文・絵:すがのたすく

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■ミドル08 夕暮れの密談  ――――シーンプレイヤー:鳥居耀蔵

  紫の仔細を知った鳥居が最初にしたことは、天狗衆を纏める本庄との、江戸天狗と鳥居家を繋ぐ契約の行方の協議であった。
 本庄は表回りに見せるやくざな顔とは打って変わり、厳粛な面持ちで鳥居の杯に酒を注いでいる。
 杯を傾けながら、鳥居は本庄に事の大事を語った。


亜弥:(しょんぼりと)やっぱり紫さん、もう亡くなってたんだ……。
耀蔵:江戸天狗の契約の証である紫が亡くなったとあらば、本庄とまず話をつけねばならん。
GM:おお、なるほど。じゃあ引き続き、鳥居のシーンプレイヤーにいたしましょう。場所は奉行所に併設された役宅の座敷だ。
耀蔵:わしは本庄に酒を注がせながら、仔細を話している。「――して、江戸の天狗と鳥居家の同盟についてだが」
GM:「婚姻の契約が、形を成さなくなった。という問題でありますな」
耀蔵:「その通りだ。折衝をする人間が必要になる」
GM:「代理ならば立てられましょう」
耀蔵:「そうだな。だが、此度の件が済むまでの細かい詰めに関しては、やはりそなたに頼まなくてはなるまい」
GM:「それに関しましては、甲斐守様のお心を煩わせることはありませぬ」
耀蔵:「今、黒衣衆内の天狗の、わしとの心理的な距離はどうなっておる?」つまり、紫がいなくなっても江戸天狗はついてきてくれるかどうか。
GM:本庄は少し眉根を寄せる。「天狗の内にも、混乱が起きていないとは申せぬ状態です。しかし、江戸天狗が甲斐守様の不都合になるようなことにはさせませぬ」
耀蔵:「慰撫が必要ならやってくれ。その上で、必要な処置などがあれば言うがいい」
GM:「かしこまりました。甲斐守様の仰せの通りに」
軋羽:淡々と事を進めるんだね。紫様が亡くなられたっていうのに……。
亜弥:(眉根を寄せて)なんで……、なんで平気なの?
寅三郎:では、そこに俺が登場しよう。軋羽の件を報告せねばならん。「失礼いたします」
耀蔵:「石蕗か」
寅三郎:「すみませぬ、お人払いを」と本庄殿を横目で見る。
GM:人払い、と聞くと本庄は怪訝な顔をする。
寅三郎:「事があまりにも自分の判断を超えまして。話がややこしくなるのを避けとうございます」
耀蔵:「本庄にも言えぬ事か」では、本庄に。「すまぬが、少し控えてもらえぬか」
GM:「……かしこまりました。では、拙者はこれにて」
耀蔵:「今のうちに、先の手配を頼むぞ」
GM:「は」

 静かに襖が閉じた。
 障子越しに夕日が、橙の光を畳に注いでいる。どこからか風鈴の音が鳴る。


耀蔵:杯を傾けながら、「何が起きたか、石蕗」
寅三郎:昼から酒を召されるのは珍しいな、と思いつつ座ろう。「は。どこから話したものやらと思いますが……。まず先日、花井様から軋羽の身辺調査を仰せつかりまして、調査を行っておりました」
耀蔵:「花井がか」
寅三郎:「本来は花井様にご報告申し上げるべきとは重々承知しておりますが、話がどうも面倒なことになりまして」
耀蔵:「ふむ」
寅三郎:「まず、軋羽の入隊に携わった黒衣衆ですが、既に死んでおります。残された証言を突き合わせた結果、大もとの推薦者は――」
耀蔵:「紫、か?」
寅三郎:「は。口の端に上るのも恐れ多い事ながら。……天狗衆の元締めである本庄殿にそれを申し上げれば角が立ち、花井様にご報告すればこれはこれで困ったことになる。ま、自分なりに、利かぬ気を利かせたつもりでございます」
耀蔵:「よい利かせようだ」
寅三郎:「いえ……」
耀蔵:「だが、状況が少し変わってな」
寅三郎:「は。何がありましたか?」

 鳥居は静かに酒を食んだ。
 珍しく言葉を閉ざしながら、水面立つ杯の面を見つめる主君に、寅三郎は怪訝な表情を浮かべる。


耀蔵:「……まずは、赤墨の調査に向かった、軋羽たちの報告待ちといったところか」
寅三郎:話をそらしたな、というのは感じるが追求はせずにおこう。「軋羽の報告、ですか。信用になりますかな。まあ、同行している亜弥の口裏まで合わせられるほど、あれが亜弥を取り込んでおるようにも見えませんが」
耀蔵:「軋羽の報告は信用に足る」
寅三郎:「そういうものですか」
耀蔵:「間者としては無能ぞ」
軋羽:くっ(笑)。
耀蔵:「言っていることは虚偽であっても、腹までは偽れぬ女だ。細作(さいさく)であればあれでもよかろうが、何を考えて入り込ませたものやら」
亜弥:(こそっと)細作ってなんですか?
寅三郎:(こそっと)破壊工作員のことだな。
亜弥:あ、なるほど!
耀蔵:「それより問題は、何者が幕閣に話を知らせ、何者が糸を引いておるのか、だ」
寅三郎:「軋羽を土蔵に連れ込みますか?」
軋羽:ひいい(笑)。
耀蔵:「何も知るまい。例え出てきたとしても、軋羽に何かを命じた者ぐらいだ。せいぜい老中か、側仕えか……」

 紡がれる言葉がどこかうわの空であることに寅三郎は気づいた。
 置かれていた銚子を手に取ると、主の杯に注ぐ。


耀蔵:「石蕗……風は斬れるか?」
寅三郎:「まぁ、やってみたことはありませんが、殿が斬れというのなら斬ります」
耀蔵:「風の向きを確かめよ。仔細の判断は任せた」
寅三郎:「は」

 鳥居は再び杯の水面を見つめた。
 いつもは足早に落ちる陽が、今日は妙に鈍い。
 遠くで再び、風鈴が鳴った。





■ミドル09 紫の死  ――――シーンプレイヤー:亜弥

 涼太郎の姿は雑踏にまぎれて消えた。
 報告のためにふたりが奉行所へ戻った時には、すでに日暮れが近くなっていた。


GM:では、全員集合のシーンにしましょう。亜弥がシーンプレイヤーで軋羽も自動登場。ふたりが鳥居と寅三郎が待つ役宅へ帰ってくるところからです。
亜弥:(しゅんとしながら)はい……、登場します。紫さんが死んじゃってるかもってこと、あいつにどう言えばいいんだろうって思ってる。
軋羽:そうだね、あたいもまだ、紫様が死んだなんて信じたくないよ。
亜弥:兄ちゃんに関係のある妖異の手がかりをやっと掴んだのに、でも……でも、喜んだり怒ったりできなくて、うううぅぅ〜っ!(机をペチペチ叩く)
寅三郎:まあ、それは紫様がやばいってことと同義だし複雑だよな。
亜弥:「軋羽さん……前に、鳥居様が言ってたんです。兄ちゃんを斬ったのは妖異だったって……」
軋羽:「ああ、それがあんたの兄貴を救う道だったと、あの方はそう言ったんだろう?」
亜弥:「でも、妖異になってたからって、心が納得できるわけではないと思うんです。鳥居様に紫さんのこと、どう話せばいいんだろう。それとも……あいつは今度は紫さんを斬ってしまうのかな」
軋羽:うーん、それには簡単に返事ができないなあ。「……とにかく帰ろう、紫様の姿を確かめるまではまだ、生死に確証は持てないさ」
亜弥:「うん……」
軋羽:あたいは亜弥を抱えて、《天狗変》で役宅まで一直線に飛んでいくよ。
GM:では、宵闇の空を走る君たちの眼下、奉行所の正門前をうろつくひとりの武士が見える。
亜弥:「軋羽さん、あれ、誰でしょう」
軋羽:「うん? こんな時刻に怪しいねえ。降りてみようか」そのまま役宅の中に入るつもりだったんですが、宵闇に紛れて降りたつよ。
GM:門前にはひとりの気弱そうな武士がいて、君たちの姿を見ると声をかけてくるよ。「もし……」
軋羽:「南町奉行所の者だ。どのようなご用件です?」
GM:「江戸城より使いにまかり越しました。書状を鳥居甲斐守様にお渡しせねばならぬのですが、皆々忙しいご様子で、なかなか取り次いでもらえず困っており申す」手には一通の書状を持ってる。
亜弥:「江戸城から……?」本物かなあ?
軋羽:見た感じ、どうですか。怪しいところとかありませんかね。
GM:「うむ、申し遅れました、拙者は無害田エキストラ之介と申す」
寅三郎軋羽:エキストラ之介!(一同爆笑)
亜弥:くっ……不意打ちずるい……!(お腹を押さえてぷるぷるしている)
軋羽:(笑いながら)これは持っていってもいいかしらね?
GM:彼はなよなよししながら、奉行所内から漂う死臭にせきこむ。「できればそうしていただけると……」
亜弥:まだ中は掃除しきってないだろうしなあ。
軋羽:「中は立て込んでおりますので、書状はこちらでお預かりしましょう」
GM:「おお、かたじけのうござる。では、確かにお渡しいたしましたので。拙者、これで失礼いたす」彼は軋羽に書状を渡すと、逃げるように去っていく。
亜弥:「書状……。なにかの命でしょうか?」
軋羽:「ああ、なんだろうね……」鳥居様宛てか……。うーん、亜弥から隠れて、あたいだけ見てもみ消すのもありなんだよなあ。
寅三郎:お、間者ロールをするか?(笑)
亜弥:じゃあ、あたしは裏木戸を開けて「軋羽さん、早く早くー」と遠くからやってます。
軋羽:うーーーーん……(悩)。
耀蔵:見るか?
亜弥:見ちゃう?(笑)
軋羽:……いや! いまはそれよりも赤墨の妙の報告だ。書状を手に、鳥居様のもとへ向かいましょう。……やっぱり間者失格だな、あたいは(笑)。

 役宅の座敷には、既に南町奉行とその右腕が座していた。
 酒の芳香がうっすらと辺りに漂っている。


軋羽:「鳥居様、ただいま戻りました」
亜弥:「赤墨のこと、調べがつきました」
寅三郎:そちらを無言で見る。
耀蔵:「戻ったか」杯を傾けながら。
亜弥:こいつ、お酒なんて飲むんだ……。って、ちょっと意外な気持ちになります。
耀蔵:「で、仔細どうであった?」
軋羽:「その前に。江戸城からの使者が参りまして、このような書簡を」と、鳥居様に先ほどの書状を手渡しましょう。
耀蔵:ではそれを受け取って開くとしよう。
GM:大目付柳生の編成した御目付隊が、監査のために奉行所へ向かう、という旨の通達だ。書状によれば、今晩に来るとある。
耀蔵:江戸城で水野が指示していたあれか。
亜弥:えっ、夜に来るの!?
寅三郎:まあ、柳生ならやりかねんだろう。あいつら異常なんで(笑)。
軋羽:なんて恐ろしい奴らよ(笑)。「まさか、柳生が動いたとはねえ……」
寅三郎:「この手の連絡を使者ひとりに任されるとは、我々も舐められたものですな」普通に考えたら、高禄の武士が来て言上を述べるはずなんだが、そうしないのは単純に、鳥居様が冷や飯を食わされかかっているということだろう。
耀蔵:「それだけではあるまいな」と、書状を寅三郎に渡す。(書状を巻くそぶりをしながら)気軽に読め、という感じに。「軋羽、亜弥。食事はとったか?」
亜弥:じゃあ、ぐうぅ〜っ、ってお腹で返事をする(一同笑)。
耀蔵:「そうか」脇においてあった御櫃(おひつ)を寄せ、蓋を開けて、ご飯をよそう。
軋羽:ちょ、鳥居様手ずから!「斯様なこと、あたいがやりますから!」
亜弥:さっきから鳥居様の様子が変だなって思ってる。「……ありがとう、ございます」
軋羽:「鳥居様。それよりも、急を要する報告がございます」
耀蔵:「わかっておる」と言いながら、茶碗を渡して「酒はやるか?」
軋羽:「いえ、そのようなことを言っている場合ではございません!」
耀蔵:「そうか。では、仔細を話せ」
亜弥:「うん……」紫さんのこと、どうやって言おう、辛くないかな……って思いながら、渡されたごはんを食べはじめます。ぱくぱくもぐぐぐぐ(一同笑)。
寅三郎:食うのかよ(笑)。
軋羽:食いしん坊め!(笑) では、涼太郎やドブネズミから聞いた、赤墨の妙の情報を報告しましょう。

 赤墨を繰る妖異は、かつて小伝馬町牢屋敷で死んだはずの外法の陰陽師、妙であったこと。
 赤墨に憑かれた人間がいかに操られてしまうか、そして、妖異の力を振るうためには、憑いた者が死しておらねばならぬこと。
 報告を続ける軋羽の声に、かすかに緊張の色が混じる。


