣使いが秘剣を捨てて、それで強くなる、か。いいな。「達者でね」
寅三郎:(フッと笑って)「また会おう」

 蝉の音が鳴り止まぬ道を、寅三郎が港へ歩いていく。
 その猫背がかった浅黄色の背を、軋羽はいつまでも見送っていた。




■エンディング02 白檀の別れ  ――――シーンプレイヤー:鳥居耀蔵

 それが最後の日であろうとも、役宅の書斎で書斎の主はいつものように積みあがった書類に筆を滑らせていた。
 ちりん、ちりんと時折鳴る風鈴が、離れから涼を運んでいる。


GM:次は鳥居耀蔵のシーンでいかがでしょうか。
耀蔵:そうだな。それなら軋羽に出てきてもらって話をしたい。それに、紫とも別れねばならん。
亜弥:あ、そっか。紫さんが居られるのは事件が片付くまでっていってたから……。
耀蔵:わしは書斎で書き物をしながら軋羽に問うている。「石蕗は発ったか」
軋羽:じゃあ、柱に背をもたれながら、「後ろも振り向かずにまっすぐ去っていきましたよ。あいつらしいです」
耀蔵:「異国を見てきた日本の人間は、これから先、さらにたくさん必要になる」
軋羽:「海の向こうだなんて……なんだか想像がつきませんね」
耀蔵:「なに、わしらとそう大差はない。だが、その大して差がないということを知るためには、その眼で実際に見ねばならん。そしてそれを見た者だけが、その言葉に重みをもって伝えることができる。石蕗はその任を負ってくれた」
軋羽:「あたいにとってその海の向こうってのは、鳥居様だったんですけどね」
亜弥:おお〜。
軋羽:「あなた様はあたいに見られなかったものを見せてくださり、感じることができなかったことを教えてくださったんです。すごく感謝してますよ」
耀蔵:「……わしはな、軋羽」
軋羽:「はっ」
耀蔵:「お前の感謝は実はいらぬ。むしろ……少し弱音を吐くぞ」
軋羽:「は……」
GM:(こそっと)ミノルさん、今のうちに握手しててくんない? 危ないから。
亜弥:あ、あたしもヤバそうだから繋いで繋いで(ふたりで両手を繋ぐ)。
寅三郎:なにがヤバいんだよ(笑)。
耀蔵:「わしはお前たちに責められる立場にある。わしらがきちんと正道を成していれば、お前たちのようなものは生まれなかった」

「今、世界は変わりつつある。おそらく日ノ本も無縁ではいられまい。そしてやってくる世が、あの阿良々木の言うような世であるというのは恐ろしいことだ」

耀蔵:「もし、本当に幕府が倒れる未来が来るというのならば、それはわしらの失策だ。力がなかったのだ。もちろん勝敗は世の常だ。だがその世が訪れるために民がどれだけ死ぬであろうか」
軋羽:「あなた様は仰ったではないですか。そのような先のことなど、いくらでも変えられると。もしも、幕府が倒れて我々の役目が変わったとしても、そこには必ず鳥居様、あなた様がいらっしゃいます」
耀蔵:「…………」(黙って軋羽を見る)
軋羽:「もちろんあたいや寅三郎や、そして亜弥だってきっとそこにいると思いますよ。それが何よりの、希望ではございませんか」
耀蔵:ではフッと笑って。「……言ったであろう、弱音だ」
軋羽:「ああ、そうでしたね。……まあ、あたいは何も聞いてませんでしたよ」
耀蔵:「いや、聞いておけ。老人の弱音を聞いておかねば若者は奮起せぬ」

 スゥ……と、音もなく襖が開いた。
 誰もいない廊下から入ってきた一筋の陽炎がゆらりと揺れる。 


耀蔵:―――そして紫の霊体が入ってきて、三ツ指をつくのを見て。「そうか、そろそろか……」
亜弥:そっか、もう消えちゃうんだ……。
耀蔵:「軋羽。亜弥も連れてきてくれ」
軋羽:「かしこまりました」

 鳥居は役宅の中庭に設えておいた香炉に火をつけ、妻の簪をくべた。
 白檀の簪が火にまかれ、静かに灰へ変わっていく。


亜弥:あたしも登場して、それを見ながら手を合わせてお祈りをします。安らかに眠ってください……。
耀蔵:「生者と死者が関わりあえる時間には限りがある。それでも……わしはお前といられてよかったよ」
GM:空へと上る煙の中、薄く紫の姿が揺れる。
亜弥:じゃあ……消えていく紫さんに向かって何か言おうとするんだけど、言おうとすると泣きそうなので涙目になりながらペコっとお辞儀をします。
GM:紫は亜弥と初めて会った時のようにすぅと手を伸ばし、優しくその頭を撫でる。
亜弥:うん。手の感覚はないけど感じるよ……。
GM:そして、ふわりとほどけるようにその姿が消えていく。
軋羽:消えていくその姿を黙って見送るよ。
亜弥:じゃあ、誰もいなくなってしまった空を見上げながら、「これで、本当にお別れなんですね……」
耀蔵:「人はいつかは必ず死んでいく。ただな、その別れを悲しまずに迎えるためには、準備がいる。わしは紫がいなくなったとき、準備ができていなかった。だが、そなたのおかげでその準備ができた。……紫もそう言ってくれている」
亜弥:その言葉に、こらえきれなくなった涙をボロボロと流しつつ……ううっ、言えないや。しゃくりあげてる。
軋羽:あたいも紫様の消えていった空を見上げていましょう。

 ふたりを後に、鳥居は踵を返した。
 振り返ったその面は既に厳しく、ここにあらぬ先の世を睨みすえる。


耀蔵:「わしはまだ、やらねばならんことがある。……お前の所へは行けぬ。其方で待っていろ」



■エンディング03 満天の此先  ――――シーンプレイヤー:亜弥

GM:最後の最後は亜弥のエンディングだ。シーンをはじめる前に聞いておきたいんだけど、亜弥はこれからどうする?
亜弥:これから……?
GM:兄ちゃんの真相を知って一連の事件を解決した今、亜弥のこれからの道っていっぱいあってさ。
軋羽:そうだよねえ。
寅三郎:このまま鳥居様のもとで黒衣衆として働くか。元いた長屋に戻るか。
軋羽:あたいと一緒に駿河の里に来てもいいんだよ?
亜弥:……ん、実はもう、行きたいとこもやりたいことも決まってるんだ。だから、その前に鳥居様と話がしたいんです。いいですか?
耀蔵:うむ。

 秋葉原屋敷の書斎へ、亜弥は薄暗い廊下を軋ませながら向かった。
 そこは兄の詰問をうけた、初めてかの男と相対した場所。
 少女が襖を開けると、あの時と全く変わらぬ張り詰めた背が、文机の前で筆を走らせていた。


亜弥:「鳥居様、お話があります」
耀蔵:では、筆を進める手を止めずに言う。「話せ」
亜弥:じゃあ鳥居様の後ろにちょこんと座って。「お暇をいただきたいと思います」
耀蔵:「話は軋羽から聞いている。駿河の里へ行くのであろう」
亜弥:「できればそれよりも長く、ずっとお暇をいただけたらと思うのですが」
軋羽:おお!?
寅三郎:亜弥も南町を出るのか。
耀蔵:筆を進める手が少し止まる。「何をするつもりか、聞いてもよいか?」
亜弥:「あたしは長崎に行って、一度、蘭学をちゃんと学びたいんです」
耀蔵:「……江戸にも師事できる蘭学者はおろう」
亜弥:「はい、南町には花井さんが居るし、頼めば工藤綾さんにも師事できるかもしれない。でも、もっと広い世界の中で、兄ちゃんが人々に新たな地平を見せたいと思ったのと同じくらい、いろんな分野に触れてみたいんです」
耀蔵:「…………」
亜弥:「だから、江戸よりももう少しオランダに近い長崎で、それを学びたいと思ってます」
軋羽:亜弥あぁ、あんたさああぁ、ほんに立派になったねえ。おうおう、姉ちゃんは眩しいよう。
亜弥:うわっ、軋羽さんがでろんでろんになってる!(笑)
寅三郎:おいこの酔っ払いどっか持ってってくれ(笑)。
亜弥:初めてここで会った時には目を合わせることもビクビクだったんだけど、今はそう言ってから、まっすぐ鳥居様を見てる。
耀蔵:では、わしの方から下を向いて視線を外し、筆を置く。「……許可はできんな」
亜弥:そんな……!
耀蔵:「軋羽の里へ休暇に向かうことについては異存はない。だがその後、長崎に行くことについてはいろいろと難しい」
亜弥:「でっ、でも……!」しょぼーん……。
耀蔵:その気配を背中に感じながら話をはじめよう。「……わしはこれからそう遠くないうちに勘定奉行の職を返上することになる。もともと後藤田殿の後始末の為に預けられていただけの職だ」
軋羽:鳥居様、今そういう話してる場合じゃ! 亜弥を、亜弥を!(バンバン)
耀蔵:「だがこれを取引条件として、いろいろと話をできることもある」と言って亜弥に向き直る。「わしはかねてより、長崎奉行の職を配下の者に与えたいと思っていた。だが、それを成すには、長崎の地に赴いて情報を仕入れる必要がある」
亜弥:え……。
耀蔵:「長崎に誰か行ってもらわねばならぬのだが、わしのところに軒先を借りているもので蘭語が読める者はあまりおらん」