耀蔵:ことりと杯を置いて、「そうか。……それで、腑に落ちた」
亜弥:ごくん、ってごはんを飲み込んで、「鳥居様……、あの、紫さんは……」
耀蔵:「先ほど紫がな、死んでおった」
軋羽:「……っ!」
寅三郎:(眉根を寄せて)「それは……」
亜弥:あたしも箸が止まります。やっぱり死んでしまっていたんだってことと、鳥居様がサラッと言ったことにびっくりして固まっちゃう。「え……」
耀蔵:「紫は近頃だいぶ疲弊しておった。おそらく妙は、あれをたびたび操って様々な工作をし、七十八人殺しの夜に殺して力を振るったのであろう」
亜弥:なんで、なんで……。(ぷるぷるしはじめる)
耀蔵:「離れの部屋に今は休ませているが、そういうことだ」
亜弥:〜〜〜〜っ、お茶碗をがちゃんと置いて立ち上がってしまう!「紫さんは奥さんだったんでしょ!? なんで死んだって……死んだなんて平然と言えるの!? あんたにとっては紫さんも兄ちゃんと同じように簡単に――――!」
寅三郎:「亜弥」

 二の句を次ごうとした亜弥はハッと息を飲んだ。
 鼻腔を強い酒の香りがくすぐる。
 顔色も、瞬きひとつ揺らがぬ奉行の周囲には、日も落ちぬうちから数本の銚子が並んでいた。


亜弥:「…………っ」殴りかかりそうになっていた手をとめて、正座をし直します。「すみま、せん……」
耀蔵:(意に介さぬ様子で)「あれがいつまでもおとなしくしているとも思えぬ」開いた書状を見て、「伺っているという機というのがこれのことだとすれば、時間もそうないであろう。……石蕗」
寅三郎:「は」刀を手に立ち上がります。
亜弥:うう、ごめんなさい、でも、やっぱりもう一回、言ってしまいます。着物の裾をぎゅっと握り締めて、「紫さんを、斬るんですか……?」
耀蔵:「あれはすでに、紫ではない」
軋羽:辛いなあ……。「あたいは赤墨の妙の本体を追います。それに……涼太郎という目撃者の子供も保護しに行かねばなりませぬ」
耀蔵:「妙とその少年の追跡は、本庄に命じて捜索の得意な者たちを集めよう。そなたは石蕗と共にあれの居る離れに――――」

「軋羽姉ちゃ〜〜ん、亜弥〜〜ぁ……」
 不意に聞こえてきた声に、鳥居の指示がさえぎられた。
 奉行所の外から、引きつった嗚咽のような、少年の声。


亜弥:「涼太郎っ!? なにかあったんだ!」
耀蔵:「軋羽、上空に出ろ」
軋羽:まさか、襲われたのか!?「はっ!」
亜弥:あたしも薙刀を引っつかんで、表に駆け出します!
GM:鳥居の命で上空に飛び上がった軋羽の目に、ゆらゆらと南町奉行所の方角に歩いてくる少年――涼太郎の姿が。
軋羽:「馬鹿! 待ってなよ、今行くから!」涼太郎のもとに弾丸のように飛んで行きます!
GM:「亜弥あぁぁぁ、軋羽姉ちゃぁぁ〜ん」
軋羽:涼太郎の前に降り立って、「涼太郎! 大丈夫かい!」
亜弥:角を曲がって駆けつけます! 「何があったの!」

 ふたりの言葉に気づかないかのように、涼太郎はゆらゆらとたたずんでいる。
 その目は呆けたように、夕闇迫る空を見たまま、
 「亜弥ああぁぁあぁ、軋羽姉ちゃああぁぁぁん」


軋羽:「涼太郎、しっかりおし!」と、肩を掴んで揺さぶるよ!
GM:涼太郎の口の端がいびつに吊りあがる。「うヒァ……あひははぁ……ァ……」
亜弥:(こわばった顔で)「涼、太郎……!?」
軋羽:「しまった!」

 ぶちん――――。
 涼太郎の身体の奥から鈍い音が響いた。
 笑みを形作った口の端から一筋の血が流れる。
 背後からいく筋もの赤墨が立ちのぼると、鎌首をもたげ、ふたりへと襲いかかった!





■ミドル10 蜘蛛の赤糸  ――――シーンプレイヤー:軋羽

 光の消えゆく目といびつな笑いを浮かべた少年が、赤墨を率いて襲い掛かる。
 迎撃の構えを取った軋羽は、硬く奥歯をかみ締めた。
 腕が、足が、鉛のように重くこわばり、震えていた。


GM:シーンプレイヤーは軋羽。涼太郎の身体から舞い散る血飛沫が、赤墨の蛇の形を取って実体化する(駒を並べていく)。
耀蔵:戦闘か。
亜弥:いやあああっ!  やだ、涼太郎まで死ぬなんていや!
軋羽:(焦りながら)マジかよ! あたいがこの子を斬れるわけないじゃないか!
寅三郎:おい、マジで死んだのか。
GM:うむ、涼太郎はたった今、とり憑いている妙によって殺された。しかし、殺されたばかりの今なら、まだ《起死回生》(注1)を使えば息を吹き返すことができるだろう。
亜弥:じゃあ、まだ助けられる!?
GM:ただし、1ラウンド以内に戦闘を終了させることが条件です。これを過ぎるともう、間に合わない。
耀蔵:1ラウンドか。最速で倒すしか道はないな。
GM:周囲の赤墨は涼太郎を母体としています。涼太郎を倒せば戦闘終了となります。
亜弥:なら、涼太郎を一点狙いにするしかない!
軋羽:でも……、それってやっぱり涼太郎を斬るってことじゃあないか!
寅三郎:役宅に居る俺と鳥居様もそっちに移動できますか?
GM:大丈夫ですよ、セットアッププロセスに登場という扱いになります。では、戦闘開始だ!


■第一ラウンド



GM:では、セットアッププロセスにいきましょう。「亜弥あぁぁァぁ……軋羽姉ちゃァぁぁん……」
亜弥:その口調はやめてー! ずきずきする(笑)。
軋羽:うおぉ、これは、けっこうクる……(頭を抱える)。
GM:「軋羽姉ちゃァぁあ、おらが守るかラあぁァァあ」
軋羽:うぐぐ……。
耀蔵:わしはセットアップに登場だな。
寅三郎:俺も出ます。
GM:鳥居と寅三郎には、弥八の時と同じように、赤墨を操る少年がふたりに襲いかかろうとしているのが見える。
耀蔵:「憑かれたか。――軋羽、やれ」
軋羽:う、うーん……。セットアップは何も、しません……。
一同:ええっ!?
亜弥:軋羽さんっ!?
軋羽:ご、ごめん、PLはこの状況を理解してるんだけど……、でも、予想以上に涼太郎に感情移入しちゃってて……。
寅三郎:「やれんというのなら、俺がやりますよ」
軋羽:「……いや、あたいが……やるよ。寅三郎、この子は……あたいが……」
寅三郎:(半眼で)「まあ、好きにすりゃあいいんじゃないですかね……。生憎だが、俺はああいうのは好みじゃない」俺は《直衛守護》(注2)を亜弥に使おう。
GM:では、メインプロセスに行きましょう。最初は軋羽から。
軋羽:まずイニシアチブで《天狗変》。……まで、した。うーん…………。
GM:(素に戻って)大丈夫ですか、ヨビさん(笑)。
軋羽:うるせー!(笑) え、えっと、現在の【行動値】は27。
GM:「早くうゥぅう、軋羽姉ちゃんからだよおォぉぉお」
亜弥:やめて、涼太郎が言うのやめてー!
軋羽:うっ……うぅ……、あの、ヘタレてもいいですか……(笑)。
寅三郎:大丈夫ですよ(笑)。待機するだけとかなら、後で攻撃するチャンスはあるし。
軋羽:うー……。じ、じゃあ待機、します……。やっぱり攻撃できない……。
亜弥:おおぉ、攻撃しないの!?
耀蔵:「軋羽、何をしておる」
軋羽:「あたいには……」
GM:「軋羽姉ちゃあぁァあん……おら、がんばるよおォぉお……」
軋羽:ぎりっと奥歯を噛みしめます。「あたいには、この子は斬れませぬ……!」
耀蔵:「そやつは屍だ。そなたが風を振るわぬということは、その子供を死してなお苦しめるということだ」
軋羽:(絞り出すような声で)「違う……! この子はあたしが守れなかったから、止められなかったからこのような事に……っ」
寅三郎:支離滅裂だな。既知の者を前にして判断力を失ったか。
亜弥:「軋羽さん……」あたしの行動順が次、なんだけど、軋羽さんの姿を見て、立ち止まってしまう。
寅三郎:「亜弥、距離を詰めろ。あのガキは今は屍だ」
亜弥:目の前で口から血が出たの。死んでしまってるというのはわかるんです。でも、あれは涼太郎で……(迷いはじめる)。
寅三郎:「亜弥。心臓が動いているかどうかなぞ、つまらんことだぞ。そんなことになんの意味がある」
亜弥:「え……?」顔をあげて、石蕗さんを見ます。
寅三郎:「お前は俺の心の臓が動いているところを見たことがあるのか? 見てはおるまい。そんなことは、たいした問題ではない。魂が死ぬのが問題なのだ」
亜弥:「魂が死ぬ、こと……?」
寅三郎:(声に険がこもる)「お前の魂にとって重要なことはなんだ? お前は何を救いたいのだ? 今気づけねば、手の内から取りこぼして二度と戻らんぞ」

 亜弥は震える手で薙刀を握り締め、目の前の涼太郎を見た。
 妖気を漂わせながら笑みを浮かべる少年は、まごうことのない妖異で、そして、やはり少年であった。
 確かに薙刀は涼太郎を穿つだろう。だが、今ならばまだ、消えゆく命を繋ぎとめられるやもしれない。
 そしてこの手を振るわねば、確実に涼太郎は本当の屍と成り果てるのだ。


亜弥:「――――そう、兄ちゃんのように」キッ、と涼太郎を見据えて駆け出します。「取りこぼしたりなんか、しない。涼太郎を死なせたりなんかしない!」
軋羽:「亜弥……」
亜弥:マイナーアクションで移動。《眩惑の巧み》から《剛落撃》(注3)で涼太郎に攻撃!
耀蔵:行ったか。亜弥に《軍神の気》だ。周囲の赤墨ごと打ち倒せ。
亜弥:はいっ! 達成値は22!
GM:ぐ、あいかわらず命中値が高いな、おらの【回避値】は6だよぅぅゥう(泣)。(ダイスを振って)全員命中、涼太郎を赤墨Aが庇う。
寅三郎:亜弥の攻撃に《挟み撃ち》(注4)。(ぽつりと)「……そうだ、自身が信じた誠のために生き、選べ。その結果に比べれば、心の臓が動いているかなど下らんことよ」
亜弥:涼太郎に絡み付いている赤墨を、引き剥がすように薙ぎ払います! 《嵐の心》(注5)も使って〈斬〉31点!
GM:ブチブチッと音を立てて赤墨が薙がれていく。8点弾いて23点が通し、赤墨Aは庇ったのでダメージ倍で46点、涼太郎は無傷だ。
耀蔵:赤墨Aは落ちんか?
GM:落ちません。赤墨の【HP】は70点くらいあるのだ。「亜弥あァぁあ、痛いようゥぅうう……」
亜弥:「涼太郎のマネなんかしないで、全ッ然似てなんかないんだから! その子はあんたの人形じゃない!」
GM:赤墨Bが目の前で叫んでいる亜弥に攻撃だ。マイナーアクションで《攻撃増幅》(注6)、メジャーアクションで《妖術:叩》(注7)。達成値は18だ。【抗魔値】で回避してね。
亜弥:ひー、【抗魔】は低いんですよー。クリティカルが出ないと無理!
寅三郎:かばうから案ずるな。《援護防御》を亜弥に。
GM:では、亜弥を庇った寅三郎に赤墨が絡みつく。ダメージは〈殴〉の31点!
寅三郎:軽減して26点食らうな。まだ生きている。刀で赤墨を散らそう。
GM:「あヒははあァ、お兄ちゃん、強いねえぇェ……」続いて涼太郎が寅三郎に攻撃。同じく《攻撃増幅》からの《妖術:叩》。回避は21以上だ!
寅三郎:ダイス目で14以上か。……だめだ、食らった。
GM:これで落とせるか、〈殴〉37点!
寅三郎:【HP】のマイナスが24か。俺は覚悟状態だ。
亜弥:あれ、秘剣は打たないんですか?
寅三郎:まだ、奴の周囲にカバー要員が残っているからな。秘剣の代償は奥義なんで割が合わん。
GM:赤墨Cは……うーん、軋羽姉ちゃんのところに行きたかったんだけど、亜弥たちがこっちに来たからエンゲージを抜けるのに行動消費しちゃうなあ。
寅三郎:離脱後に他のエンゲージには進入できないしな。
GM:では、目の前で覚悟状態になっている寅三郎に攻撃しよう。達成値は18!
寅三郎:当たると死ぬな……。よける努力をするか。《弾き落とし》で赤墨の達成値を16まで下げる。
耀蔵:《出端挫き》(注8)。刀を抜き放ち、剣気で赤墨を抑える。さらに−2だ。
軋羽:「……っ、涼太郎、やめな!」声を振り絞って風を繰り出そう。《親分肌》で寅三郎の達成値に+2だよ。
寅三郎:ダイス目が5以上で回避できるな。これならいける。(ダイスを振って)……よし、さばいた!
亜弥:やった!(ガッツポーズ)
GM:おおお、避けられたか! すごいなあ、今のは殺せると思ったのに。
耀蔵:ここで《起死回生》を切るわけにはいかん。
GM:涼太郎に取り憑いているのであろう妙が、驚愕の表情を浮かべる。「この、ちょこまかと……!」
寅三郎:「必死なんだよ。なにせ、俺は新撰組で一番弱いんでね」
GM:「新撰組……? ああ、例の負け犬どものことですかえ」
耀蔵:ん? こやつは新撰組を知っているのか?
GM:こちらは全員行動終了だ。次は寅三郎。
寅三郎:俺の番か。《平晴眼》(注9)に刀を構え、涼太郎へ《片手平突き》(注10)だ。達成値は19!
GM:(ダイスを振って)それは避けられなかった。ダメージをどうぞ!
寅三郎:〈斬〉25点!
GM:ぐ、8点弾いて17点食らった。まだ涼太郎は倒れない。
寅三郎:そこで、《今の技は秘剣にあらず》を宣言。狼狽も食らってもらおう。
GM:ぐおお、了解。涼太郎に《外道属性》(注11)はないので食らってしまう。「負け犬が邪魔をするでないよオォお!」
寅三郎:後があまりないな、とどめをさせるか、《粉骨砕身》(注12)
亜弥:石蕗さんが容赦ない!
寅三郎:軋羽が使えん今、俺もできるだけ動くしかない。達成値は19。狼狽の効果で、リアクションに-10だ。
GM:避けれるかっっ!

 平突きが涼太郎の左肩を貫いた。
 衝撃にもつれ、たたらを踏んだ少年の腕を石蕗が掴む。
 返す刀は電光石火、赤墨の絡みついた華奢な胴を横薙ぎに払った!


寅三郎:「つまらん殺しだ……」――〈斬〉43点!
軋羽:頼む、これで倒れてくれ……。
GM:35点が抜けて……小さな身体から血の帯をとうとうと流しながら、涼太郎は立っている。
軋羽:うああ、硬い!
寅三郎:む、殺りきれんか。
GM:残りHPは20点くらいだ。「あハァ、そんなにもったいぶらずに、秘剣を出してごらんなさいよ」
寅三郎:「貴様にはもったいない剣だ」
GM:少年の顔が不愉快に染まる。「後籐田ごときに放ったくせに、随分と舐められたものですねえ」
寅三郎:「俺の秘剣の使いどころぐらい、俺が決める」
耀蔵:次はわしの番か。「亜弥、やれるか?」
亜弥:それには、後ろにいる軋羽さんを振り返って見ます。
軋羽:あたいは風を渦巻かせながらも、踏み込めずにいるよ……。情けないね……。
亜弥:いつもの鎌鼬たちも呼び出せてない……。なら、あたしがやらなきゃ、って、鳥居様にこくりとうなずきます。
耀蔵:「よし」マイナーアクションで亜弥にエンゲージ。メジャーアクションで《緊急指令》(注13)。「そなたにまかせる」
GM:涼太郎はにたあと笑いながら、「亜弥あぁァ、さっきは痛かったんだよォ、もう止めてくれよォ」
亜弥:「惑わそうとしたってだめ、あんたは涼太郎じゃない! これ以上涼太郎を……あたしの友達を馬鹿にしないで!」《眩惑の巧み》から《剛落撃》。ダイス目は……うっ、4。
耀蔵:それには《名将の指揮》(注14)だ。
亜弥:ありがとうございます! (ダイスを振りなおして)……あ、クリティカル!
寅三郎:よし!
GM:うー、涼太郎はクリティカルはしなかった(涙)。ダメージをどうぞ。
亜弥:《嵐の心》を使用して、〈斬〉の35点。
寅三郎:《挟み撃ち》も使います。+7点だ。
亜弥:じゃあ、合計で42点! 「涼太郎を! 返してっっ!!」

 亜弥の強い眼差しが、涼太郎の、その奥に潜む妖異を射抜く。
 にたにたと笑みを浮かべる少年の顔に怯えが掠めた。
 後ずさろうとしたその身体を、寅三郎の腕が阻む。
 夜闇に浮かぶ三日月に照らされて、白銀の軌跡が赤墨を薙ぎ払った!


GM:うお、お、これで涼太郎が倒れる! 戦闘終了だ。
亜弥:やった……!
軋羽:ま、間に合った……(へなへな)。
GM:「あヒァ、ぁはははハはアァ……」地に倒れた涼太郎はなおも狂笑を上げる。「すごいなああァぁ、あんた、こんなに強かったんだねえ」
亜弥:「その気持ちが悪い笑いをやめて!」と、薙刀を突きつけます。
耀蔵:「妙、と言ったか。聞きたい事がある。……痛いか?」
GM:「少しは、ね」
耀蔵:「その子供は痛いのか?」
GM:「さアぁ? そんなことは知りませんよ。わっちぁ使ってるだけですから」
耀蔵:「そうか。(静かに笑いはじめる)そうか、そうか……」
亜弥:ひ〜(笑)。
GM:やめてよー、怖いじゃん!(笑) 「この童子は十分に役目を果たしてくれました。後は紫に働いてもらいますよ」
耀蔵:「させると、思うか?」
GM:少年の目が軋羽を嘲るように見やる。「さて、自慢の精鋭もなまくらのご様子、果たして止められますかねえ?」

 少年の身体から引きちぎれた赤墨が、不意にべしゃりと力なく広がった。
 糸が切れたようにふぅ、と涼太郎の身体が動かなくなる。


軋羽:「涼太郎っ!」我に返って駆け寄るけど、手を触れられない……。
亜弥:じゃああたしが、涼太郎の身体を抱き上げて揺さぶります。「しっかりして! 起きてよ、軋羽さんに風鈴買うんでしょ!」
寅三郎:「鳥居様。今なら助けられましょう」
耀蔵:「石蕗、任せる」《起死回生》を頼む。
寅三郎:「こう見えても……」と、ここで新たな設定がポップアップする(笑)。「昔、諏訪の蛇神を祀る神主の連中とつるんでいたことがありましてね」
GM:え、そんな設定があったんだ!?
寅三郎:幕末期は、諏訪の蛇神を祀る連中が討幕運動に絡んでいて、それに新撰組も一枚噛んでいるのだ。
一同:へええええ!
亜弥:蛇神!
寅三郎:いずれ、サプリメントが出たら蛇神の設定が語られる日も来よう。実はもう原稿も書いている(笑)。
GM:ほおお、それは楽しみ!
寅三郎:祝詞を唱えて蛇を象った赤墨の力を逆流させる、といった感じで儀式をおこなって《起死回生》を使おう。
GM:では、広がった赤黒い墨が鮮やかな赤へと変わっていく。それと共に、息をしていなかった涼太郎がびくん、と動く。
軋羽:「涼太郎!」思わず亜弥のそばに跪いて顔を覗き込むよ!
亜弥:(ホッと息をついて)「よかった……!」
寅三郎:「間一髪でしたな」

 かすかな苦悶のうめき声を上げながら、涼太郎の腕が軋羽の裾を掴んだ。
 「だって、……姉ちゃ……おらが守るん、だ……」
 繰り返されるうわ言に、軋羽の顔が苦悶に歪む。


軋羽:「……亜弥、あんたがついていてあげな。あたいには、この子を見る資格はない」
亜弥:「軋羽さん、そんなことは……」
軋羽:立ち上がって、亜弥にも背を向けちまいます。「それに、あんたの顔も見れないよ……」
亜弥:涼太郎の手を握りながら「でも、軋羽さん。涼太郎を攻撃しないでいてくれて、ありがとう」
軋羽:「…………」あたいも亜弥に任せたくはなかったけど、何というか……本当に素で止まってしまいました(笑)。すいません。
耀蔵:それよりも妙だ。この子供はおそらく囮……とすれば、今頃紫を使って事に出ようと――――。
GM:うむ、鳥居がそう考えた時、君たちのもとに本庄が駆けてくる。「甲斐守様、紫殿の姿が消えました」
耀蔵:「やはりか。至急、追撃隊を編成せよ」
GM:「は。しかし、さらにまずいことに、柳生の目付隊がこちらへ向かっているとの報告が」
寅三郎:げっ、やはりそれが狙いか!
亜弥:え、どういう事ですか?
寅三郎:妙の狙いはこの件の責を決めるために派遣された目付隊だ。彼らの前で紫様が大立ち回りを演じたら、もはや言い逃れが聞かんぞ。
亜弥:そんな……妙を止めなきゃ!
耀蔵:なるほどな……。「……軋羽、亜弥の兄が死んだ夜に、妙の姿が目撃されているといったな」
軋羽:「は、はい、確かに」
耀蔵:「これほどの大きな術だ。操っている者もそう遠くにはおるまい。本庄、天狗勢を編成し妙の確保に回れ。一番疑わしいのはこの近隣だ。場合によっては一帯を焼き払うことも考えよ」
GM:おお、動きが早い!「承知いたしました。柳生の目付隊は止められませぬが――」
耀蔵:「鵜殿に目付隊の足止めをさせよ。その隙にわしらで紫を止める」
GM:ちょ、ちょちょちょっと待って!
耀蔵:む?
GM:さすがにそこまで鵜殿も万能じゃないよ。わたくしただのエキストラですワ! 天下の柳生をなめちゃあいけない。
耀蔵:そうか……(しばらく考えて)ならば、《一件落着》(注15)だ。社会的な望みをかなえる、この効果でなんとかならぬか。
GM:うーん、これも社会的な望みに入る、か。よし、了解です。それを使ってくれるならよしとしましょう。クライマックスに登場する、柳生の目付隊を排除だ。
寅三郎亜弥:よっし!
耀蔵:では改めて、鵜殿に仔細の手立てを命じ、目付隊の誘導をさせていたということにしよう。
亜弥:鵜殿さん、裏でがんばってたのね(笑)。
軋羽:(鵜殿になって)「ああン、もー嫌ンなっちゃうわよね、時間外労働って!」(笑)。
耀蔵:「鵜殿に、近くに別の場所を用意するように命じておいた。行政機能をそちらに移している、と言えば目付隊もひとまずは従うだろう」
GM:鵜殿……。本庄はちょっと「アレか」という顔をする。
耀蔵:「気持ちはわかる。だが、表の処理は奴にすべて押し付けろ」(一同笑)
亜弥:気持ちはわかるって言われちゃった(笑)。
耀蔵:「妙を逃がすな。裏がわかっておらん。なんとしても手がかりを掴まねばならん。次は、お前の妻かも知れんぞ」
GM:本庄は眉根を寄せるが何も答えずに一礼する。そして亜弥を見下ろして、「しくじるんじゃねえぞ」
亜弥:「紫さんは任せて下さい。あたしも頑張ります」
GM:「厄介な小娘だとばかり思っていたが、なかなかいい覚悟じゃねえか」根性ある子は嫌いじゃないよ、本庄。
亜弥:でも、あたしは本庄さんの剃り込みが怖いから、ニヤッと笑われても心が和まない(笑)。
GM:あぁん(笑)。

 諸肌を脱いだ本庄の背から翼が広がると、陰に控えていた天狗勢と共に空へと飛び立っていく。

寅三郎:俺たちは紫様を探さねばならんが……軋羽の様子は?
軋羽:あたいは、涼太郎と亜弥の様子を、少し離れたところから見ています。妙を追わなきゃいけないのは解ってはいるんだ。だけど……。
寅三郎:「軋羽。このガキは役宅の家人に任せろ」
軋羽:「ああ……」
寅三郎:「顔を貸せ。貴様と話がある」と言って歩き出そう。
亜弥:「え?」
軋羽:「…………」俯いたまま、寅三郎のに従います。
耀蔵:妙との戦いの前に、軋羽の真意を確かめるか。では、《天佑神助》(注16)を石蕗の《起死回生》に使っておこう。
GM:今、回復させておくの?
耀蔵:万一軋羽が手向かってきた場合、復活手段は残しておかねばならん。「よいか、石蕗。そなたにも来てもらわねばならん」
寅三郎:「ええ、すぐに戻ります」ということで、シーンを変えて軋羽とサシで話をしたい。
GM:おお、了解です。では、いったんシーンを切りましょうか。
耀蔵:わしらは紫を追おう。「ゆくぞ、亜弥」
亜弥::「軋羽さん……」軋羽さんの背中に声をかけます。「先に行ってますから……、待ってますから!」
軋羽:亜弥の一言で足が止まるけど、そのまま寅三郎の歩く後をついていきます。




■ミドル11 軋羽という女  ――――シーンプレイヤー:石蕗寅三郎

 奉行所に程近い竹林。瞬きはじめた星の光を無数の竹が遮り、その奥はひっそりとした闇に沈んでいた。
 既に紫の躯を繰り、妙は動き出している。
 一刻の猶予もない今、その前に、目の前の女の正体を見極める必要があった。


GM:では、石蕗のシーン。軋羽は自動登場で、場所は奉行所近くの竹林あたりにしましょうか。
寅三郎:では、辺りに人の気配のないのを確認し、足を止める。「ここなら邪魔も入るまい」
軋羽:肩を力なく落としています。「……さっきは、悪かったよ」
寅三郎:「まあ、あんなものだ。人間、自分の縁者が目の前に現れて、そうそう刀を振り回せるものでもないだろう」
軋羽:「でも……、あんただったら斬れるんだろう?」
寅三郎:「さあ? 俺にはそんなもの、いたためしがないんでね。そう思っただけだ」
軋羽:「……そうか」
GM:風に、竹林がザワザワとざわめく。
軋羽:まるであたいの心の内のようだね、と思って自嘲気味に笑うよ。「あんたはいつも淡々としてるね。正直、その強さがあたいは羨ましいよ」
寅三郎:「強さ、ねえ……」