「……仔細はわしの権限で通す。留学に行ってまいれ。職務としてだ」

一同:おおおおおー!
亜弥:(ぽかんとして)「え……りゅ、留学……?」
耀蔵:「そうだ。だいたい考えてもみよ。そなた、長崎に行って生活費をどうするつもりだったのだ?」
亜弥:「えっ、えと……ここで稼いだ貯金で……」
耀蔵:「たった数月ので、か?」
亜弥:「いっ、いざとなったら傘張りだってできるし……」
寅三郎:一日十二文でか(笑)。
耀蔵:「その仕事は、蘭学を学ぶ時間を削ってまで成す対価を得られるか? 研究の資金には事足りるか? そもそも、長崎までの路銀はどうするつもりだったのだ?」
亜弥:「あっ……えっ、えっと……」ぜ、全然考えてなかった! 今度はこっちがどんどん目線を外していくことに。あわわわ(笑)。
耀蔵:では、わしは顔をあげて(笑)。「故に、そなたに暇を与えて長崎へ放逐することはできん」
亜弥:「あ…………はい」
軋羽:ぷふっ(笑)。
耀蔵:「軋羽の里に立ち寄った先はひとりになるだろうが、道中気をつけるがよい。何かあったときに備え、わしの庇護下ではないことにする」

 真っ赤な顔で俯いた亜弥は、ちらりと鳥居を窺った。
 その面はいつもと変わらぬ鉄面皮。しかし、少女を見つめる眼はどこか柔らかい。


亜弥:じゃあ顔をパッと輝かせて。「ありがとうございます! たくさん学んでいろんなものを見て、そしていつかまたこの奉行所に戻ってきます」
耀蔵:「ひとつだけ命じておこう」
亜弥:「はい」
耀蔵:「帰ってくる時までに成し遂げておくことだ。帰ってきたら、わしを否定せい」
亜弥:その言葉にはポカーンとして。「否定……ですか?」
耀蔵:「そうだ。所詮、わしのやり方は古い。高野長英に言われるまでもない。あやつは視野が狭かった。だが先は見ていた。わしは視野が狭いつもりはない。だがやり方に限界がある。お前はその両方を身につけ、わしも、そして未来から来たという阿良々木も越えて、先の世へと行け」
亜弥:じゃあ、そうだなぁ。ここで後ろに持ってた鞄の中から、シュルっと一枚の絵を出します。

 それは、鮮やかな浮世絵であった。
 葛飾北斎作、富岳三十六景が一枚。蒼々とした空に大きな富士が屹立と描かれている。


亜弥:「これ、黒衣衆のお給金で買ったの。兄ちゃんが見せたかったのは、きっとこんな世界だって思って」

 少女の指が、富士の空に触れる。

亜弥:「この青はオランダの、もっと向こうの国からきた色だそうです」
GM:プルシャンブルーか。
亜弥:「あたしはこんな風に、いろんな国の色んなものを取り込んで、日本の地でもっといろんな文化が芽生えればいいと思います」と言って鳥居様を見上げます。「長崎から帰ってきた時は、あなたをただ否定するんじゃなく、これと同じくらい新しく取り入れたものを差し出せるようになってみせます」

 瞳に蒼を映した眼差しはどこまでも真っ直ぐであった。
 ぴんと張った背は、ふた月前よりも少し伸びたように見えた。


亜弥:「これ、選別に差し上げます。こういう世も作れるんだってこと、忘れないで」
耀蔵:では、その絵を手にとって「……良い、青だ」
亜弥:あたしは立ち上がります。「じゃあ、軋羽さんが待ってますので」
耀蔵:「達者でな」
亜弥:「……はい!」

 お辞儀をひとつして少女は襖を閉めた。軽い足音が屋敷の外へと駆けていき、そしてすぐに聞こえなくなる。
 ひとりとなった書斎はやけに広く感じられた。
 眺めていた浮世絵から鳥居は顔を上げ、それを脇の引き出しにしまう。


耀蔵:「さて、ふたりも減ったか……」

 早急に欠員を埋めねばならん。
 つぶやくと、南町奉行は神経質なまでに磨き上げられた文机に向き直り、再び筆を走らせはじめた。



  
*   *   *



 どこまでも晴れ渡る夏空の下を、旅荷物を抱えた少女が道を走っていく。
 道の先には旅装束の軋羽の姿。


軋羽:「亜弥、昼中までには立たないと宿場町まで辿りつけないよ」
亜弥:「ごめんなさい! もー準備はばっちりです!」

 小さな背に薙刀が揺れる。ふたりの足取りは軽い。

軋羽:「随分かかるからなにかあったのかと思うじゃないか。鳥居様はお許しをくれたかい?」
亜弥:「うん、行っていいよって。あとね、絵を一緒に見ていたの」
軋羽:「絵?」

 川向こうに兄の眠る墓地が見えた。線香の煙が暖かな風になびいている。
 最後にそれを振り返った少女は、満天の笑みを浮かべ、故郷に別れを告げた。


亜弥:「兄ちゃん、あたし行ってくる。――――外の世界に!」





南町黒衣録 完


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