 闇の中、寅三郎の顔にも嘲りのような笑みが浮かぶ。

寅三郎:「俺はなあ、一度死んだのだ」
軋羽:それは怪訝な顔になるよ。「死んだ……?」
寅三郎:「信じられんかも知れんが、俺はこの世より未来の世から来た。そこでは日本は真っ二つに分かれて戦争を行っていた。幕府とそうでないものと。信じられんかも知れんが、幕府は負けていた」
軋羽:「なにを……そんな世界が……?」
寅三郎:「その世界で俺は負け犬だった。弱虫で、口ばかりがでかい若造で、なにもできなかった。そうして俺は死んで、ここに来た。正直なところ、生き延びるべき奴は他にいたような気がする」

「……まあ、そんなことはどうでもいいことだ」
 寅三郎の淀んだ眼が、軋羽を見据えた。
「軋羽よ、貴様の正体が知りたい」


亜弥:きた……!
軋羽:唾をごくりと飲み込んで、「そりゃ、どういうことだい?」
寅三郎:「俺はなあ、貴様という女が知りたい。貴様という女の、性根が知りたい」

「貴様が誰の間者なのか。鳥居様の敵なのか味方なのか。実はそんなことはどうでもいいんだ」
 濁った眼の奥に張り詰めた殺気が灯る。竹の葉が風に乱れざわめきを増す。
「俺が知りたいのは、貴様がいかなるものか、その、“しょうたい”だ」


軋羽:「あたいが間者だって、気づいてたのか……」
寅三郎:「ああ。だが少なくとも、あの赤墨の輩と手を組んでいる訳ではなさそうだ。でなければ、あのように間の抜けた態度はせんだろう」
軋羽:「あたりまえだ! あのような事、許されてたまるか! あのような……っ!」
寅三郎:「…………」
軋羽:「正体だって!? 見ての通りさ!」

「結局、自分で覚悟もできない! その尻拭いを小さな亜弥にさせておいて、しかも、自分の正体をみすみすと敵に知られるような、そんな……そんな、情けない女だよ!」
 拳を握り締め、吐くように軋羽は叫んだ。声に涙が混じる。
 その姿を見つめる寅三郎の瞳から、光が消えていった。


寅三郎:「それが、貴様の正体か……」
軋羽:「どういうことだよ、あたいの正体なんてどうでもいいだろ! あたいを斬るのか!? 斬りなよ! 斬ればいいじゃないか!」
寅三郎:「お前では、満たされん」失望に満ちた顔で刀の柄から手を離す。
軋羽:「なにを……!?」
寅三郎:「お前はつまらない女だ。情に流され、人の世に憧れ、人の世に生きている。俺を……満たしてはくれない」
軋羽:「そういうものに憧れて、どこが悪いのさ!」
寅三郎:「違うんだよ、軋羽。俺が求めていないだけだ。お前はそれでいい。だからお前を斬らないし、仲間だと思っているんだ。俺が欲しいのはそんなものではないんだよ……」
軋羽:「寅三郎……、あたいはあんたの強さに憧れていたんだ。でも、踏み込めば踏み込むほど、あんたという人間を理解できない。あんたはいったい、どこを目指そうとしてるんだい?」
寅三郎:「…………」
軋羽:「あんたは、人を斬りたいのかい。それとも…………死に場所を求めているのか?」

 問いかけは闇に吸われて消えた。
 奉行所の方角から強大な妖気が噴出する。
 漂ってくる強烈な血の匂い、死臭。粘ついた哄笑が風に乗り流れてくる。


耀蔵:妙か。
寅三郎:「……行こうか。南町の同胞を殺した奴を生かしてはおかん。お前の力が必要だ、軋羽」
軋羽:「あたいが、鳥居様に仇をなす手の者だとしてもか?」
寅三郎:(くつくつと笑いながら)「おい、軋羽。お前の正体はわかったと言ったはずだぞ。――――お前に、仇はなせん」
軋羽:ぞわりと鳥肌が立ちます。
寅三郎:(淀んだ目で)「お前には無理だ。俺にも無理なんだ。だが、どこかにいるはずだ……」

 軋羽は唇をかみ締めた。
 あの夕暮れの中、自身は負け犬であった。弱虫で、口ばかりがでかい女で、なにもできずに小さな亜弥にその尻拭いをさせた。
 涼太郎を斬った少女の顔が見れなかった。まぶしかった。それはきっと、彼女の正体がまっすぐな誠を持っているからだ。
 忍び笑いが竹林に響く。
 寅三郎が死んだ魚のような目で笑っている。
 自身の正体を亡くした残骸であった。先の世で誠をこぼれ落とした自棄の嘲笑であった。
 その虚ろな姿は一瞬、まるで妖異と相対しているかのような錯覚を覚えた。


軋羽:全身の毛が逆立ちます。脳裏に亜弥や涼太郎や、里の子供たちの顔が浮かぶ。あたいの正体は、あたいの本当に守りたいものは……!
亜弥:軋羽さん、しっかり……。
軋羽:(頭を振って)いや、大丈夫。寅三郎の姿に一気に我に返ったんだ。「……いけないね、目先の恐怖に目が曇っちまってた。今ここで赤墨の妙に立ち向かわずに、誰が何を守るっていうのさ」
GM:おお。
軋羽:そうさ、亜弥は強いよ。でも、まだちいちゃな子供なんだ。亜弥に無茶をさせて屍にする訳にも、この男のような目をさせる訳にもいかないんだよ!
耀蔵:心は決まったか。
寅三郎:俺はいつのまにか普段の表情に戻っている。奉行所へと歩き出そう。「鳥居様がお待ちだ。……やるぞ」
軋羽:「ああ……!」

 軋羽は妖気の立ち上る奉行所を見つめた。
 本当に守るべき者の姿を心に浮かべ、一息を吐くと走り出した。




■ミドル12 赤墨の狂笑  ――――マスターシーン

GM:では、クライマックス直前のマスターシーンです。

 夜ノ五ツの鐘が鳴る。すっかり夜闇が満ち、奉行所内からは今だ絶えぬ血臭が風に乗って漂っていた。
 奉行所正門内、生気のない顔をした紫がゆらゆらとたたずんでいる。


寅三郎:やはり、目付隊の到着を待っているか。
亜弥:目付隊は来ないもの、あたしたちで妙を止めなきゃ!

 襦袢から垣間見える白肌に、赤墨が絡みつき伸びていく。
「あヒァ……、あひはあああァぁ……」
 粘ついた笑い声を上げながら、紫は恍惚と呟く。
「ええ、大丈夫でございます。今度は失敗いたしませぬ、我が愛しの殿様。弥八の時の失態は取り戻して見せましょう」
 ふいに、ふつりと声が途切れた。
「もう……おやめなさい」
 かすれた声が喉から絞り出される。


亜弥:紫さんっ!?
軋羽:あぁ!
耀蔵:魂を食ろうて動くと言っていたからな。まだそこにいるのか……。

「うるさいよ、残りかすは黙って食らわれておいで」
 眉根を寄せた女は呟き、
「えぇえぇ、そうですとも、今度こそは……あヒァ、あひはははあぁァ……」
 ふたたび狂笑を上げながら、冷たい身体を揺らしはじめた。




クライマックスフェイズ


■クライマックス 赤墨乱舞  ――――シーンプレイヤー:鳥居耀蔵

 笑い声は、妙を探す一同の元へ届いていた。
 亜弥は鳥居と共に声を伝い、赤墨の妖異に操られた紫の元へと向かう。
 奉行所の廊下を駆けながら、少女は前を走る奉行の顔を見上げた。


GM:では、クライマックスだ! 場所は南町奉行所正門内。先に亜弥と鳥居様が登場して、後から竹林に行ったふたりが追いつくことにしようか。
寅三郎:了解だ。無事にふたりで登場できそうだな(笑)。
亜弥:はい! じゃあ、紫さんのもとへ行く途中、鳥居様の後を追いかけながら、顔をうかがいます。
耀蔵:わしは普段と同じ顔のまま、歩を進めている。「血の匂いが濃い。近いな」
亜弥:「…………あの」
耀蔵:「なんだ」
亜弥:「その、いいんですか?」
耀蔵:「あれはすでに死しておる。躯を繰る妖異を放置するはまかりならぬ」
亜弥:確かめるように薙刀を握り締めて、「それはわかってます。涼太郎と戦った時に、紫さんの身体を止める覚悟も決めました。でも、それがもし兄ちゃんで、もう間に合わないっていうのだったら、きっとすっごく辛くて、刀を振るえたかわからないの」
耀蔵:「……何が言いたい」
亜弥:「あんたの事は好きになれない。でも、だからって、そんな辛い思いをして欲しくなんかないです」
軋羽:亜弥は優しいね。
亜弥:「あたしや石蕗さんや、それに、きっと軋羽さんも来ます。三人で紫さんをお止めすることもできる。鳥居様は本当にこのまま紫さんのところへ行って……それでいいの?」
耀蔵:「…………」亜弥の問いには答えず、妙のもとへと向かおう。
亜弥:……っ。背中に声をかけようとして、でもこれ以上は言葉を飲み込んで、あたしも走っていく。

「あヒァ……あひははハァぁ……」
 閉じた正門の内側、辺りにおびただしい妖異の気を振りまいて、白い影がたたずんでいた。





GM:紫――いや、妙は、君たちに気づくと、紫の微笑みを形作って振り返る。「あれ、甲斐守様、亜弥さん。思ったよりも早いお越しですね」
亜弥:「あんなに気持ちが悪い笑い声が聞こえてたら、すぐに居場所はわかるよ!」
GM:妙は白い手で口を隠しながら、にやあと笑う。「あれ、これは失敬。嬉しくなるとつい、止められませなんだ」
耀蔵:「随分と余裕のようだな。幕府の使者を饗応する支度はできたのか?」
GM:「あとはこの門を開けてお出迎えするだけでございます。甲斐守様の側室が凶行に及んだとあらば、随分と面白いことになりましょうね」
耀蔵:「そなた、策がずさんに過ぎるぞ」
GM:「なんと?」
耀蔵:「考えても見よ。わしの妻が、柳生殿の派遣した御目付を殺せるとでも思うか?」
GM:「えぇえぇ、只人では無理でしょうね」にやあぁ、と再び笑みが浮かんで。「しかしそれが、天狗という人ならざる者だと知れればいかがでしょう」
耀蔵:「それを表に出すが企みか」
GM:「勘定奉行にまでなられて権勢を振るう裏で、黒衣衆やら怪しげな私兵を編成していたなどと、さて、どのような策謀を巡らせておるのか、幕府転覆を狙う大罪人だと瓦版屋もこぞって書き立てるでしょうなあ」
亜弥:ひどい、そんな嘘をつくために、紫さんや奉行所の人たちを殺したの……?
GM:「“これ”はずいぶんと、都合の良い女でありましたよ。あハァ、あひはハハァあ!」
耀蔵:では、妙の言葉を黙って聞いてから、「……そうか。だが、予定が変わった。目付隊はここへは来ぬ」
GM:「まさか」
耀蔵:「紫は、表向きのことは疎かったの。……このように血の匂いのする奉行所内に、幕府の使者を招きいれるわけにはいくまい」
GM:妙は怪訝な顔になる。「何を……」
耀蔵:「別の場所へ招待するよう、すでに手配は済んでおる」
GM:「ま、まさか。丁重に、こちらへの道行きをお出迎えしておりますはず……」紫の瞳がどこかを探るように彷徨いながら、次第に憤怒の表情へと変わっていく。「あれ、まさか、そのような……!」
寅三郎:目付隊を他所にやったことに気づいたな。
GM:「おのれ甲斐守! 貴様何を小細工をおォを!?」
耀蔵:「もう少し、紫の心中を観察すべきであったな。紫ならば、このようなことをわしがやることぐらいわかるはずだ」
軋羽亜弥:おおおおお〜!(ぱちぱちぱち)
寅三郎:よし、俺たちも出よう。
軋羽:ああ!

 不意に風が吹き荒れた。煽られた紫の身体が門扉に叩きつけられる。
 泥濘の妖気を散らした先には、ふたりの黒衣衆の姿。


亜弥:「軋羽さん、石蕗さん!」
軋羽:風を纏いながら降り立ちましょう。「亜弥、、待たせたね」
寅三郎:「すみません、遅くなりました」
耀蔵:ちらりと軋羽を見ながら(石蕗に)「そうか、風はこちらへ吹いたか」
寅三郎:「は」
軋羽:鳥居様へと頭を下げます。「詰問も処罰もございましょう。どうかここは、ここはあたいにも共に戦わせてください」
耀蔵:では、何を言われのたかわからんという顔をして、「そなた、何を言っておる?」
軋羽:「……ありがとうございます!」
GM:では、ここで皆さんに【宿星:紫を止める】を差し上げましょう。
一同:おおーっ!
亜弥:止めてみせるよ、絶対に!

 ぎりぎりと耳障りな音が響いた。奥歯を砕きながら、妙が歯を噛みしめる。
「まさか……まさか、また失敗をするなどと。そのようなことはありえませぬ!」


耀蔵:「ほう。また、とな」
GM:「弥八に続いて、二度目の失敗など。そのようなこと、決して許されぬのです!」
耀蔵:「ふむ、弥八の件もやはりそなたの仕業だったのだな」
亜弥:兄ちゃん!?「やっぱりあんたが兄ちゃんを操ってたのね!」
GM:「そうですとも、そもそもあんたの兄貴があのようなことをしでかすのがいかんのですえ! わっちはただ、お役に立とうと頑張っただけでしたのに!」
亜弥:「あのようなこと? 兄ちゃんはあんたたちと何かがあったの!?」
寅三郎:ん、てっきり通りすがりの犠牲者と思っていたが違うのか?
GM:妙が一瞬、しまったという表情になる。「小娘に話す必要なぞないわ!」
耀蔵:「それよりもそなた、なんのためにこのようなことをしている?」
GM:荒ぶった息を落ち着けながら、妙は再び紫のような笑みを作る。「それは、もう。先にも申しましたとおり、あなたがここにいられては困るのです」
耀蔵:「ああ、今聞いたのはそういうことではない。そなた、もう死んでいるのだろう?」
GM:「ん? この女が、ですか?」
耀蔵:「おや、違ったか。人形操りの妙とやらは小伝馬町の牢にて死んだと聞いたが?」
GM:…………あ。
軋羽:あ(笑)。
亜弥:華麗に引っかかった(笑)。
GM:(机を叩いて)ち、違う、ちくしょう、誘導尋問じゃないか!「な、なんのことだか、さっぱりわかりゃしませんね!」
軋羽:ぶふっ!(軽く吹く)
耀蔵:「そなた、ずいぶんと脇が甘いのう」
寅三郎:さっきの涼太郎でも失敗したしな。
GM:うるさーい! あれは足止めだからいいの!
亜弥:なんで可愛くなってくるの(笑)。
耀蔵:「いずれにしろ、だ。なぜ、このようなことをする? 死を偽ってこのような所業に身を染めた理由はなんだ?」
GM:妙の笑みがにかぁりと、耳まで裂ける。「愛する人はおりませぬか? この身を尽くしても、我が殿様のお役に立ちたいと思う女心はわかりませぬか?」
軋羽:我が殿……? そういやさっきのマスターシーンでもそんなこと言ってたね。
亜弥:「愛って、愛する人が……って……!」(ぷるぷるしはじめる)
GM:「ん?」
亜弥:「あんたは愛する人のためって言うけど、紫さんも涼太郎も、奉行所の人も、それに兄ちゃんにも、愛する家族がいたんじゃないかとか、そういうことは考えたことはないの!?」
GM:おお、それは鳥居の論点とはまったく別のことを言われたので、一瞬ぽかんとした表情になる。
亜弥:ご、ごめんね、鳥居様が真面目な話をしてるのに、なんだか青っちょろい意見で。
寅三郎:いいぞ、もっとやれ。むしろ俺たちはその青さを求めている(笑)。
GM:「亜弥さんは、お兄様のことがとても好きなのね」と、妙は紫の声色で笑う。「でもね、そのようなこと、我が殿様の前ではなんの意味も持ちはしないのよ。わたくしたちの目的の前には、なんの意味もないの。わかる?」
亜弥:「そんなモノマネなんかしないで!」薙刀の石突を地面に叩きつけます!「紫さんの立場も気持ちも踏みにじるあんたを、あたしは絶対に許せない!」
GM:「先ほどの童子にしたように、わたくしをお斬りになりますか。あなたのようなちいさな娘にできるかしら?」

 周囲に再び妖異の気が漂いはじめた。赤墨が蛇のように紫の肌を這いつく。
 狂気に満ちた笑いを浮かべながら、瞳に淀んだ光が灯る。
「――――あなたが、英傑なのならば、できるのかしらね」


亜弥:「できる! でも、英傑だからするんじゃない。だって、紫さんはそれを望んでいると思うから。もし紫さんだったら、そう言うって思うから!」
GM:「えェえぇ、それが英傑と言うものよ」にやぁと妙は笑うのだが、その目の端から涙がぽろぽろとこぼれていく。
軋羽:ああっ……!
耀蔵:やはりまだ、魂の残滓がそこにおるか。
亜弥:紫さん……! ぎゅっともう一度薙刀を握り締めて、さっき石蕗さんに教えてもらったことを心に浮かべます。
軋羽:お前の魂にとって重要なこと、ってやつだね。
亜弥:そう、あたしが守りたいものは!

「紫さんの魂がまだ一片でもそこに居るのなら、あたしは紫さんを救いたい……ううん、救ってみせる! それが、あたしの魂にとって重要なこと!」

亜弥:「――だから、あたしはあなたに刃を向ける!」
寅三郎:(亜弥を見ながら)「…………」
耀蔵:「紫を、返してもらうぞ」
GM:「返すとはまた滑稽な。この女はもう完全な屍。先ほどの童子のように元に戻すこともできませんよ」
耀蔵:「そなたがそれを決めるのか?」
GM:「鳥居甲斐守ともあろうお方が、現実味のないことを言うのですね」
耀蔵:「そなたが言っておるのは、『この国はもう滅びる』と言うのと同じことだ」
GM:「滅びるわ」にやあ……と笑う。
耀蔵:「そのようなことを、させると思うか?」
GM:「するわ、我が殿様が。だって殿様は、すべての妖異を統べるお方ですもの」
寅三郎:おぉお!? でっかく出たな!
軋羽:すべての妖異を……統べる者!?
亜弥:あんたの殿様って何者なの……?
GM:「そうですとも、それに抗う者たちは、すべて潰してしまいましょう。ああ……そうよ、目付方の罠にはめずとも、いっそ、ここで甲斐守を殺してしまえばよいではないですか。大丈夫、弥八のときと同じ失態は繰り返しませぬ」
亜弥:「そんなこと、絶対にさせない。あんたを倒して紫さんの魂を救う。そして、兄ちゃんの真実も教えてもらう!」

「うヒァ……あひはははアァぁぁあア!」
 少女の決意をあざ笑うように、狂笑が響き渡る。
 夜闇に無数の赤墨が乱舞する。
 それは赤黒い尾を描きながら、一同に襲い掛かった!




■第一ラウンド



GM:では、戦闘開始だ! 敵は4体の赤墨と、紫の屍にとり憑いた妙。戦闘の終了条件は涼太郎の時と同じく、メインの憑代となっている紫を倒すことです。
耀蔵:紫を見据えながら刀を抜き放つ。「……待っておれ」
GM:「殿様……」かすれた声と共に、ひとつの奥義が飛んできます。
軋羽:奥義!?
亜弥:もしかして……紫さん!
GM:そう、妙に食らわれ消えつつある、紫の魂。その残滓が最後の力を振り絞って君たちに力を託す。ちょっと拡大解釈ですが、死してなお残る者ということで黄泉返り相当の奥義《千変万化》(注17)をひとつ差し上げます。
軋羽:ああっ、紫様……!
寅三郎:切ない話だな。
亜弥:紫さんの想い、無駄にはしません!
GM:では、セットアッププロセス。
軋羽:今度こそ《朱雀の眼光》(注18)を使うよ。対象は妙だ!
GM:「おぉ、怖や怖や。果たしてどれほど風を繰れるものか」
軋羽:「自分が覚悟を決めなければどうなるか、何を失うのかを嫌というほど気づいちまったのさ。――だから、本気で叩き潰させてもらうよ!」
GM:「させませぬよ」紫の顔がかすかに不快に歪む。セットアップで《地鎮祭》(注19)を使用。周囲に血煙が舞い、新たな糧に呼応して赤墨がざわめく。
寅三郎:俺は亜弥に対して《直衛守護》だ。
GM:セットアップ特技を使用する人はこれで全員だね。ではイニシアチブプロセス。
軋羽:一気に畳み掛けるよ、《天狗変》!
GM:こちらも妙が《天狗変》。
一同:おおお!? 
寅三郎:そうか、紫様の肉体は天狗か。

 軋羽の闘気に応ずるように、紫の背から腐臭を放つ羽根が伸びた。
 露わになった骨に赤墨が絡みつき、赤黒い皮膜を成した真紅の翼が空を舞う。


軋羽:「こんな形であなた様の天狗の姿を見ることになるなんて……」悲しいなあ……。
GM:「あはァァ、天狗の体は軽うてずいぶん扱いやすいわ」これで妙の【行動値】が26。ぐぐ、でも、これでも軋羽のほうが上なんだよな。
軋羽:先手は取らせないよ! マイナーアクションで《破滅の禍言:放心》(注20)。メジャーアクションで《頼むぜ相棒》(注21)。鎌鼬を呼び出して、妙とその周囲の赤墨2体に攻撃するよ。
GM:鎌鼬が嬉しそうに鳴く。「姉さん、随分と心配したんですぜ」「イラつく妖異じゃないですか、やっちまいやしょう!」
軋羽:「あんたたちにも心配かけちまったね。――行くよ!」達成値は21!
GM:ぐ、赤墨は両方とも回避失敗。妙も……失敗だ。赤墨Dが妙をかばう。
亜弥:軋羽さんから迷いが消えた……!
軋羽:亜弥を振り返って笑いましょう。「さっきは情けないところを見せちまって、悪かったね」
亜弥:「ううん、涼太郎を倒したくなかった気持ちは同じです。軋羽さんがあたしの分まで持って迷ってくれたから、あの時あたしは薙刀を振れたの」
軋羽:「亜弥、感謝してるよ。あんたのまっすぐな心にあたいは教えられた!」(ダイスを振る)ダメージは……よし!
GM:高っ! 出目が4以上ばっかりじゃないか!
軋羽:42点の〈斬〉。追加で放心だよ!
GM:防御修正を引いて、赤墨Cは34点、Dは倍の68点通る。
軋羽:ううん、一撃では無理か。
GM:「この……ッ、生意気な!」妙の攻撃だ。オートアクションで《晴明桔梗印》(注22)。《地を薙ぐ者》(注23)から《五行呪:水行》(注24)。空を舞い飛ぶ無数の赤墨の刃が君たち全員に襲い掛かる! 達成値は22。【抗魔】で判定せい!
亜弥:22っ!? クリティカルのみだー。(ダイスを振って)ううっ、当たった。
耀蔵:わしも失敗。この達成値だとほとんどの者はよけられそうにないな。
寅三郎:俺もだめですな。
軋羽:うう、あたいも無理だね。
GM:よし、全員命中か。では、ダメージの直前に《破滅の禍言・弐式:重圧》。
寅三郎:げっ、重圧まで来るか! このままだと全員やばいぞ。軋羽、奥義で引っ張ってもらえんか?
軋羽:あいよ、《不惜身命》(注25)! 渦巻く風ですべての赤墨を引き寄せるよ!

 吹き荒れる旋風が、赤墨を巻き取った。
 行き場を失った赤い刃は、風の根元に立つ軋羽へと一斉に突き刺さる。


GM:ぬうう、対象が軋羽1体になっちゃうか。仕方がない、軋羽に〈氷〉39点!
寅三郎:「すまんな、軋羽」
軋羽:「あんたがそんなこと言うなんてさ……ずるいよ」と、ゆっくりと立ち上がりましょう。覚悟状態!
GM:「忌々しい。おとなしく隅で震えておればよいものを」
軋羽:「もう震えているのはやめたのさ!」
GM:「間者風情がでしゃばりを! だからわっちはあんたが大嫌いなんだ!」
軋羽:(眉根を寄せて)「……あんた?」
寅三郎:ん?
GM:では、次の行動は亜弥だ。
亜弥:はい。マイナーアクションで妙に接近!
寅三郎:俺も《直衛守護》の効果で一緒に移動します。
亜弥:オートで《眩惑の巧み》。マイナーで《胸倉づかみ》(注26)からの《剛落撃》!
軋羽:その判定に《親分肌》だよ。行きな!
亜弥:ありがとうございます、(ダイスを振って)――達成値は19!
GM:妙の回避は18で失敗だ。くー、+2がなければよけてたのに!
軋羽:《親分肌》が効いてるねぇ♪
亜弥:《嵐の心》を使用します。6D6+攻撃力で……35点。
寅三郎:それに《挟み撃ち》で9点追加だ。
亜弥:じゃあ、合計で〈斬〉44点!
GM:妙は全身に張り巡らせた赤墨相当の入神の刺青で9点を相殺、35点が通る。そこで《一蓮托生》(注27)!「この……っ、小娘が邪魔をするんでないよ!」
亜弥:「〜〜〜〜っ!!」

 少女の四肢に赤墨が這い、激痛が走る。
 まるで半紙に墨が染み入るように、心が濁った赤墨に侵されるような感覚。
 赤墨に蝕まれた腕が、絡みつくそれを握り締める。


亜弥:「邪魔なのは……っ、あんた! 紫さんから出て行って!」赤墨を引きちぎって立ち上がります。覚悟状態!
寅三郎:おお、かっこいいな!
GM:亜弥が起き上がったのを見て、妙の顔が一気に喜色に染まる。「あヒァぁ、やはり、やはりあなたは英傑でしたか」
軋羽:なんだか、さっきから亜弥が英傑だってことにこだわりを持っているね。
亜弥:う、なんか試されてるのかな?
耀蔵:英傑を少しでも殺したいのか、いや、そういう素振りでもなさそうだな……。
GM:「ああ、ならば、ならば」妙の笑い声が闇夜に響く。赤墨Bがマイナーアクションで、鳥居と軋羽に接近。メジャーアクションで《自爆》(注28)
一同:《自爆》っ!!?
寅三郎:厄介な技を!
GM:うむ、先の戦闘では涼太郎がPCと同エンゲージにいたから使えなくて(笑)。今度は思う存分やれる、達成値は16!
寅三郎:当たると即死級のダメージが来るぞ。《弾き落とし》で達成値に−2だ。
軋羽:あたいは避けられたけど……鳥居様は?
耀蔵:わしは12で失敗。これは振り直そう。《名将の指揮》で……(ダイスを振って)ううむ……。
亜弥:鳥居様、出目が悪いです(笑)。
寅三郎:なら、俺が《防御支援》を飛ばしましょう。これで回避に+2です。
GM:それには妙が《漆黒の波動》(注29)を放って相殺だ。「させませぬよ!」
軋羽:もうこのタイミングで使える達成値操作特技は残ってないか。じゃあ《天を砕く者》(注30)を鳥居様へ。今度こそ。
耀蔵:(ダイスを振り直して)……13。
亜弥:あーん、妖怪“いちたりない”が出たー(一同笑)。
寅三郎:なんだそのかわいい妖怪は(笑)。
耀蔵:振り直しはあと1枚だけあるが……出る気がせんのでいざという時用に取っておくか。
GM:よっし、鳥居には命中だね。〈殴〉81点のダメージ! 赤墨が鳥居の身体にまとわりついたと思うと、全身を切り刻むように蝕んでいく。
寅三郎:「ちぃっ、鳥居様!」
耀蔵:全身を激痛が遅い、血が噴き出す。覚悟状態だ。「ぬるい、な」
GM:「おや、さすがは蝮の南町奉行。随分と頑丈でいらっしゃる」
耀蔵:「この程度、紫が受けた苦しみに比べればなんということもない」
GM:あぁン!(机を叩く)
亜弥:あああああっ!(机を叩く)
寅三郎:やめろ、落ちる!(飛び散るダイスを抑えながら)
耀蔵:「覚えておくがいい。あれが受けた苦しみは、貴様に万倍にして返そう」

 抑えた声色にかすかな険が滲む。
 場に居合わせたすべての者が、その下に潜む憤怒に身を震わせた。


亜弥:鳥居様が静かに怒ってる……。
軋羽:その姿を見ると、「この人もやはり人なのだな」と思ってしまうよ。
GM:まだ赤墨の攻撃は続くぞ。赤墨Aも鳥居と軋羽に接敵し《自爆》。この判定に妙が《式神使い》(注31)で+2します。
寅三郎:(渋い顔で)まずいな、戦術を誤った。《自爆》を使ってくるなら、俺は離れずに鳥居様を守るべきだった。
GM:うーん、でも出目が4だと微妙だ、振り直ししたいな。《天を砕く者》で……(ダイスを振って)ぶっ!? 3っ!!?
亜弥:わーい、GMだいすきー!(笑)
GM:えー……。……では紫の口から「いけませぬ」と、掠れた声が漏れ、赤墨の動きが鈍る。
寅三郎:いい演出でごまかそうとすんな(笑)。
GM:そうでもしないと悔しいでしょ! 達成値は15だ。
耀蔵:それでもわしは9以上でないと回避できんな。《出端挫き》で赤墨の達成値に−2しておこう。
軋羽:あたいは回避成功です。鳥居様は?
耀蔵:(ダイスを振って)ううむ、やはり出目が悪い。《天賦の貫禄》を使用して……よし、同値で回避だ。
GM:「へえぇぇ、あぶない、あぶないねえ」妙が《死神の嘲笑》(注32)で鳥居のダイス目を−1。これで当たるだろう!
軋羽:えええー!
寅三郎:マジで!?
耀蔵:うーん、振り直し系は全部使ってしまった。回避はできんか。
GM:81点、〈殴〉だ。「甲斐守様、今度こそ闇に沈んでいただきましょうぞ!」
耀蔵:赤墨に全身縛られて、血の海に沈んでいく。
軋羽:「鳥居様!」
寅三郎:しかたがない。では、鳥居様に《起死回生》。
耀蔵:ガッと腕をついて、血まみれの顔で立ち上がります。目だけがギラギラと輝いている。「…………」
亜弥GM:〜〜〜〜っ!!(荒ぶる息遣いと机を叩く音)
軋羽:ふたりとも……(笑)。
寅三郎:(手をパンパン叩いて)はーいはいはい、次だれだー?
GM:ま、まだ赤墨Cが動けるよ! でも軋羽の攻撃で放心くらってるんだよなあ。
軋羽:放心は全ての行動に-5だね。いいよ、攻撃をしてごらんよ、ほらほら(笑)。
GM:うーん、まともに当てられなさそうなので赤墨Cは待機、カバー要員として残しておこう。妙が《疾風怒濤》(注33)、《広大無辺》(注34)を乗せて対象は全員だ。「随分と生き汚のうございますな。ならば、わっちも近隣の手駒は全て使わせていただきましょう」
寅三郎:げーっ、しつこいぞ、妙!

 奉行所の内から外から、中身の詰まった血袋の破裂する鈍い音が響いた。
 次々と飛来する赤墨が空を赤く染め、夜闇を覆う無数の刃となって降り注ぐ!


亜弥:うわあん、どうしよう!
寅三郎:《疾風怒濤》を《妙計奇策》(注35)でファンブルにしよう。《広大無辺》は差し戻しになるが、それが安全だ。
耀蔵:そうだな、では《妙計奇策》。わしに絡み付いている赤墨をぐっと引くと、紫の腕がぐるっと回って落ちて来る血の刃の軌道が反れる。
GM:紫の顔が驚愕に歪む。「まさか、躯を操るだと?!」
耀蔵:「紫とわしが、どれほど近しいと思っておる。そなたは、操り人形にする者を間違えた」
GM:「ちょこざいな。そのようなこと、我が殿様の前では何の価値も持ちませぬ! 持ちませぬえェェァああ!」妙の《疾風怒濤》はファンブルになり、行動終了でございます。次は寅三郎だ。
寅三郎:俺はまともに斬るよりも秘剣の発動を待つとするか。待機だ。
GM:くっ。
耀蔵:次はわしの番か。マイナーアクションで移動。石蕗に庇われることのできるよう、妙のエンゲージに向かおう。いつも通りの足取りで進んでいきます。
GM:(眉をひそめて)「なんのつもりですかえ?」
耀蔵:「わしが妻の元に来るのに、何か理由が必要か?」
GM:「あはアァ、白々しいことをおっしゃいます、鳥居甲斐守ともあろうお方がそんな玉でもあるまいに」
耀蔵:それには答えず、「亜弥、頼みごとがある」
亜弥:「はい」
耀蔵:「……解放してやってほしい」メジャーアクションで亜弥へ《緊急指令》。
亜弥:「言われなくても!」薙刀を振りかぶって、《眩惑の巧み》から、いつものコンボで妙を攻撃!「大丈夫です、だからなにも心配しないで、鳥居様!」
耀蔵:確実に赤墨を落とそう。《軍神の気》で攻撃を範囲に。
亜弥:(ダイスを振って)えと、出目が6と2だったので、【特徴:混沌の運命】を使用して片方だけ振り直します。クリティカル値は9だから……えいっ(ダイスを振って)クリティカル!
GM:げーっ、まじで!? 妙も赤墨も避けられないよ!
亜弥:ダメージロールで《嵐の心》を使用。〈斬〉31点!
GM:そ、それは妙が《不惜身命》! 対象を妙ひとりに変更、30ならまだ耐えられる!
寅三郎:亜弥、それなら《一刀両断》(注36)だ。一気に押せ。
亜弥:はい! 《一刀両断》を使用して……(ダイスを振って)あ、わりと高い!
軋羽:いいねいいね。亜弥が確実に成長している♪
亜弥:74点の〈神〉ダメージになりました! 《胸倉づかみ》が入っているので、狼狽もくらえー!
GM:ぎゃーっ!!

 白銀の一撃が赤墨に乱れた闇を縫って走る。
 それは針の目を穿つように、ただひとつの迷いもなく、紫の心ノ蔵をつらぬいた!


GM:「あヒァ…あははァ、ずいぶんと、甲斐守に飼いならされたものですねえ。陰日向と世話をした女に、これほどまでも迷いなく刃を振るうとは」
亜弥:「違う、決して、あいつに飼いならされてるわけじゃない!」
GM:「ならばなぜ邪魔をなさいますか。弥八の仇が没落する様を見ることができれば、あなたもさぞ胸がすきましょうに」
亜弥:「いくら憎くたって、愛する人を失って悲しむ人が居ていいわけがない! 言ったでしょ、これは紫さんを救うため。それに、兄ちゃんの本当の敵は別にいるんでしょう!」紫さんの奥にいる妙をにらみつける!
GM:「あヒァ……あなたはやはりまごうことなく英傑ですねえ。あははヒハあぁぁァ……」妙は心底嬉しそうに笑う。
亜弥:くう、だから、英傑英傑ってなんなの!
GM:これで行動値は0までカウント終了か。では、待機している組の行動だ。行動値の低い順に行動だから、寅三郎からだね。
寅三郎:秘剣発動のチャンスはなかったか。まあいい、うまくいけばこのまま殺れるかもしれん。妙に《平晴眼》から《片手平突き》。達成値は18!
GM:妙は回避を――(ダイスを振って)ぐっ、妖怪いちたりない……。軋羽から《朱雀の眼光》くらってる分が効いた……!
軋羽:やった!「もう逃さないよ!」
寅三郎:よっしゃ! ダメージは〈斬〉24点!
GM:9点の防御修正引いて13点が通しか。紫は全身から血を流し、ところどころ制御を失った部位が、糸の切れた人形のようにぶらぶらと揺れている。
耀蔵:終わりが近いか。肉体は紫の躯だからな。耐久力はあまりないのかもしれん。
亜弥:紫さん……。これ以上、こんな姿にはしておけない。早く終わらせてあげなきゃ。《驚天動地》(注37)を使用、対象は妙のエンゲージ!

 再び亜弥の薙刀が風切りの唸りを上げ、赤墨を薙ぐ。

亜弥:《嵐の心》に《反骨精神》で13点。妙には《武曲星の光輝》の効果で20点!
GM:「痛い、痛いねえ……」にやにやと笑みを浮かべながら、妙が傷口を指で抉る。
亜弥:ううっ、まだ倒れない!
GM:「その忌々しいさかしさ、実にけっこうでございます。しかし、そろそろ引いていただけませんと、この女の身体が持ちませぬ」
亜弥:「あなたが紫さんを開放するまで、あたしはこの薙刀を下ろしなんかしない!」
GM:「しかし、わっちの機嫌を損ねては、せっかく掴みかけた弥八の話、聞き出すものも聞き出せませんよ?」
亜弥:「〜〜〜っ! ひっ、卑怯者っ!」
寅三郎:では、それを見ながらぼそりと呟く。「つまらんな……」
GM:妙が愉悦の顔で振り返る。「あハァ……なにが、ですか?」
寅三郎:「妙、実に貴様はつまらん。何も賭けていないし、何も背負っていない」
GM:「まあ所詮、この女の体も借り物ですからねえ」
寅三郎:「違う。お前はその女の重さをわかっていない」
GM:「いやあ、ずいぶんと重用な、役に立つ女でありましたよ?」
寅三郎:(悲しそうに)「貴様も薄っぺらだ。俺が求めていたのとは違う」覇気のない殺気が辺りを取り巻く。「……だから、貴様はもう死んでいい」
軋羽:寅三郎、あんた……。
GM:妙が不快な表情を露にする。「わっちが薄っぺらだって? わっちの忠誠は何物にも勝る至極の志ですえ。信条もなにもないただの人斬りに、何がわかるというのですか!」
寅三郎:「わからなければそれでよかった。それがわかるから不幸せなんだ。……だから探している。俺を埋めてくれるものを」
GM:「なら、わっちが埋めてやりましょう、あんたの黄泉への路石をさぁ!」妙が《粉骨砕身》。《晴明桔梗印》に《地を薙ぐ者》からの《五行呪:水行》。《広大無辺》に《秋霜烈日》(注38)を使用、対象をシーン(選択)にして移し変え不可、達成値は22だ!
亜弥:いやーっ!
寅三郎:大盤振る舞いだな。《秋霜烈日》を潰してもらえるか、そうすれば鳥居様は俺が庇える。
軋羽:ああ、《破邪顕正》(注39)。「やらせはしないよ!」
GM:「邪魔だよ、軋羽あァァぁっ!」その《破邪顕正》を《破邪顕正》で打ち消し!
軋羽:ぐっ、風がはじかれたか。どうします?
耀蔵:各々、復活奥義はまだあるか。ならば、ここは通しておこう。
軋羽:(ダイスを振って)……だめだ、当たった。《金城鉄壁》を使用して自分のダメージを0にするよ。
亜弥:あたしも避けられなかった。《金城鉄壁》を使ってダメージを消します。
耀蔵:わしもだめだな。
寅三郎:失敗だ。
GM:鳥居と寅三郎にダメージが通るか。 あれ? もしかして……。
亜弥:秘剣タイムがはーじまーるよー♪(一同笑)
GM:くっ、ダメージは134点!「逝っちまいなさいなァ!」
耀蔵:《天佑神助》を復活用に、石蕗の《起死回生》に使っておく。そして《千変万化》で《一蓮托生》!

 襲い来る赤墨を潜り抜け、鳥居の左腕が伸びる。
 赤い濁流を放つ紫の腕を掴むと、力を込めて抱き寄せた。


GM:(机に突っ伏しながら)ふ、ぐッ…………。「……な、何、を…………っ……」
亜弥:しっ、しっかり、し、う……ッ(悶え倒れる)。
寅三郎:一蓮托生のダメージが違う方向に被弾したぞ、オイ(笑)。
軋羽:死屍累々だねぇ(笑)。
GM:(ヨロヨロと起き上がりながら)ひゃ、134点が返ってくるか。通したら跡形もなく死ぬ……。妙が《天佑神助》で《破邪顕正》を復活させて、《一蓮托生》を打ち消そう。「なにを馬鹿なことを!」叫ぶ紫の顔から涙が再び流れ落ちて。
耀蔵:「間に合わずに、すまなんだな」そのまま紫を刺し貫こうとするが、赤墨に弾かれ、崩折れる。
亜弥軋羽:鳥居様あぁぁーっ!!
GM:「殿様、殿、様……」途切れ途切れに紫の声が絞り出される。
寅三郎:……俺は秘剣を打つぞ。《一気呵成》を消費。
GM:来たか。こちらの《破邪顕正》はもうない。どうぞ!
寅三郎:「――――秘剣、黄泉返し(注40)!」崩れ落ちる鳥居様を貫いて、妙を刺す!
亜弥:「石蕗さんっ、鳥居様を!?」
GM:「まさか、主君を囮にする気か!?」
寅三郎:「勝つためなら、な」
軋羽:「寅三郎……あんたって男は……!」ぞわりと鳥肌が立ちます。
GM:妙のリアクションは自動ファンブル。しかし、残っていた赤墨Cが妙をかばう。
軋羽:ああっ!
寅三郎:しまった! もう一匹残っていたのか!
GM:妙が笑い、庇った赤墨が散る。「見たぞ見たぞおォぉ、黄泉返し!」

 血に沈む鳥居を見ながら、妙が愉悦に笑う。
「そして、そしてとうとう鳥居を討ち取りましたえ! これで今度こそ、殿様もわっちのことを認めてくれましょう。 これでもう、あの軋羽なんて年増なんざ使わなくったってねえェぇ!」


寅三郎:ん、軋羽を知ってるのか?
軋羽:(顔が引きつっていく)「やっぱり……。あいつもわっちって言っていたんだ……あたいのことが気に入らないってのもね」
亜弥:「軋羽さん、何を……?」
軋羽:「妙、あんたもしかして、まさか……!」
寅三郎:どうした? 俺は覚悟状態になって、鳥居様に《起死回生》を打ちます。
耀蔵:「あとは、あれひとりか」と言って立ち上がる。
寅三郎:「すみません、殺りきれませんで」
耀蔵:「いや、かまうまい。これであやつをかばうものは居なくなった」
GM:「甲斐守いィィ、まこと、蛇のようにしぶといおかたですえ」妙の顔が忌々しげに歪む。第二ラウンドに突入だ!


■第二ラウンド



GM:では第二ラウンド目です。
寅三郎:確認しておこう、俺たちの奥義は何枚くらい残ってる?
耀蔵:全員なしだな。
GM:おお、カツカツだね。実はこっちももう攻撃奥義しかないんだ。
亜弥:妙が動いたら、誰かが死んじゃう……?
耀蔵:命運を分けるは、妙より早く動ける軋羽か。
軋羽:「ええ、やってみせますよ」妙にもう一度、《朱雀の眼光》。

 暗闇に爛々。一対の金目が妖異を見据える。
 しかしその目には、一度は去った戸惑いが再び蘇っていた。


GM:「嫌な目でねめつけてくれますね。ああ、忌々しい魔縁の目だ」
軋羽:「あんたに確かめなきゃいけないことが、できちまったからね」《破滅の禍言》に《頼むぜ相棒》で妙を攻撃するよ。出目は……ううん、5かあ。
耀蔵:《名将の指揮》だ、振り直すがよい。
軋羽:ありがとうございます。(ダイスを振り直して)……ぐぬぬ、下がっちまった。
耀蔵:《天賦の貫禄》だ。ここは確実に当てねばならん。
軋羽:(ダイスを振り直す)よし、だいぶ上がりました。これで19で命中だ!
GM:妙が《漆黒の波動》を使用。軋羽の達成値を17に下げる。
軋羽:く、妙の回避に《撃滅者》。少しでも当てる目を高めるよ。
GM:妙の出目は7。+2すれば回避か。《式神使い》!
耀蔵:ならば《出端挫き》で相殺だ。
GM:「えぇい、邪魔な!」《天を砕く者》で振りなおして……っ!(ダイスを振る)
亜弥:(おそるおそる)あ、当たった……?
GM:《式神使い》と《出端挫き》が相殺。さらに《朱雀の眼光》がかかってるから……(計算して)ぐ、回避に1、足りない!

 眼光が、剣気が、その動きを鈍らせた。
 鎌鼬を共に携えた旋風が、目を見開いた紫の身体を切り裂く。
 赤墨がその形を留める事もかなわず、飛沫となって散っていく。


GM:「よくも、よくもおォぉぇァあ、あァアああああ、わっちの邪魔をォッ!!」
軋羽:「さっきからずっと気になってたんだ。……あんた、今日はいつもの烏はどうしたんだい?」
寅三郎:烏、だと?
亜弥:……あ、前回の軋羽さんのエンディングに出てた、連絡役の!
軋羽:そう、キレた時の口調がそっくりでね、ずっと引っかかってたんだ。「あんた、もしかして……、あんたの殿様って……!」

 紫の顔が耳まで裂けるような笑みを浮かべた。
「あヒァ……あひはははあァァ……」
 怒声を含み上がる狂笑。千の刃のごとき暴風にその全身が切り裂かれていく。
 赤墨がびしゃりと力なく落ちる音と同時に、唐突に、忌まわしい笑いは途絶えた。




エンディング

■エンディング01 血風の再会  ――――シーンプレイヤー:石蕗寅三郎

 紫の体は少年の時と同じように、ふいに糸が切れたように落ちた。
 彼女を操って大罪を犯していた妖異、妙はまだ無傷でいずこかに潜んでいる。
 寅三郎は、妙を追って動く本庄たちの元へと走った。


GM:では、エンディングに参りましょう。最初は寅三郎のシーン。紫との戦いの後、別働隊で動いている本庄のもとへ君が駆けつける、という展開にしたいのだけどいいかしら。
寅三郎:了解だ。紫様はどうなった?
GM:赤墨が解けると同時に、紫は動かなくなる。歪んだ笑みに崩れていた顔も、元の穏やかな表情へと戻っていく。
亜弥:うう……でも、これで紫さんの魂は救われたんだよね。
軋羽:ああ、きっとね……。しかし、あたいの頭の中にはずっと、さっきの妙の笑みと“殿様”って言葉が響いている。
耀蔵:やはり身体を捨てて逃げるか。「石蕗、本庄と連携してあやつの本体を叩け。そう遠くにはおるまい」
寅三郎:「はっ」刀を血払いして駆け出そう。

 空には天狗勢が展開し、正門での激闘は把握されていた、はずであった。
 しかし、空に羽ばたきが聞こえることはなく、代わりに奉行所の塀の向こう側から、刀の音と悲鳴が響いている。


寅三郎:「妙の本体と交戦中か!?」そっちに走ろう。
GM:君が駆けるその先、塀の向こう側から男の声がする。
亜弥:男……?

「鳥が三十八……、三十九…………」
 虚ろな呟きが発せられるたび、鈍い音と断末魔が上がる。
「若造が、飄々と……ッ!」
 本庄の怒号と共に殺気が空を走った、刹那。
「秘剣――――終の比良坂」
 新たな血が吹き上がるのと、寅三郎が木戸を蹴り開けるのは同時であった。


亜弥:ああーっ、本庄さんがー!
寅三郎:「…………ッ!」

 血溜まりに倒れふす本庄の姿。
 その傍らに立つ、返り血のひとつない若い男。
 二十代中頃だろうか、すらりとした体躯に端正な面立ち、光を映さぬ虚ろな瞳が、足元に転がる無数の敗者を見つめている。
「――――辰、一匹」





寅三郎:「貴様……」
GM:その男の顔に、寅三郎は見覚えがある。
寅三郎:なに!?
GM:この時代ではない。君がかつていたあの血風の中で、幾度か合いまみえたことのある顔だ。
一同:おぉお!?
耀蔵:幕末の人間か。これは、また……。
GM:男は君の顔を見て、目を細める。「黒衣衆には虎が二匹いると聞いていたが……。黄泉返しの寅三郎、やはり貴公か」
寅三郎:(眉間に皴を寄せて)「おい、俺の獲物に手を出して、ただで済むと思ってるんじゃねえぞ」
GM:「獲物……?」
寅三郎:「そうだ、俺たちの世に“護持院ヶ原仇討”の主役で知られた本庄辰輔、俺が殺すに足る相手だった」
GM:「しばらく見ぬうちに、ずいぶんと牙を剥くようになったな」
寅三郎:「誰だ」

 血だまりを踏みしめながら、男は寅三郎へと向き直る。
「阿良々木新造。――――この化政の世に新時代を築く、維新の志士だ」


耀蔵:秘剣使いの維新志士か!
亜弥:あれ、阿良々木ってどこかで聞いた事あったような……?
軋羽:あっ、最初のあたいのオープニングで大久保様のところにいた護衛ですよ!
寅三郎:なるほど……。「まあ、貴様の闇がどれほどかはしらんが、本庄の代わりにはなるんだろうな?」
GM:阿良々木は汚れた物を見るように君を見て、顔をゆがめる。「淀んでいるな。敗北を重ねて誠を忘れ、人斬りに堕ちたか。ならば、今ここで斬るも情け……」彼は数多の奥義を抱えながら、鞘に収まった刀に手をかける。
軋羽:数多の奥義って(笑)。
亜弥:いやーっ、石蕗さん逃げてー!
寅三郎:「やめておけ。今の俺は弱いぞ」
GM:「……む?」阿良々木の手が止まる。
寅三郎:荒い息をつきながら傷だらけの身体で、「妙との戦いで疲れきり、立っているだけのぼろ雑巾のような男だ。そんな奴を斬ってもつまらんだろう。見逃せ」

「――――そして、互いが万全の状態で殺しあおうじゃないか」
 にたぁ、と寅三郎が笑う。
 その死んだ魚のような目を、男は虚ろな目で見つめた。
 路地に血生臭い風が吹く。
 しばし。
 その虚ろに微かな光が灯り。


GM:「……よかろう」と、阿良々木は刀を鞘に納め、すっと後ずさる。
寅三郎:(息をつきながら)「悪いな」
GM:「ならば、しかるべき時に相まみえようぞ」阿良々木は夜闇に染み入るように消えていく。《神出鬼没》(注41)を使って退場します。
亜弥:た、助かった……。

 白壁を汚しながら路地に散らばる数多の天狗。微かに息を繋いだ者の呻き声だけが、血煙に淀んだ闇に響いている。
 奉行所の中から幾人もの足音が聞こえてきた。じきに、一足遅い増援が到着するだろう。
 寅三郎は普段の顔に戻ると、血溜まりに沈む本庄を見た。
 視界がかすむ。


寅三郎:「すまん、本庄、殿…………」

 一言を搾り出すと、寅三郎は苦痛に顔をゆがめ、折り重なるように倒れ伏した。



■エンディング02 汚れた血墨  ――――シーンプレイヤー:軋羽

 紫の遺骸は丁重に秋葉原の屋敷へ運ばれた。涼太郎は役宅で一命を取りとめ、妙を捜していた別働隊は、何者かと交戦し敗北したという。
全ての事様が耳の外で響いていた。戦闘で傷ついた身体を存分に癒したいと、亜弥の引きとめも断り、軋羽は自身の長屋へと戻っていた。
 ひとりになりたかった。それに、大久保古河守の使者に、改めて問い詰めねばならぬことがあった。


GM:では、軋羽のエンディングだ。君は戦いに疲れた身体を引きずって、身体を休めに長屋へと戻ってくる。
亜弥:軋羽さん、無理をしないで……。
軋羽:……ボロボロのまま、足袋も脱がずに布団の上にどさりと倒れ込もう。

 長屋の窓際に、黒羽艶やかな烏が止まっている。
「満身創痍でございますね」
 烏は丁寧な口調の裏に憤懣を滲ませながら、軋羽に声をかけた。


軋羽:「……あんただったんだろ?」
GM:「途中でわかっていたのなら、なぜ邪魔をなさいますか」
耀蔵:やはり、妙であったか。
軋羽:「あたいが受けた任は、鳥居のもとに潜り込むことだろう? きっちり黒衣衆として任を果たしたまでさ」
GM:ぶち、ぶちっ……とどこからか異音がする。「あの娘、英傑ではないですか。なぜ今まで報告をしなかったのですか?」
軋羽:「少なくとも、あたいが見たときには、あの子にはまだそのような素質はなかったんだよ」と、嘘をつくよ。「今回の戦いでそれがわかった。そういうことさ」
GM:烏の体に赤い血管が走りはじめる。「あんたが、あんたごときが、どうこう判断できるものではないのよ! ただ従順に報告だけしていればいいものを! それを!」
亜弥:うわあぁ。
軋羽:「そういうあんたこそ、自分で策を巡らせてはあんな結果しか残せなかったんじゃないのかい」
GM:「黙れや! 我が殿様から重大なお役目をもらったからっていい気になるんじゃないよ!」
軋羽:「そうさね、おかげ様であたいのお役目も、もう危ういよ」
GM:「あヒァッ、ざまあみろさ! あんたはろくにお役目すら果たせないんだ。そうさ、わっちのほうが我が殿様の……大久保様のお役に立てるんだ。あんたなんかただの捨て駒さ!」
軋羽:「そうさ。あたいは捨て駒だよ」

 傷の痛みをこらえながら、軋羽は身を起こして烏を睨みつけた。
「だけど、捨て駒のあたいにも守るべきものがあるんだよ。それを、教えてくれる人がそばにいるだけでも、アンタのようなヤツより数倍マシさ」


GM:「あはァア、守るべきものたぁ、あの涼太郎とかいう童子かい? 亜弥の嬢ちゃんかい? それとも鳥居甲斐守かい? 何にかまけようが知ったこっちゃないが、駿河のガキどもの命を握られていることを忘れるんじゃないよ!」烏の体がボコボコと内側から膨れ上がっていき、周囲を赤墨が陽炎のように立ち昇る。
軋羽:「…………わかっているさ。あんたも今回の顛末、ちゃんと大久保様に全て伝えておくれよ? あんたは鳥居に出し抜かれて、あたいは間者の任をやりおおせましたってね」
GM:「黙れゃあアァぁッ!!」

 罵声と共に、烏が内側から弾けとんだ。
 辺りが再び静寂に包まれる。
 軋羽が視線を落とすと、畳に散らばった覚書きの半紙を、臭気を放つ肉片と赤墨が汚していた。


軋羽:「大久保様、あの方はいったい何を求めておられるのか……」清書しようと書きかけていた半紙を見下ろします。そこには「自分は今、江戸に来ていて、小さな座敷で、歌を歌って金を稼いでいます。それをあんたらにおくるね」という内容が書かれている。それをぐしゃぐしゃに丸めてしまう。
亜弥:ああっ、そんな……!
軋羽:「お笑いだね……。あたいがやってきたことは妖異の尖兵ってことじゃないか。結局、本当に守りたいものを守っていたのかね……」

 丸めた半紙を隅に放ると、軋羽は再び布団へ倒れこみ、泥のように眠りについた。
 守ろうとしたものは守れたはず、であった。だが、再び淀んだ心は晴れなかった。




■エンディング03 文字なき想い  ―――シーンプレイヤー:亜弥&鳥居耀蔵

GM:次は鳥居様のエンディングにしようと思うのですが、何か希望はありますか?
耀蔵:そうだな……(考えながら)紫と本庄が倒れた今、江戸天狗との折衝をする者が不在になってしもうた。今後の展望も含め、江戸天狗の上にいるものへ、一度話をせねばならん。
軋羽:おぉ!? 一時江戸を離れるんですか。
寅三郎:このあたりの天狗の総本山だと、愛宕山ですな。
耀蔵:ならば、まずは状況を報告しに、紫の遺体を連れて愛宕山に向かうこととしよう。ただ、ひとつ亜弥に渡したいものがあるのだがどうすべきか……。
亜弥:じゃあシーンに出てもいいですか。あたしも鳥居様に言いたいことがあって。
GM:なら、合同エンディングにして、鳥居耀蔵と亜弥が話すシーンにしましょうか。

 秋葉原屋敷の裏門に荷車が止まっていた。
 一見解らぬように偽装された荷台の中には、紫の遺骸が収められている。
 鳥居耀蔵が数人の護衛を連れ、愛宕山へと発つ朝。
 見送りに出た亜弥は、箒を片手に裏門の袂にたたずんでいた。


耀蔵:「此度、大儀であったな」
亜弥:「ひと月という短い間だったけど、あたしも紫さんには大変お世話になりました」
耀蔵:「葬儀に参列させてもやりたいが、只人では連れて行くわけにもいかぬ」
亜弥:「わかってます」……あのね、本当は一か月の間に一度、鳥居様か紫さんのどちらかに、相手のことを愛しているのか聞きたいような気がしていたの。
軋羽:愛しているか?
亜弥:この人はとっても怖いし、憎らしかったから、だからなんで紫さんは一緒だったのかなって。契約だからつき従っていたのかとか、反対に鳥居様はどう思ってたのかなって、何度も思ってた。
寅三郎:それを鳥居様に聞くのか?
亜弥:ううん。妙と戦っていた時のふたりを見て、その質問は馬鹿だったんだな、って思ったの。だから。「紫さんのこと、よろしくお願いします」
耀蔵:「うむ」いつもと変わらぬ表情でうなずいてから、「そうだ、そなたに渡すものがある」と言って、懐から小箱を取り出して、亜弥に渡そう。
軋羽:小箱?
亜弥:「これ、なんですか?」箱を開けます。

 木箱の中には、水鳥の羽で作られた一本の羽ペンが入っていた。

亜弥:「これ……」ペンって、筆じゃなくて、蘭学の?
耀蔵:「紫に頼んで作らせていたものだ。実際に作ったのは花井だろうがの。筆では、蘭語は書きにくいだろう」
亜弥:「あ……ありがとう、ございます!」
耀蔵:「骨を折ったのは紫だ」
亜弥:じゃあ、箱ごとぐっと抱きしめる。
耀蔵:「そなたは読み書きができて、その上蘭語も読める。もう少しで書けるようにもなるだろう」
亜弥:(ぎゅっとしたままで)「……はい」
耀蔵:「軋羽も、そなたに字を習いはじめたようだな。様子はどうだ?」
亜弥:「はい、簡単な手紙でしたら、書けるようになってきたみたいです」
耀蔵:少し長くなるが、話をはじめよう。「……わしはな元々、林家という家の出だ」

「林家は、この国の『文』の部分を司る。本来ならば、この国で読み書きができない者がいるということは、家の恥なのだ。幕府が出来上がって以来、文治をこの国に広めんと、我らは尽力してきた」
 めずらしく饒舌に紡ぐその言葉に、亜弥は静かに耳を傾ける。
「しかし三百年を経てなお、まだそれは隅々まで行き渡っておらん。成し遂げられたものは数少なく、世相はきな臭くなっておる」


耀蔵:「文字はな、それを書けばどんなに遠いところにいる人とも、心を通わすことができる。そなたは蘭書によって、遠い異国にいる人間の考えていることを知ることができるであろう?」
亜弥:「はい……」

 亜弥は、軋羽が楽しげに筆を進める姿を、それをいつかであろう読む子供たちの姿を想った。
 初めて兄から蘭書を与えられた時に見た、無限の世界を想った。


耀蔵:「紫は、わしが文治を広めるための手伝いをしておった」
亜弥:改めて羽ペンを見つめます。その中に込められた紫さんと……この人の想いを感じつつ。
耀蔵:「……亜弥よ、兄は好きか?」
亜弥:それには迷いなく答えます。「うん。兄ちゃんはあたしに、いろんなことを教えてくれました。あたしがわからないことでも、ひとつひとつ丁寧に。とっても自慢で大好きな兄ちゃんです」
耀蔵:「兄への想いを言葉にしておったか?」
亜弥:「全部言葉にできていたかはわかりません。でも、あたしが笑えば兄も笑った。全部が言葉にならなくても、兄はわかってくれていたと思います」
耀蔵:「わしはな。紫にはそうしたことを伝えなかった」

 亜弥は顔を上げて目の前の男を見た。
「近しいと思っておったし、実際そう感じてもいた。だが、伝えられんようになってから思うのだ。口に出して言っておけば、文に書いて、見せておけばよかったのではないかと」
 それは、蝮の見せた気弱であった。


耀蔵:「わしは、そなたに謝らねばならぬ。そなたも兄に伝える機会は、これからいくらでもあったであろう。しかし、わしがうばってしまった」
亜弥:〜〜〜〜っ! じゃあ、思いっきり跳ね上がって、鳥居様の頭をバシッと叩きます。「あんたがそう言うなんてずるい!」
寅三郎:おお、叩いた(笑)。
耀蔵:「謝罪は、いらなんだか」
亜弥:「違う、あたしに謝るほうじゃない! 伝えておけばよかったとか、伝わってなかったんじゃないかとか、そういうことを今言うのはずるいです!」
耀蔵:では、少し目線を外して空を見上げる。
亜弥:戦闘中に感じた紫さんの気を思い出しながら、「もし何も伝わっていなかったなら、紫さんはああしてあたしたちを守ってくれなかった。本当に紫さんがあなたのことを愛していなかったなら、多分身体だって保っていなかったと、思う」
耀蔵:もし愛していなかったら、か。「……そう、感じさせたか」
亜弥:「言葉にしないとわからないことはあると思う。でも、言葉の外で伝えられることもあります。だから……それも信じてください」
耀蔵:「信じておらなんだ訳ではない。解らずにいた訳ではない。そういう訳ではないのだ……」苦笑をして亜弥へ向き直り、その頭を撫でよう。
軋羽:解っていても、言わずにはいられなかったんだねえ……。
亜弥:「前に、紫さんが言ってたの。鳥居様のすることは厳しいけど正しい事だって。今ならちょっと、わかるんです」

 兄を斬ったことは許せなかった。
 しかし赤墨の妖異と対峙した今は、それが必要な処断であったのだと、嫌というほど解ってしまった。
 おそらく、妙に操られていた兄は既に死んでいて、その凶行を止めるには斬るしか方法はなかったのだと。
 たとえその決断が真実を知らずに出たものであっても、それは嘘でも、横暴からきたものでもないということを。


亜弥:「……だから、謝らないでいいです。むしろもう、あんたには謝られたくなんかない」撫でられたままで、鳥居様をにらみます。
耀蔵:「そうか……。少し気弱になったようだ、許せ」
亜弥:「大切な人が亡くなったら、誰だって気弱になるのは当たり前です。だから!」紫さんの棺桶が乗っている荷台のほうに、ぐいぐいって背中を押していく。「あとは、紫さんのために心を使って!」

 小さな両手が力強く背を押す。
 ひとつ息を吐いて、鳥居は背を正した。


耀蔵:「留守は、ここにいる者たちに任せる」
亜弥:(微笑んで)「言われなくても!」

 亜弥の見送る目線の先。その日、紫の眠る荷車と共に鳥居は江戸を経った。
 主の居なくなった部屋に吊るされた風鈴が響き、夏近い空に吸い込まれていった。




■エンディング04 闇夜の雷光  ――――マスターシーン

GM:最後に、次回へと続くマスターシーンをひとついたしましょう。

 それは何処ともしれぬ闇の中。辺りには淀んだ妖気と血臭が漂っている。
 時折、パチ、パチと火花の爆ぜるような音の合間、ぶつぶつと呟く女の声がひとつ。
「あの年増が生意気だ、生意気なんだヨオォォお! わっちのほうがわっちのほうが大久保様のお役に立てますのに、あのでしゃばりが余計なことをしなきゃしなきゃああァあア!!」


亜弥:あっ、妙だ。あいつ〜っ!
軋羽:胸糞が悪いね……、次はただじゃおかないよ。

 あちこちで憑代と思わしき血袋の弾ける音が響く。
 その合間に加わるひとつのため息。ふたつの影。
「随分とみっともねえ姿を晒したもんだなぁ、オイ。阿良々木の旦那が助太刀に入らなきゃあ、今頃は蝮に噛まれて御陀仏だぜ。なあ?」
「…………」
 長身の影が呆れた声で同意を求めた。
 もうひとつの影は答えない。


寅三郎:ん、黙ってる方は阿良々木か?
耀蔵:長身の男は聞き覚えがないな。まだ、新たな敵がいるか。

「わっちの何が悪いと、何か足りないとでも言うんですかえ!」
「妙、お前は一時の感情で動きすぎなんだよ。弥八の件だってそれで失敗したじゃねえか」
「黙りやァあアア!」
 新たな血袋が連鎖して爆ぜる。
「まぁ、落ち着けよ。亜弥が英傑だってわかったのはめっけもんだ。このまま俺様の大計画を進めりゃあ、お前の失態も十分取り繕えるだろうよ」
 憤怒に息を切らしていた妙の声は、流れるように粘ついた笑みへと変わる。
「あヒァ……あははヒィいぃぇぁあ……。随分と兄さんお優しい事ですねえ。ほんに、恩に着ますよ」
「ま、同じ小伝馬町の臭い飯を食ったよしみだ、ちっとはケツをぬぐってやらねえとな」
 長身の影が動いた。かすかな金属音と低い笑いが漏れる。

「さぁて、亜弥。計らせてもらおうか。兄貴はお前に何を遺した、か」

 瘴気に淀んだ闇の中、雷光が火花を散らした。



南町黒衣録 赤墨乱舞 完

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南町黒衣録 第三話「雷卵招来」第一幕へ続く